わがままなひと
きっと、マツバさんはおかしいのだと思う。
「ほら、ライラに似合うと思って買ってきたんだよ。」
「何でこの古風な町にそんなものが置いてあるんですか。私着たくないですよ。」
「何でだい?きっと似合うさ、ライラなら。」
「嫌ですよ、私マツバさんのメイドにはなりたくないです。」
至極にこやかな顔で、私にメイド服を当てるマツバさんは、少し、いや大分…気持ちが悪い。
なんというか、こんなに古風な町で洋風のメイドって。せめて和服にしろよとか思うのは私だけ?
まぁそれも着たくないんだけどね。私は動きやすい服が良いよ。うん。
「僕のメイドには、なりたくないのか…」
「というか私たちそんな関係じゃないですよ。」
「そうだったね、僕らは恋人同士だったね。」
「妄言もそこまでにしてくださいホントにジュンサーさん呼びますよ。」
私がココに来たのはあなたのゲンガーのせいですよ、と付け加える。
一歩間違ったら犯罪だし。
何が悲しくてゲンガー4体に囲まれなくちゃならないんだ、全く。
最初は腰抜かしそうになったよ。怖いよちくしょう。
そして最後の言葉は本当に妄言だ、私たちはそういう間柄ではない。
所謂いとこだ、付き合うつもりとか毛頭ないんですけど!
「いとこだって結婚は出来るんだよ?」
「たとえそうだったとしても私はマツバさんよりデンジさんを取ります、というか恋愛云々したくないですよ。」
「何でデンジ君なんだい?そうか金髪だからかな、そうなら僕はライラの好きな髪の色にしてみせるよ、さあ言ってごらん?」
「(ダメだもう何いっても無駄な気がする)」
別に金髪だからではなく、頭に思い浮かんだ人間の名前を出しただけだというのにこの人は。
…あぁ帰りたい、非常に帰りたいけれど後ろにゲンガー4体いる時点で私に道はない。
かといってマツバさんと付き合うかといわれれば答えはノー。
さてどうしたものか。
「…とりあえず、マツバさんはその髪色で大丈夫ですむしろその色でいてください。」
「ライラが言うならそうするよ、ならもう僕を断る理由はないよねこれも着てくれるよね?」
「だから私はそういう意味で好きなのではないしそれも着ません。…今日は書類を渡しに来ただけですので。」
「つまらないなぁ、ツンも程ほどにしないとお仕置きしちゃうよ?」
「ツンもないしデレもありません、書類受け取ってください私はまだ仕事があるんです。」
「やだなぁデレがないと書類は受け取らないよ?」
くっそこの天然腹黒め!
というかデレって何!
「デレは勿論僕に抱きついてくれればそう取るよ。というか僕は腹黒じゃないよ?」
「人の心を読むな!…抱きつけば受け取ってくれるんですねわかりましたほら手広げて。」
「うわぁライラから抱きついてくれるんだ、嬉しいなぁ早くおいで!」
「(あぁもうやだこの人!)はいはい…。」
長い間くっつくわけじゃない、これは外国式の挨拶だと思えばいい…我慢だ、ライラ!
そう言い聞かせつつマツバさんに抱きつく。…さぁ1秒抱きついたんだ、離れよう…
「離すわけないだろう?仕事はゲンガーに任せるよ、行き先もライラのポケモンから聞いてるみたいだしね。」
「ゲンッ!」
「ちょ、何してるの離して下さいマツバさん!私がいかないといけないんです!」
「どうせ相手はワタルだろう?きっとわかってて僕のところに行かせてくれたんだね、仕方ないから今度お土産にあの子を送ろうかな。」
「何をまた妄言吐いてんですか離して下さい!」
胸板を押しても足を蹴ってもマツバさんは動く気配はない。
悲しきかな男と女の力の差。力じゃ叶わない。
「…はぁ、もういいです。とりあえずこの状態はマツバさんが心行くまでどうぞ…」
「うん、いつも通りに折れてくれたね。じゃあこれを着るって約束してくれたら離してあげるよ。」
「…、」
「約束してくれたら離すよ?]
「…はぁ…。わかりましたわかりました…着ます、着ますから離してください…」
今日も今日とて、私はマツバさんに負けるのです。
後でワタルさんはボコボコにしてやろう。
End
マツバ→主人公で。
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