ただ、偶然だったかもしれないあの瞬間
それは、本当にただの偶然だったとしか思えない。
「…ねぇ。」
「っ!?」
「…君は、ここを知ってる?」
「…、え、えぇ…一応、地元…ですから…。」
「…悪いが、ここまで案内をしてくれるか。」
「は、はい!」
まさか、私みたいな一般のトレーナーが、伝説と呼ばれるレッドさんと一緒に歩いているなんて…!!
いや、赤いジャケットに赤い帽子、肩にピカチュウを乗せているからレッドさんだと思うんだけど、真意はわかんない!
だけど、これだけ威圧感を放てる人だ…多分、そうだと思う。
「…ここ、名前は?」
「え、それ知らずにここに来たんですか?」
「…行き当たりばったりで旅してるから。ジムは巡ったし。」
「さすがですね…」
「…俺を知ってるの。」
「れ、レッドさん、ですよね?あの、伝説の…」
「伝説かどうかは知らないけど、確かに名前はレッド。」
や、やっぱりそうだった…!
最年少でチャンピオンを倒し、そこから行方を眩ませて何年も姿を見せてなかったって言われてるレッドさん!
…でも、なんでまたこんな辺境の地に…。ここ、電車しかないんだけど。
「…そんなに有名?」
「そりゃもう!最年少チャンピオン、ピカチュウの強さが異常、チャンピオンになった直後に行方を眩ませて何年も姿を見せなかった…。
色々な噂がたってましたよ。もちろん、噂は噂なので…真意はわかりませんが。」
「…そう…。」
それきり、レッドさんは黙ってしまった。
フォ、フォローにもならなかったかな…噂でしか聞いたことないし、どういう人なのかなんてわかんないし…!
たまたまこの地に来ただけだし、私のことなんて忘れちゃうんだろうし…あ、言ってて悲しくなってきた。
でも…別に付き合うとかじゃなくて、単純に友人として他愛無い話とか…してみたいなぁ。
「…名前。」
「え?」
「名前は?」
「あ、ライラです。」
「歳は」
「…16歳ですが…」
「じゃあ、敬語はいらない。ライラ、しばらく世話になりたい。」
「え、あ、ええ!?」
「…ダメ、か。」
矢継ぎ早に質問され、さらに世話になりたいとまで。
ポケモンセンターでいいんじゃないのかな、なんて思ったけど、そういえばこの辺にポケモンセンターはない。
…となると、レッドさんは野宿を繰り返すことになる。
そ、それはさすがに…!
「えぇと、大丈夫なんですけど…ちょっと散らかってるのでお片付けしてきます」
「別に、気にしない。…寝泊りさせてくれるなら手伝う。」
「いやいや、そこまでには及びませんよ!」
「敬語、いらないっていったんだけど」
「無理です!」
な、なんだこの感じ…傍若無人な気があるのか…レッドさんは!
でもめげない。敬語は…多分外せる気がしない。
「…。じゃあ、食事。」
「…食事、ですか?」
「今日は泊まらせてもらう礼として作る。明日は案内してくれた礼として作る。…文句言わせない。」
「いや、レッドさんお客さんみたいなものなので…!」
「…、それもダメか。」
うっ…微妙に顔を横に傾けてあざとい…!
…ま、まぁ食事に関しては確かに助かるけれど…。
「…わ、わかりました。今日の分のお食事はお任せします。…でも次からは私が作りますから!」
「それは楽しみ。でも、その次の日は俺が作る。」
「え、あ、というかレッドさんここにどれくらいいるんですか?」
「…さぁ、決めてない。」
…え、私本当にどうしたらいいのかな。
まさか最低でも1週間はこの生ける伝説なレッドさんと過ごすことになるの?
こんな偶然あっていいのか?いや普通ないよね!?
「…ライラ、家は?」
「あ、あっちですけど…」
「うん、材料は?」
「一応買い置きがありますが…スーパーはここ真っ直ぐ行った突き当りにありますけど、」
「じゃあ決まり。場所覚えたから…あとでね。」
「え、は、はいっ…!?」
クス、と笑って、レッドさんは材料を買うために、スーパーへと向かっていった。
…突然の出来事に、私の心はパニック状態だった。
え、本当に泊まりに来るの?
「…って、くるなら片づけ!」
私はダッシュで家に戻り、片づけを始めざるを得なかった。
ただ、偶然かもしれなかったあの瞬間は、まぁ…憧れの人に会えたから、まぁこんな偶然もあり…なの、かな!
「…バトルも強そうだけど、やっぱり1ヶ月くらいはここにいよ。
…まさか一目惚れ、なんて言えないし。」
End
リハビリがてらレッドさんで。
半年ってあっという間ですね(白目)
※これを書いたのが今年6月の話でした…時が経つのは早いものですね。
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