一生のお願いですよ


クリスと付き合ってから2ヶ月の月日が流れた
あれからビックリするほど

何もない


「ナナ」
「クリス」

ナナの部署へとクリスがやって来た
付き合いだしてからクリスはよくこうしてナナの所へ来てくれる

「今夜早く終わりそうなんだ…そっちは?」
「私も大丈夫よ」
「そうか……よかったら今日俺の部屋に来ないか?」

ドキッ、と心臓が鳴った
こういう展開は初めてだったからだ
クリスからの誘い…もしかしたらという事も考えたら恥ずかしかったがナナは頷いた
それを見たクリスはまた、と言ってその場を去った
クリスを見送るナナに同僚たちがやってきた

「ちょっとナナ!よかったじゃないお誘いが来て!」
「え?」
「もう鈍いわね!付き合って2ヶ月なんでしょ?そろそろそういう展開が来るんじゃないの〜?」

同僚の言葉にナナは顔が赤くなった
自分でもちょっとは考えていたが同僚に言われるとますます恥ずかしくなってしまう

「どんなんだったか教えてね」
「もうっ!」


その夜
クリスのアパートへとやって来たナナ
上着を脱いでソファーに腰をかける。ドキドキしながらクリスの部屋を見渡す
クリスはキッチンからコーヒーの入ったマグカップをナナに渡すとそのまま隣に腰掛ける

(ま、まさか…ソファーでとか?)
「ナナ」
「はいっ!?」

名前を呼ばれて大きな声で返事をする
クリスは少し驚いていたが、そのままDVDを取り出す

「この映画…観たかったって言ってただろ?」
「え?う、うん……」
「借りてきたんだ観よう」

セットするクリスの背中を見ながらナナはホッ、としたような残念な気持ちになった
そのまま映像が流れるがクリスは映画に夢中なまま
ナナはクリスの横顔を見た

あれから何もないけど……クリスって本当に私のこと好きなのかな?

結局その夜は(クリスの家に泊まったのにもかかわらず)何もなかった


「おはようナナっ!!」

同僚たちがニヤニヤしながらナナに挨拶をする
そして一人がさっそく聞いてきた

「で?で?どうだったの昨日は??」
「……何もなかったよ」
「へ?嘘でしょ?」
「……映画観てその日は終わったよ」

ナナの言葉に同僚たちはおもしろくなさそうな顔をした
期待していた展開が何もなかったのだから

「ねぇちょっと本当に付き合ってるのよねぇ?」
「う、うん……」
「でも何もないなんてちょっと信じられないわよねぇ……」

同僚たちの言葉がグサグサと突き刺さる
やっぱり変なのだろうか?
いやでもクリスを好きなのは確かだし向こうだってそのはずだ
考え込んでいるナナに同僚が何か思いついたように声を出した

「じゃあ今夜みんなで食事に行きましょうよ!!」
「賛成!S.T.A.R.Sのみんなも誘っちゃってさ〜」
「その食事会であんたらの中をもっとよくしてあげるわ!」
「(自分たちがS.T.A.R.Sと食事したいだけなんじゃ…)は、はぁ…」

こうしてその日の晩食事にみんなで行く事になった

(なんなのこの席順!)

ナナの隣にケビン
そしてクリスとジルの周りに同僚たちが座る形になった

「ナナ、クリスの横座らねぇのか?」
「う、うーん…(彼女たちが許してくれないと思う…)」

ナナの言葉にケビンは眉間に皺を寄せた

「つーか…普通彼女は横に座らせるもんだろ」
「え?」
「……クリスのやつも何も言わないなんて何考えてんだ?」
「……」

ケビンがイラついた表情でクリスを見る
ナナも同じようにクリスを見た
同僚たちに次々と質問されて困って苦笑していた
さっきから自分に何も声をかけてくれないクリスに寂しい気持ちになった
そんなナナの気持ちを察してかケビンが彼女の手を握った

「ケビン…!?」
「……俺ならお前に寂しい想いはさせねぇ。今からでも俺と付き合うか?」
「っ……」

クリスはこの状況をどう見てる?
いや、きっとこっちに気づいてなんかいないはずだ。女の子たちに囲まれて困った顔をしているのだろう
クリスは私の事なんか好きじゃないんだ
ナナはケビンの手を振り払ってその場から出て行く

「ナナ!」


店を出たナナはただひたすらに夜道を走っていた
涙を流しながら全速力で走っている
そして途中で止まりぜぇぜぇ、と息を整える

「っはぁ…クリス…のバカ…っ」

どうして自分の事を好きだと言ったのだろう?
お互い忙しくてデートもろくにできない、それでも幸せだった
だけどあの日以来好きだとも言ってくれなくなった

「よぉお嬢さん」
「!」

泣いているナナの前に一人の男が現れる
しかもその男はナイフを見せながらナナに近づいてくる
ナナは思わず後ずさる。今の彼女は丸腰だった

「俺は若い女の遺体を解剖するのが好きでさぁ…お嬢さんも解剖してやるよ」
「い…いや…」

助けて助けて助けて
クリスっ!!!

グサッ

ナナは固く目を閉じた
だが自分の目の前に違和感を感じて目を開けるとクリスの背中が見えた
そう彼は自分を探しに来てくれたのだ
声をかけようとするがクリスはその場に蹲ってしまう。彼は刺されたのだ

「クリスっ!!!」
「無事か…?ナナ…」
「ちっ…!」

刺した男はそのまま逃げていく
ナナはクリスの刺された部分から出ている血を見て急いでハンカチで押さえる

「クリスクリス!!どうして…っ?」
「ハハッ…そんなの決まってる、だろ……ナナが心配だから追いかけて来たんだよ…っ」
「っ…」

クリスは優しく微笑むとそのままナナの腕の中で気を失った


クリスは1週間ほど入院する事になった
ナナは病室に向かうとクリスはベッドの上で眠っていた
彼の側の椅子に腰掛けて涙を流した

「ごめんなさいクリス…っ。私不安だったの、貴方は本当は私のことなんか好きじゃないんだって思ってて……だってあれから何もないし「そんな訳ないだろ」

クリスはまぶたを開けてこちらを見ていた

「起きてたの…っ!?」
「前からな」
「……ずるいわ」
「すまない…だが……好きだよナナの事」

優しくナナの頬に触れて涙を拭う
ナナはその手を握った

「俺は女性と付き合ったことなんて今までなかったから…どうしたらいいのかわからない事もあったんだ。ナナの事本当に好きなのか不安になったこともあった……でもあの食事会でナナが飛び出したのを見て追いかけないと離れていくんじゃないかって思った」
「クリス……」
「ナナが俺の側から離れていくのは嫌だ……なぁナナ、俺とこの先もずっと一緒にいてくれないか?」

クリスの言葉にまたも涙を流すナナ

「なんだか今のセリフプロポーズみたい」
「そう受け止めてもらっても構わない」
「!…うん、私もずっと一緒にいたい」

ナナはクリスの寝ているベッドに近づいて唇を重ねた
唇を離してクリスは思い出したように口を開いた

「ケビンに近づくのは禁止だ」
「え?」
「……食事会の時からイライラしてたんだ、ナナと話しているのを見て」
「……クリスも女の子たちに近づくのは禁止ね」
「あぁ……ところで何も展開がないって言ってたが、退院したら一歩進めようか?」
「!!」


クリスとラブラブな展開を、女性経験がない不器用なクリスだったのです。でもちゃんとヒロインの事は見てたよ。ケビンとのところは特にイライラしながら見てたのですw
虫喰い
110405

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