最強の、彼
いつでも先に行ってしまう彼は、最強のポケモンを連れて、私の目の前に現れた。
「…レシ、ラム?」
「そう、レシラム。かっこいいでしょ?」
「や、うん、かっこいいけど…。なんでトウヤが…」
「まぁ、色々あったからね。プラズマ団のこととかさ。」
「あぁ、なんかチェレンもベルも関わったらしいねぇ。トウヤもそうだったって聞いてたけど…。」
なんか、色々ついていけない。
本当に、彼は遠い存在になってしまった。
果てには、このイッシュ地方のチャンピオンになったというではないか。
同じくして旅を出たはずなのに、私はいつでもおいてけぼりだった。
私の実力ではこの先危ないからと、私は一緒にバトルに立つこともできなかった。
チェレンも、ベルも、一緒に戦っていたというのに。
私は1人、カノコタウンに戻って、残党であるプラズマ団を倒しただけ。
それも、何の理由で戦ったのかがわからない。いちトレーナーとして、勝負を挑んだという認識だ。
「…ライラ?」
「…。なんでもないよ。ほんと、かっこいいねぇ、レシラム。」
ただ佇むレシラムを、そっと撫でる。
流石は伝説のポケモン。優雅で、美しくて、高貴ささえうかがえる。
チャンピオンの座につけるほどの実力者に、相応しいと思う。
私とは、大違いだ。
もふもふ加減が絶妙で、いつまでも撫でていたくなる。
もふ、もふ。気持ちいい。
この気持ちが、このもふもふを触ることによって無くなってしまえばいいのに。
置いていかれる感覚を、消し去ってしまえればいいのに。
「…ライラ、何考えてるの?」
「別に何も?レシラムの毛がもふもふで気持ちいいなぁって思って、」
「違うでしょ?俺に、置いていかれるって思ってたんでしょ。」
「…違うよ。私は、」
「でも。俺は置いてったりしてないと思うんだけど?」
置いてったりしてない。
確かに、物理的にはそうだ。
私だって自分なりに旅をして、強くなって。
私のポケモン達も、私を信頼してくれて、同じく強くなって。
強くなった。そう、思うのに。
トウヤをはじめ、チェレンも、ベルも、どんどん先にいってしまう。
私だけが、足踏みしていた。
一応、遅れながらも全てのバッジを手に入れてはいるので、強いといえば強い。
私が、置いていかれる思いをしてしまうのは。
紛れもなく、仲間はずれな気がしてならない状況に、いたからだ。
「…うん。まぁ、そうだね。だから言ってるじゃない、置いていかれてないって。」
「でも、ライラは置いていかれてるって思ってるんでしょ?」
「…なんで、そう思うの。」
「関わらせなかったから。」
「っ!」
わかってて、言ってる。
だから、トウヤは嫌なのだ。見透かして、答えを知ってるのに、意地悪する。
私の行動がわかるとでも言うように。
少し空いていた距離を、トウヤは一歩、また一歩と私との距離を詰める。
特に後退する理由もないので、私はただそれを見つめる。
見つめていると、トウヤは私の目の前まで来た。
「…ベルは、遠巻きだった。自分には何もできないといって、俺に道具をくれただけ。
チェレンは、ジムリーダーに声をかけていた。そしてその後、サポートに入るくらいだった。
…戦ったのは、幼馴染の中では俺だけだよ?」
「…」
もう、私が置いていかれた気持ちは本当にわかっているようだ。
ならば認めるしかないのか、とも思うが、どうしても認めたくない。
たとえ2人がそういう立場だったとしても、私はその場に立つことさえ許されなかったのだから。
私は、トウヤと一緒に、立ちたかったのに。
俯くと、トウヤはすぐに私に声をかける。
ちょっと、今は放っておいてほしい、かも。泣きそうだ。
「ライラ。」
トウヤが、片手で私の頬を包む。
それでも、私は前を向けない。向きたくない。
次にトウヤの顔を見てしまったら、涙が、流れてしまう。
悔しくて、でもいれなかったことにまた悔しくて、それを全部わかってるトウヤにまた悔しい思いをして、それから、
「…ねぇ、ライラ。俺としては、置いていったりしたくないんだよ?
むしろ、」
そばにいてほしいんだけどな。
その言葉と同時に上げられた私の顔と、トウヤの顔がぶつかる。
あまりの近さに、恥ずかしくて再び下を向こうとしても、トウヤの手がそれを許さない。
「…ね、ライラ。俺と一緒に、また旅をしない?今度は、どこかわからない地方をさ。」
「…私、と?」
「うん。…というか、強制連行。はい決まり。いくよレシラム!」
「え、えぇぇぇ!?」
言うが早いか、私の頬にあった手はいつの間にか私の腕を捕らえ、そのまま走り出してしまった。
そしてレシラムにそのまま乗ろうとするトウヤにわずかな抵抗(…進行方向と逆の方に引っ張っただけ)をしてみるが、あっけなくお姫様抱っこをされてしまった。
「ちょ、私旅できる準備してないんだけど!」
「大丈夫、俺がしといた。ほら、ライラのカバン。」
「…私の家に不法侵入?」
「まぁそうでもしないとついてきてもくれないでしょ?」
「…うん、まぁ確かにそうかも。」
「なら、無理やり用意していったらいいかなって。」
「…うん、もう好きにしてください。」
「好きにしていいの?」
「はー、どうぞどうぞ。どこにでもついていきますよー…」
「じゃあ、好きにするね。」
ちゅ。
…今、何か鳴いただろうか。
今ここでポケモンを出すわけにはいかないから、レシラム以外はいないはずなんだけど。
ちょっとまって、これって、
「ライラ。容赦しないからそのつもりでいてね?」
「…。ほんと、トウヤって、へん。」
そう思いながらも、私はこの先の旅が楽しみでたまらなかった。
でも!トウヤが好きなんだってことは認めてやらないんだからね!
End
何があったんだ俺の脳内。
トウヤくんの性格がチェレンとちょっとかぶるような。
試しにチェレンを作ってみればわかるかしら。
トウヤくん難しい!
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