仕事してください。
「…あの、ノボリさん?」
「なんでございましょう、ライラ様。」
「そろそろ仕事に戻らないといけないと思うのですよ。」
「まぁ、そうでございますね。」
「なので離していただけませんか?」
「それは無理なご相談です。」
…先程からこの会話ばかりで、一向にノボリさんは私から離れてくれない。
それはそれで嬉しいことではあるのだけれど、いい加減にしないと仕事がどんどんたまる。
必然的に、困るのは働いている駅員さんだ。
ここはなんとしてでも、動いてもらわなければならない。
…でもノボリさん、離れようとすると子犬みたいな目で見るんだもんなぁ…。
そもそも、何で私は休憩室にいるのだろうか。
単に、スーパーシングルトレインに挑戦して、ノボリさんと戦って…
…そうだ、勝ったんだよね。ノボリさんに!
ようやく勝てて嬉しくて、珍しく私が抱きついたところから話はこじれた。
というか、連れ込まれて抱き込まれた。
こうなると、ノボリさんは本当に離れてくれないのは良く知っている。
「(…そして毎度、私が折れちゃうんだよね。)」
今度こそ、いや今日こそは!
「あの、ノボリさん。」
「なんでございましょう、ライラ様。」
「(全く同じ返しだ…)あのですね。そろそろ…」
「…後、5分。お時間をくださいまし。」
「…わかりまし、」
た。
という前に、私の口はノボリさんの口で塞がれてしまう。
「っ、」
啄ばむような口付けから、ぬるりと舌が入り込み、そのまま深く深く口内を犯されていく。
後頭部は片手で押さえられ、もう片方の手は私の腰にあり、がっちりとホールドされているのでノボリさんからは逃げられない。
上唇を舐められ、下顎辺りを舐められ、舌を吸われ、なすがまま。
「の、のぼりさ、」
何とか口を開けて名前を呼ぶけれど、一切応じないかのように再び抱え込まれ、キスをされる。
嫌なわけがないのだけれど、このままだと流されてしまいそうになる。
「…5分、経ちましたか。」
「は、…え、5分…?」
「わたくしが申しました。後、5分だけと。」
「え、えぇ、そうで、すね。」
長いことキスをしていて、空気が足りなくて言葉が途切れ途切れになってしまう。
それに比べてノボリさんはとてもつやつや…してる気がする。
「貴女様のお顔が拝見できて幸せにございます。…ライラ様、またいらしてください。」
それだけ言って、ノボリさんはドアを開いて、おそらく仕事に戻っていった。
「…、一体…なんだったんだろう…」
その疑問は、ノボリさんだけが知る。
「…まさか、あんな公共の場で抱きつかれるとは思いもしませんでした…!」
パタン、とドアを閉め、カツカツと早足で執務室へ向かう。
さながら鬼のような形相だったかもしれません。
照れ隠しから、ライラ様を休憩室に連れ込み、あまつさえずっと抱きしめてしまう。
…本来のワタクシでしたら、それは絶対にしなかったこと。
しかし、ライラ様が珍しく、そう本当に珍しく!ワタクシに!
あぁ、思い出すだけで顔がニヤけてしまいます!
「ノボリ、今日ちょっとキモイ!」
「お黙りなさい、クダリ。今のわたくしは最高にブラボーな状態なのですから致し方ないでしょう!」
「…うん、ライラに会えたんだよね。まぁそれはいいんだけどね!」
「えぇ、えぇ。なので今日はわたくし早めに上がりましてライラ様とお食事に行きたく存じます!」
「それはダメだよノボリ、まだ仕事いっぱい!」
「大丈夫でございます、既にワタクシの仕事は終わってございます。」
「え、だって凄い束が…」
「愛の力は無限大、でございます!」
早く早く会いたくて仕方ありません!さぁ、ライラ様の下へ参りましょう!
指差し確認、出発進行でございます!!
End
初ノボリさん。
見事にさよなら人格になりましたうわーい!
…精進致します。
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