第3話 心の自由を奪うもの


ケビンの車に乗ってから10分は経っている
車内では無言の状態が続いており、気まずい空気が流れていた
彼は何に腹が立っているのかナナにはわからない
とりあえずこの空気を何とかしたくて話しかけようとしたときに車が止まった

「どうしたの?」
「……クリスと何してたんだ?」
「何って…射撃を教えてもらって……」

ナナの座っている椅子が倒される
突然の事に身体が動かなかったナナの上にケビンが覆いかぶさる

「ホントか?あんなに密着して楽しそうだったじゃねぇか」
「な、ホントよ……もういいでしょ、どいてよ」
「お前クリスとデきてるのか?」

ケビンの言葉にナナは首を横に振る
彼は相変わらず眉間に皺を寄せたままナナに迫る

「だったら俺と付き合うこと考えてくれよ」
「!それは…だってアレは遊びで言ってるんじゃ……」
「そんな訳ないだろ!俺はいつだってナナに本気なんだっ!!」

大声で言われて身体がビクリとなった
そのままケビンはナナにキスをしようと迫る
その瞬間ナナの頭の中でクリスの顔が浮かんだ

パンッ!!

乾いた音が響いた
ケビンが頬を叩かれた音だ
その瞬間にケビンは我に返ってナナから離れた

「悪い……」

一言だけそう告げて再び車を走らせる
ナナも椅子を起こして窓から景色を眺めた
ケビンの方は見なかった

ナナの住んでいるアパートの前に着き、ナナはシートベルトを外す


「……送ってくれてありがとう」
「あぁ……」
「あの「ナナ」

ケビンが真剣な瞳をしてナナを見る
その瞳に顔を逸らす事ができない

「もうすぐ射撃コンテストがあるだろ?……優勝したら俺と付き合ってくれ。お前にトロフィー贈ってやる」
「ケビン……」
「毎年優勝してるのはクリスだ」

クリスと聞いてナナの心臓がドクンと音を立てた
そういえば彼も毎年出ている、しかも優勝している数も多い
どうしてクリスの名前を出すのだろう
ナナは何も言わずそのまま車を降りる
そんな彼女の背中にケビンは言葉を投げる

「クリスが好きなんだろ!?だったら今回は俺があいつから優勝を奪ってやる!!」
「!?」

ケビンは車を走らせてその場を去る
ナナは目を見開いたままその場に立ち尽くす
今彼はなんと言った?
自分がクリスの事を好きだ、と言った
そんなはずはない自分がクリスを好きだなんて…
だけどケビンにキスをされそうになった時クリスの顔が浮かんだのは何故なのだろうか?
この感情は何なのだろう

「クリスを好きだなんて……そんなハズない……」


翌日
あまり眠れないままナナは仕事に出勤する
相変わらず同僚たちの声はうるさく頭にやけに響いた

「あら、ケビンおはよう!」
「!」

ケビンという言葉を聞いてナナは身体をビクリとさせた
そちらを見ればケビンが同僚たちに挨拶をしている
そしてケビンと目が合い、ナナは慌てて目をそらした
その様子にケビンは苦い顔をしてそのまま横を通り過ぎた

「あれ?ナナに挨拶なしなんて珍しいわね」
「何かあったの?」
「……なんでもないよ」

ナナは暗い顔で答えた
その為同僚たちもあえて追及しなかった
その後も仕事を続けていたナナだったが、さすがに寝不足という事もあり我慢の限界が来ていた
周りにも指摘されて数時間休憩室で仮眠を取ってくることになった
お言葉に甘えてナナは休憩室へと向かう

「!」
「あ、ナナ。おつかれ」
「おつかれさまです……」

休憩室にはクリスがいた
煙草を吸っているところから彼も休憩していたのだろう
ナナは昨夜考えていた相手と出会うなんて…と、出直そうかと部屋を出ようとしたのだがクリスに腕を捕まれた

「顔色悪いみたいだな…横になるといい」
「え?ぁ…」
「こっちへ」

彼に言われるがままナナは長椅子の上に横になる
すぐ横にクリスが座った
隣にいると緊張して眠る事が出来ない
緊張を解くために何か話すべきだろうか、と悩んだ

「頭痛くないか?固いだろ長椅子」
「えぇ…少し」

ナナの言葉を聞いてクリスは彼女の身体を自分の方に引っ張る
何をするのかと驚いたが彼はナナの頭を自分の膝の上に乗せた

「ちょ、ちょっと…!?」
「こうすれば痛くないだろ?」
「そ、そうですけど…いやそうじゃなくてこれは駄目です!…迷惑かけてしまいます」
「迷惑じゃない」

クリスにそう言われてナナは何も言い返せなくなった
そのままおとなしく彼の膝の上に頭を乗せて横になる
ドキドキして更に眠れない

「懐かしいな……」
「え?」
「昔妹もこうやって寝かしつけたな…と思って」
「妹がいるんですか…?」
「あぁ…クレアって言うんだ」

クリスに妹がいることなど初耳だった
妹の話をしたときは優しい兄の顔になっていた
妹からしてみればクリスは頼りになってカッコイイ兄なのだろう

「ナナは兄弟はいないのか?」
「……私一人っ子でしたから」
「そうか……」

そう一人で育ってきた
自分を愛して産んでくれたはずの両親はケンカが耐えなかった
絵本やドラマの中のように愛し合っている姿を一度も見たことはない
結婚して毎日ケンカするぐらいなら男なんかいらないとナナシは思った

「あの……ずっと聞きたかった、ことがあるんです……」
「なんだ?」

温かい体温が伝わり瞼が重くなってくる
だけど彼にずっと聞きたかったことがある

「どうして……私の名前を、知ってるんですか…?」
「………」

クリスもすぐには答えてくれなかった
彼に頭を撫でられてナナはとうとう眠りに落ちた

「君の事ずっと見てたからだよ……ナナ」



ケビンとクリスとヒロインの中でどんどん大きな存在になっていきます
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