開けても閉じても同じ夢だった
「…レッド。」
もう、行方不明になって何年が経っただろうか。
探しても、探しても、どこにいっても、姿すら見えない。
マサラタウンでそれぞれバラバラに旅をし始めてから、1年。
レッドがチャンピオンになってから、3年。
チャンピオンの仕事を全うしてるのかと思えば、その場所に彼はいなくて。
まるで、夢でも見ているような感じだ。
そこに、レッドはいたのに。
手の届かない…いや、もう昔からそんな人なんていなかったかのように。
存在自体が、幻で…夢であったかの、ように。
「本来、ここにいるのはレッドのはずなのに。私、まだレッドと…一回も、バトルしたことないのに。」
チャンピオンになるならば、私より前にワタルさん、そしてグリーンに勝ったレッドと対戦しなければ、ここカントー・ジョウト地方の最強とはいえない。
だから、私はここに立ちたくはなかった。
…でも、ひょっとしたら私がチャンピオンになった時を見ているかもしれない。
そう思ったら、私はチャンピオンの座について挑戦者を待つ、そしてレッドに、ここにいるということを知ってもらおう。
もう、それしか術などないとも、思っていた。
シロガネ山だって、時折様子を見に行く程度だ。
「…それでも、いないってことは。きっと…他の地方に行ってしまったのかも、しれないよね。」
レッドのライバル(…多分、一方的だと思うけど)であるグリーンにも聞いたが、連絡も取れず困っているらしい。
そんなグリーンもトキワジムのリーダーだから、暇がなく探しにいけていないのが現状だといわれた。
…彼の面影ですら、もう危ういというのに。
「(…レッド。どこにいるの。貴方はここにいるべきなのに。それか、私と戦ってよ…。前に、進めないよ。)」
夢を見ようとしても、貴方の面影が見えない。
目を覚ましても、貴方はどこにもいない。
「レッド…」
「…ライラ。」
「え?」
記憶よりも、割と低い、声が耳に聞こえる。
「…レッド?なの?」
「ん。」
「…レッド、今まで、どこに、」
いたの、と、言う前に、レッドに抱きしめられる。
夢、じゃないの?ねぇ、レッド、貴方は本物のレッドなの?
色んなことが思い浮かんでは消えて、涙となって溢れ出る。
「…シロガネ山の、頂上にいた。」
「…しろがね、やま。」
「うん。…俺より強いトレーナーを、待っていた。」
「強い、トレーナー。」
「…そして、現れた。俺より強い、トレーナーが。」
「…だから、シロガネ山から、降りてきたの。」
「…」
コクリ、とゆっくりした動作で首を縦に振る。
うそじゃない。ほんとの、レッド。
「…でも、何でここにきたの?私、一応チャンピオンなんだけど…。」
「…ここにいるって、グリーンに聞いたから。」
「そっか…。ん?だけど、私に用があったってこと?」
「そう。ライラに用事。というか、伝えたいことがあったから。」
「そうだったんだ。」
用がある、といいつつも、ポケモンバトルをする雰囲気ではないし、かといって何か土産を持ってきたわけでもない。
まぁ、土産はないにしても、何を伝えにきたのだろう?
言葉だけなら、グリーンからの伝言でも問題ないような気がするけど。
「…、ライラ。」
「なに、れっ」
ちゅ。
リップ音が、小さな部屋に響く。
「…!?」
「ライラが、好き。返事は、大丈夫。わかってるから。」
「え、あ…うん、え!?」
「伝えたいことはもっとあるけど、今はこれで。…チャンピオンは、ライラだからね。バトルしなくてもわかる。」
「ちょ、えっ!?ねぇっ!レッド!!」
言うだけ言って、レッドは踵を返して去ろうとする。
そして、後を追う、私。
「レッド、レッドってば!!」
「…ライラ、」
振り向いたレッドの顔は、とても妖艶で。
吊り上った口元が、艶やかで。
もう、何も言い返せないし、できなかった。
「次くるときは、チャンピオン、降りてもらうから。」
「…それは、」
「ワタルに任せちゃって、一緒に旅に出よう。見たこともない、地方へ。」
目を閉じても、開けても、夢のような感覚だったのに。
夢から覚ましてくれる、赤の存在が、私を、覚ましてくれた。
End
何が書きたかったかって。
レッドが行方不明で、突然帰ってきて、好きだと耳元で囁かれたいという願望を詰め込んだだけです。
そこにきたことでもびっくりなのに、帰ってきて早々ちゅーして好きとか言われたらたまらない。
失踪してから2年以上立ってたら、誰だって願うだけになりません?
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