シロガネ山の、頂上で。
深々と降り続ける、白。
その白さに、思わず圧倒されそうになる。
見渡す限りの雪が、視界を覆いつくしていた。
「…真っ白すぎて、おかしくなりそう。」
他の色を決して許さないかのように、一面が白だから。
数分、いや数秒みていただけでも、この銀世界を見ていただけで失明しそうだ。
実際、裸眼で?見続けているとダメらしいが。
そんな中、彼はただ、立っている。
挑戦者を、待ち続けている。
…鮮烈な印象を与える赤色を背負った彼は、今日も挑戦者を待ち続ける。
「…。ピカチュウ。」
一声かけ、ピカチュウは彼の元へ戻っていく。
どうやら今日の訓練は終了のようだ。
「…今日も、お疲れ様、レッド。」
「ライラ。」
「…この後はどうするの?」
「ライラと、バトル。」
「え、まだそんなに本調子じゃないんだけどなぁ。」
「大丈夫。1匹だけ。」
「…ならまぁ、いいか。とりあえず、一旦休もう?このままじゃまた身体がやられちゃうよ。」
「…。」
だんまりを決め込むけれど、以前倒れてしまったことはしっかり覚えているようで。
足は、自然と洞穴内へと向かう。…よかった、休んでくれて。
前回は、なぜか「大丈夫」の一点張りで大変だった。…結果は、想像通り…霰が降り注ぐ中、いきなり気を失った。
…私がいたからよかったけど、いなかったら今頃死んでたんじゃないかな。
「…ライラ、少し寝る。」
「うん、そうした方がいいよ。…レッドは疲れを蓄積しちゃうと大変だからね。」
「…じゃ、安眠させて。」
「といわれても、どうやって…。」
「膝、貸して。」
「そしたら私が身動きとれなくなるんだけど…」
「…なら、ポケモンを出しとけばいいでしょ。」
言うが早いか、レッドはリザードンとカメックス、そしてフシギバナを出し、早々に私の膝に頭を乗せる。
3匹とも話は聞いていたようで、早速のしのしとそれぞれ死角になりそうな場所へと歩いていった。
…もちろん、ピカチュウは相変わらずレッドの隣にいる。
レッドはそれを見届けた後に帽子を脱ぎ、私に被せた。…何故?
「…おやすみ。」
「…はいはい、おやすみなさい。」
レッドはそれだけ言って、スー…と眠りに入った。
…寝るのが相変わらず早い。
「…ピカチュウも、少し眠ったら?私も仲間、出すし…」
「ピィカ。」
首を横に振るピカチュウに苦笑い。さっきまであんなに特訓してたのに…疲れてないのかな?
そう思っていると、ピカチュウは私によっかかってすりすりとしてくる。…可愛いなぁ…。
空いてる手で撫でてやれば、気持ちよさそうに目を瞑ってくれる。
「…さて、どうしようかな。」
レッドが眠っている間に戦略を考えるもよし、このまま少し眠る…のはよろしくないから、景色を見るもよし。
とはいえ、周りは土色の岩と壁、少し遠いが外は一面真っ白の世界。
…変わり映えのしない景色。これをレッドはもう3年も見ているのだから、本当に、逸脱しているというか。
でも、そんなレッドが、私は好きだ。…ポケモンにしか向かない紅の瞳を、一部でも私に向けてくれている。
その瞳を向けられた時、私はどうしようもないほどの幸福感を味わうことができる。
昔馴染みだから、というのもあるかもしれないけれど。
「…ライラ…」
「…レッド?起きたの?」
「…、そばに…」
「…うん、いるよ。レッドのそばに、いる。」
「…」
頭を撫でながらそういえば、満足そうな顔でレッドは再び寝息を立てる。
本当に寝てる、のかなぁ…。
「…でもまぁ、いいか。」
少しでも孤独を感じないのなら、それで良い。
紅の瞳が暗く淀まないように…、この白に、全てを奪われないように、私はずっとレッドを見ていよう。
…この身体が休まるような場所に、なってあげよう。
そう、なってくれていたら、嬉しいけれど。
「…ね、ピカチュウ。」
「ピ?」
「…私も少し、寝てもいいかな?」
「ピッカ!ピーカ、ピカチュ!」
どんっと胸を叩いて、大丈夫、僕に任せて!とでもいうように頷くピカチュウ。
…流石は、鍛えに鍛え抜かれたレッドの相棒。頼りになるなぁ。
「頼もしいね。…じゃあ、この時計が…ここになるくらいの時に、私を起こしてくれる?」
「ピッカ!」
「ありがと。…一応、私の子も出そうか?」
「ピィカ…チュ!」
「ん?見張りならいらないって?」
「ピ!」
「わかったよ、じゃあ…よろしくね、ピカチュウ。」
「ピカ!」
本当に、頼りになるピカチュウに任せて、私も目を瞑り、意識を落とした。
願わくば、レッドを超える存在が現れますように、と願いながら。
End
本日(2011/2/11)雪が東京で、割と大きめの粒で降ったので。
思わずシロガネ山にいるレッドさんに会いにいきそうになりました。
…とはいえ、実際会いに行こうとしてもレベルの足りなさとかのせいで会いにいけない…orz
ただ膝枕をしてほしいというレッドさんを書いてみた。ちゃんと付き合ってますよこの2人。
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