第2話 不意に、胸を疼かせた


「じゃあこれよろしくね」
「わかった」

女に頼まれて男は書類を受け取りその場を去る
その背中を見てまたもうっとりとする女たち

「はぁ…新人で入ったレオンもいいわよねぇ〜」
「彼女とつい最近別れたらしいわよ」
「えーだったら私狙っちゃおうかな〜」

きゃあきゃあ騒ぐ女仲間にナナは頭を抱える
好きなら好きと言えばいいのに、といつも思う
ここで騒いでいたって相手に気持ちは伝わらないというのに
それとも本気の恋ではないのだろうか?

「よぉナナ!今日も可愛いな」
「はいはいありがとうケビン」

考え込んでいるところにケビンが現れる
いつもの様に軽くあしらっていると同僚たちがこちらにやってきた

「ねぇナナ!この間クリスとしゃべってたでしょ!?」
「え?」
「見たって子がいるのよ、ねぇ何しゃべってたの〜?」

会話という会話はしていないのだが
ナナがどう答えようか考えているとそれを見たケビンが口を開いた

「見間違いなんじゃねぇのか?だってナナはクリスとは面識ねぇんだしよ」
「えー…でも見たって言う子がいるのよ?」
「気のせいだろ」

ケビンの言葉に同僚たちはしぶしぶとしながら戻っていく
助かった、とナナはホッとした
その様子にケビンは眉間に皺を寄せていた

「……クリスとしゃべったのか?」
「え?…ぁ、缶コーヒー落としたから拾ってもらったの、それだけ」
「……そうか」

いつもと違う様子で聞いてくるケビンにナナは不思議に思ったがあった事を話した
だがクリスが自分の名前を知っていた事は話さなかった
今のケビンには何故だか話してはいけないような気がしたのだ

「じゃあ俺戻るわ」
「うん……ケビン」
「ん?」
「助けてくれてありがとう」

いいって、とケビンは笑ってその場を去った
いつもは遅刻ばかりで情けない男だと思ったがさっきのケビンには感謝している
助けてくれるのは自分の事が好きだからだろうか?
それとも女なら誰でも助けるのだろうか?
ケビンの性格のこともあってどちらなのかわからないでいる
彼の本気がわかれば好きになるかもしれないのに…


そろそろ帰宅しようとしたときだった

「ナナ」

一人の男がナナに声をかける
ケビンの仲間だ

「悪いんだけどこのライターさ、ケビンに返しといてくれないか?俺これからパトロールがあってさ」
「いいけど…ケビンはどこにいるの?」
「多分地下の射撃場にいると思うぜ」
「射撃場…?わかったわ」

ライターを受け取りナナは地下に向かった


「ここよね…?」

ナナは扉を開けて中の様子を伺う
目に入ったのは人の形をした的、それに数発の弾が当たっており一つは頭に命中していた
誰が撃っているのだろうか、とナナは人物を見る

「あ…!」

撃っていたのはクリスだった
彼はナナに気づかず真剣な眼をして銃を撃っている
またも的に見事に命中して当てていく
彼の姿に心臓がドクンと音が鳴った
撃ち終えるとヘッドホンを外してナナシに気づいた

「あ…ナナじゃないか」
「ど、どうも……」

クリスに頭を下げるナナ
彼は手招きしてこちらに来るように言う
ナナは素直にしたがってクリスの元へ行った

「何か用があるのか?」
「ケビンを探しに…ここに来てませんか?」
「あぁ、さっきまでいたよ。外の空気吸ってくるとか言ってたな」

入れ違いになってしまった、だがクリスの話からすればまたここに戻ってくるだろうということがわかった
クリスは何かを思い出したような顔をすると少し待って欲しいと出て行ってしまった
ほんの数分待っていると彼が戻ってきた
何事かと思えばクリスはナナに缶コーヒーを一本渡してきた
それを見てナナはこの間の事を思い出した

「この間はごめん、俺そのまま君のコーヒー持って行ってしまったんだよな…」
「あ、はい…あの時はちょっとビックリしました……でもそんなに気にしてませんから」
「そ、そうか…ありがとう」

そこで会話が止まってしまった
何か話さなければ、とナナはさっきの射撃の事を思い出す

「あれ…すごいですね、的に見事に当たってますし」
「え?あ、あぁ…」

ナナが指を指す方向を見て反応するクリス

「よくここに来て練習するんですか?」
「あぁほぼ毎日といってもいいかな、俺はS.T.A.R.Sの中でも大事な位置についているから射撃の訓練は欠かせないんだ」

そういえば彼はチームの中でも優秀な位置PM(ポイントマン)だと同僚たちが噂しているのを聞いた事がある

「そうだ!ナナもやってみないか?」
「え!?いえ…結構です!!」

銃の訓練なんて最初の方にやっただけであまり慣れていない
警察官の自分がこんな事を言うのもダメだが銃を扱うのは本当に苦手だ
その様子にクリスは笑った

「大丈夫、ちゃんと俺が教えるから。いざという時に使えないとダメだろ?」
「ぅ…はい、お願いします」

クリスの言う事はもっともだ
何も言えなくなったナナは大人しくヘッドホンをつけて場所に立つ
クリスも同じように彼女のすぐ後ろに立った
彼の体温や息を感じて思わずドキリとしたがすぐに意識を集中させる

「いいか身体を真っ直ぐにして…傾いちゃダメだ。しっかり銃を構えて……そうだ」

クリスの言うとおりに銃を構える
的を定めて……撃った
するとナナが撃った弾が心臓の部分に当たった

「ぁ…すごい!当たった!!」
「上出来じゃないかナナ。やったな!」

的が当たった事は素直に嬉しくナナはクリスに微笑んだ
クリスも微笑んでナナを見る

「よかったらナナシも今度『射撃コンテスト』に出たらどうだ?」
「『射撃コンテスト』…?あぁ毎年やっているやつですか?…無理ですよ私なんて!それにいつも貴方が優勝してるじゃないですか」
「今度はわからないさ、君が優勝するかもしれないぞ?」
「ナナ?」

二人の会話の中に声が聞こえる
振り返ってそちらを見ればケビンが立っていた
ナナは慌ててヘッドホンをはずして銃をクリスに渡す

「ケビン!」
「なんでここにいるんだ?」
「あなたの友達にライターを返しておいて欲しいって頼まれたの、はいコレ」

ナナはケビンにライターを渡す
お礼を言って受け取るケビンだが、眉間に皺を寄せている

「ナナ、お礼に飯奢ってやるから食いに行かねぇか?」
「え?うん…いいけど……」
「行くぞ」

ケビンはナナの腕を掴んでその場を立ち去る

「ナナ、おつかれ」
「お疲れ様です…」

最後にクリスが声をかけてナナは返事をするとそのままそこを去った


長くなってしまった2話!!1クリスの口調がよくわかんない…

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