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 恋人がサンタクロース(1/8)

体育館を出ると、微かに粉雪が舞い降りてきた。

「ホワイトクリスマスだね」なんてクラスメイトの女子生徒がはしゃぐ声を聞いて「ほんとだねー」とマフラーを口元にあてて聞こえているのかいないのか返事を返した。

「主人公Aは今夜彼氏とどうなったの?」

「え…彼氏…」

彼氏という言葉にまだ慣れないでいる。
竹中先生と付き合い始めて三か月。
先生は学校の作業が忙しいみたいで、まだデートらしいデートもしていない。キスは、告白したときに1回だけチュってかる−いのがあったけれど、それっきり。そういえば手も繋いでいない。
ひょっとして、あのときの告白は夢だったのかな。ってずっと不安に思ってる。やっぱり、私みたいなただの大学生と竹中先生みたいなパーフェクト代表みたいな男の人と付き合うなんて、無理だったのかなぁ。

長いこと浸っていると、友人二人が心配して顔をのぞきこんできた。

「どうしたの、主人公A。年上の彼氏とクリスマスを一緒に過ごせないくらいでそんなに落ち込まないの!」

「落ち込んでないよ!もう今日は朝までオールしよー!」

ううう!もうやけっぱち!
せっかくの竹中先生との初めてのクリスマスを迎えるはずだったのに、こうなったら先生のことなんて忘れて友情を取ってやる!

友人に両腕を掴まれると、「女同士のクリパ最高―!」と叫び、主人公Aたちは街へと繰り出した。
…が、イルミネーションが輝く街並みは、どこを見渡してもカップルばかり。上下ジャージ姿の女子3人組は浮きまくり。
さっさとカラオケに入ってしまいたかったが、クリスマスはどこも満員。オシャレなレストランはどこも予約していないと入れないし、ファミレスさえも空席がない。居酒屋なんて未成年にはもってのほか。

「あーもう!クリスマスのばかー」

十件ほど店を回って、ついにイライラが頂点にきてしまった主人公Aは寒空に向って叫んだ。

「どっこも空いてないね、しょうがないからラーメンでも食べて私んち来る?」

諦めかけていた主人公A達。その時、カバンの奥底から響く振動と着信音に、かじかむ手を必死に動かして携帯を取り出すと久しぶりのあいつの名前に、微かに口元が綻んだ。

「慶次っ!」

「もしもし、主人公A?久しぶりだな。もしかして半兵衛と一緒か?」

「う…竹中先生は一緒じゃないよ。何?私、今美少女だらけのクリパで楽しんでるんだけど!」

「なんだよ、もう半兵衛に振られたのかよ。予想以上に早かったな、はははっ!」

ムカつく奴!慶次からの電話をちょっとだけでも期待した主人公Aが馬鹿だったと後悔。無言で電話を切ろうとすると、それが伝わったらしくて「切るな切るなー!」と慌てて叫んだ慶次。

「今夜、主人公Bちゃんが日本に帰ってくるんだって。それで主人公Bちゃん家でクリスマスパーティやるらしいんだけど、主人公Aも来ないか?俺たちも今からちょっとだけ寄る予定なんだ。」

「えええー!主人公Bちゃん日本に帰って来たんだ!会いたい!会いたい!会いたーい!」

「うるせー!電話口で叫ぶな!じゃあ、またあとでな、主人公A」

携帯から漏れる通話終了の音に、友人二人は「慶次君どうしたの?」と目をキラキラさせて電話を取られた。

「あのさぁ、提案があるんだけど…」

クリスマスのBGMが街を一層騒ぎ立てる中、友人二人は、それに負けずの大声で奇声を発した

「クリパ行くー!」

ジャージ娘3人は駅までの道を走って行った。バサラ女子体育大学在学中の3人は、そりゃあもう通行人の視線を一心に受けていたがそんなの気にしない。



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