共にいればいい、よね?
マツバさんは、常にホウオウのために修行をしているようなもので。
暇があれば、ホウオウについて調べてて。
祈るように、焼けた塔に足を向かせて。
そんな彼に、なんていえばいいのだろうか。
彼が望む、そのポケモンが、…既に。
そこまで考えて、私はその言葉を言うには私自身の勇気が必要であるということに、気づく。
だって、その、かの伝説のポケモンであるホウオウが…私の、手元にいるのだから。
対して、道中で知り合ったゴールド君は、同じく伝説のポケモン、ルギアを手に入れたと聞いている。
それを聞いたとき、何故私はそちらではなかったのだろうか、と思わざるを得ない。
…答えは簡単。私は、このエンジュジムリーダーである彼、マツバさんが、好きだから。
おそらく、彼はこの事実を知っているだろう。
けれど、きっとお得意の千里眼で、全てとまでいかなくても…きっと、私が捕まえた瞬間くらい、見ているんだろうな。
「…あぁ、もうこのまま飛び去っちゃおうかな…」
「ひどいね、折角エンジュに来たのに僕に会いにきてくれないのかい?」
「…、マ、マツバさん…!?」
…いつのまに、ここにいるのだろうか。ここ、一応スズの塔、なんだけど…。
やっぱり、たまにここに来たりしてた、のかな。じゃないと、ここ入れないもんね。
…というかどうしよう、手元に捕まえたばかりのホウオウが、いるのに、
「…わかっているよ。君が、ライラが、僕の追い求めていたホウオウを捕まえて…今、そこにいるということは。」
「っ…、マツバさ…」
「そんな悲しい顔をしないで、ライラ。…ホウオウ、見せてくれるかい?」
「…、わかり、ました。出ておいで、ホウオウ。」
たった今、主として認められたホウオウをボールから出す。
キラキラと輝きながら、その虹色の羽を羽ばたかせる。まさに、伝説と呼べる存在だと、思う。
捕まえたばかりだけれど、ここがスズの塔であるからホウオウは自然と、先ほどまで鎮座していた場所に降り立つ。
「…マツバさん、」
「わかっているよ。…ホウオウ…本当に、美しいね。」
「…、」
ホウオウを見るマツバさんの姿を、見れない。
あぁ、私は一体何をしているのだろう。
ホウオウに認められて嬉しいけれど、マツバさんの、別の人のになったホウオウを見るのが、
「っ、」
それを一瞬だけしか見ていないのに、涙が、あふれそうになる。
嬉しい、悲しい、苦しい。思いが混ざって、頭が真っ白になっていく。
この感情を、どう表したらいいのだろう?
マツバさんの、ホウオウを見る目を、見たくない。
「…ライラ?」
「……」
顔なんて、上げられない。
上げた瞬間、涙が零れてしまいそうだから。
「…僕はね、ライラ。ホウオウが、たとえ僕を認めていないにしても。間近で見れて、嬉しいんだよ。」
「…え、」
「それを、僕が大好きなライラが見事、捕らえてくれたんだ。…これほど嬉しいことはないよ?」
「えぇぇ…!?」
まさか、そんな。私を好きだなんて、え?
頭の中で理解をしようと、脳内信号が送られるが、それを身体に送られている感じがしないほど、私は全ての行動を制止していた。
あぁ、動け私の頭!マツバさんは穏やかな笑みを浮かべて返事を待っているというのに!
「…ライラ、今は返事をくれなくていいよ。」
「で、も…!」
「その代わり、好きになるまでここ、エンジュシティに滞在ね。」
「…へ、」
さっきから、言葉として成り立たない言葉ばかりしか出せない。…情けないけれど、今の私に紡ぎだせるのはそれだけである。
本当に、どう、したらいいの、私。というか、私マツバさんのこと、好きなんだけど!
「今日からは旅をするの、禁止だよ?」
「ちょ、マツバさん、」
「さて、そうと決まれば早速僕の家に行こうか。ホウオウも一緒に連れて行こうね。常に持ち歩いてね、ライラ?」
「あ、それは、もちろん持ち歩きますが…」
「うん、じゃあ早速行こうか。ホウオウ、悪いんだけど、僕の…そう、今向いている方角。そこに、ライラと僕を乗せてってくれるかい?」
マツバさんがいえば、ホウオウは一度大きく鳴いて、いつの間にかお姫様抱っこされていた私と、マツバさんを乗せて羽ばたく。
…あれ、つまり、どういうこと?
「ライラ、覚悟しておいてね。僕は一度狙ったら手に入るまで、いや手に入った後も、ずっと離さないから。」
「…!?」
あまりに良い笑顔で言うマツバさんを、私はやっぱり、見れなかった。
End
なんというか、こんなオチにする予定じゃなかった。
もっとシリアス風味で終わるはずだったんだけどな。どうした自分。
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