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仕事帰り、ポラギノールのストックが切れた俺はいつものドラッグストアへふらりと立ち寄った
慣れた足取りでお目当てのコーナーへ直行すると、そこには似つかわしくない先客
後ろ姿からして…あれは年頃の娘か
「若いお嬢さんが可哀想に」なんて同情しながら、ポラギノール24錠入りに手を伸ばした
微かに香ってくるシャンプーのにおいに手も止めず、その場を去ろうとしたら
「すみません!」
女は俺の方へ振り返った。両手に二種類の痔の薬を持って
「こっちとこっち、どっちがよく効きます?」
残念。俺のタイプとは正反対のべっぴんさん
「え、俺に聞いてんの?」
女は「はい」となんの躊躇もなく答えた
「たまにお兄さんがポラギノール買ってるの見て、痔に詳しいのかなーって」
「痔に詳しいって何?俺、肛門科の医者じゃないからね!」
変な女だ。見知らぬ男に聞くかフツー。しかも痔だぞ。ま、CMでも若い女が「うん、痔なの」なんて歌って踊っちゃう時代だし変でもなんでもないか
「俺はポラギノール一択。他は認めん」
「そうですか。「痔にはポラギノール」ってCMでやってるし、やっぱ痔にはポラギノールかぁ」
女はCMで流れる音楽を口ずさみながら、箱の後ろにある成分を読み始めた
「…大変だな、若いお嬢さんが痔なんてよ」
「そうなんですよ!もう痛くて痛くてドーナツクッションがないと座れない位なんです。しかもそういう時にかぎって便秘になっちゃうし、トイレに行きたいような行きたくないような複雑な心境なんですよねー」
「あーさらに便秘とは大変だな。ご愁傷様…って年頃の娘が見ず知らずのオッサンに何話してんだよ。アンタ、恋人いねーだろ」
「あはは、よくわかりましたねー」
女は笑うと、ポラギノールじゃない方の箱を棚に戻した。痔と便秘持ちのくせにさっきから陽気だな。あー若いっていいなぁ
全くタイプじゃねーけどおもしれー女
「でもいいんです。ついに念願の痔デビューなんですよ!私の好きな人も痔持ちの人なんで。えへへっお揃い〜」
「痔のお揃いって…全然良くねーし」
「私はいいんです」
「そーかいそーかい。若いって素晴らしいねぇ。ま、頑張れよ痔娘」
痔になって喜ぶなんざ、やっぱりこの娘変わってんな。俺も痔の苦しみが分かる俺好みの可愛い子探そうかな、なんてな
手にしたポラギノールの会計をしにレジへ持って行こうとすると「待って下さい!」と呼び止められた
「なんだー?まだ悩んでんのか?痔にはポラギノールって歌ってたろ」
振り返ると痔娘はポラギノールを両手に突き出していた
今日は変な女に関わってばっかだな。あーあ、顔が好みだったら「俺んちでポラギノール試してみる?」なーんて誘うのに
「あのっ、塗るタイプと注入タイプってどっちがいいんですか?」
「はぁ?」
「それから痔のお兄さんは…痔持ちの女の子ってどう思いますか?」
痔娘は小走りで俺の元へ駆け寄ってくると、顔を赤くして俯いた
え、お揃いの相手ってもしかして俺?
…顔は全然タイプじゃないけど嫌いじゃない。むしろ…
「…俺んち来る?どっちがアンタにいいか痔に詳しい俺が診てやるよ」
痔娘が突き出したポラギノールを奪い取り、ぷらんと手持ち無沙汰になった手を掴んでレジへ向かった
「痔デビューじゃなく他にデビューするかもな。先に謝っとくが、悪化させても知らねーぞ」
「…?」
痔持ちの女?いいじゃねーか
痔の苦しみが分かる女なんて最高じゃん。顔はタイプじゃねーけど
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