小話集


(虎馬)※いろいろ捏造


眼鏡を外したその素顔になるほどな、と勝手に納得する。
透明の硝子越しと正面から見るその漆黒の瞳は、本当に同じものだったのかと疑う位に違う。
切れ目だとは思っていたが改めて見てみるとそれは暗くて鋭くて恐ろしいほどに、冷たい。
眼鏡を外したその素顔が、埃にまみれてボサボサになったその髪の毛が、ところどころ血の付いたよれたワイシャツが、本当の出馬要という人物を物語っている様で、不思議となぜか親近感が湧く。

『悪魔って、いると思う?』

一瞬、それが自分に対して言った言葉なのかわからなかった。
まるで自分の中へ問い掛けている様な口調だったから。

「…昔憧れていた人が、お前の様な力を持っていた。」

黒くて深くて得体のしれないとても大きな力。
その人に一歩でも近付きたくて付けた肩のタトゥーが心なしか熱く感じる。
あの人の力は確かに目の前のこいつと同じ類いのものだ。
それでもこいつとあの人は違う。
何もかも絶望しきって冷たい力なんかじゃなくて、あの人のそれは温かくて優しくて、未来へと繋ぐ力だ。

「けどお前のそれとは違う、これからを信じる力だ。」

その深い心の闇の中から出られないほど、お前は弱くはないだろう。


(男鹿古)

「なにお前また怪我したの」

血の滴る右手首を無言で見せれば思いっきり顔をしかめられた。
実はベル坊が勝負を挑んだネコ(ボス)を慌てて引き剥がそうとして引っ掛かれた、なんて口が裂けても言えない。

「いまうち包帯切れてんだよ。」
「ならいーや。」

いつか止まるだろ。
そんな軽い気持ちで手を降ろしかけたら古市にガシッと掴まれた。
なんか深刻そうな顔してる。

「……ふるい、ッ!」

沈黙に耐えきれなくて口を開いたら手首に生暖かい感触がした。
赤い血に古市のピンクの舌が這って真紅に染まる。
伏せ目がちな目線とか、羞恥にちょっと赤くなった頬とかがなんだかとてもやらしい事をさせてるみたいで思わず下半身が疼いた。
いやマジでこれはやばいだろ視覚的にも。

「い、いいから!そんなとこ舐めんな…ッ」
「いくねーよ。俺のせいで悪化されたとか言われても困るし。」

だからってそれでなんで舐めるんだ。
本気で古市の思考回路が心配になった。
これで天然なんだからタチが悪すぎる。

「いいから、やめろ…」
「だけど、」

まだ渋るような素振りにどうしたもんかと頭を悩ます。
だがそろそろ我慢も限界だったので古市の耳元に唇を寄せて囁いた。

「襲っちまうぞ?」

案の定、真っ赤になった古市に顔を思いっきり叩かれた。



(虎馬)※意外(?)に好評つきプチ連載

酷く喉が乾いて目を覚ました。
視界に入ったのは年期の入った深いしみがところどころにある見知らぬ天井。
視界がぼやけているのはたぶん眼鏡が外されたからだろう。

「起きたか?」

薄暗い部屋に大きなシルエットが入ってきた。
恐らくこの部屋の主の、東条英虎。

「……なんでこんなとこいんねん、僕。」
「俺が運んできたに決まってるだろ。」
「せやからなんで…、」

言葉の続きは喉に詰まって出てこなかった。
咳き込むと口内にまだ鉄の味がした。
ボロボロなのはお互い様なのに東条は自分と違ってピンピンしてる。
そんなところで負けてもなお敗北感を感じさせられる。
もちろん東条に非はない。
今まで知らなかった屈辱と、どんな者でも受け入れる大きな器を持った東条の存在をひしひしと感じて逃げ出したくなる。
でもそれは言い訳だ。
本当は分かっていた。
前世から続く忌まわしい輪廻に屈辱は嫌と言うほどに知ってる。
そんな自分を受け入れてくれる人たちなんかいなかったことも、それに慣れた自分がいた事も。
いや慣れてなんかいない。
実際は喘いでいた。
満たされない思いでいっぱいでどうしようもなかった。
心のどこかできっと自分より強くて頼れる存在が欲しかったんだ。

「なぁ、東条……」

だから、君だけにはどうか拒絶して欲しくない。
たぶんこの気持ちは確かなんだ。

「悪魔って、いると思う?」

今日という日が人生の中で一番怖い。



(東条×出馬)※下の続き

抱き上げた途端に重くなった身体。
意識飛んだのかよ全く、世話のかかる奴だな。
正直自分の身体もボロボロだったがそれ以上にこいつが気掛かりだった。
あの黒いオーラより暗くて冷たい瞳。
唐突にその理由を知りたいと思った。

「だから勝手に死ぬなよ」

死なせねーけどな。


(東条×出馬)

冬場のコンクリートは恐ろしいほど冷たい。
体温は奪われ流れる血の温度だけ妙に生暖かった。

(……負けたんやな、)

思えば負けたのは始めてかもしれない。
生まれつき悪魔の力があってそれは人間が到底敵うものじゃなかったから。
人間でも悪魔でもない中途半端な存在。
いつからかそんな自分が嫌で嫌で誰かに消して貰いたかった。
もう、いい。もう充分分かった。
自分はやはり半端もんだ。
人間にも悪魔にもなれない化け物だ。ならいっそ醜態を晒す前にここで無様に野垂れ死んだ方がいい。
いや最初からこうなるべきだったんだ。
目を閉じる時に力強い腕に抱き上げられた気がした。
気高い金色の虎。
君みたいな人間にやられるなんて思ってなかったわ。
でもまぁ、負けた相手が君で良かった。



(三木→男鹿古)

憧れだけで良かったはずなんだ。
ただ横にいられれば、それだけで幸せだった。
でも人間って欲深い生き物だから。
今まで隠してきた感情を、気付かないふりをしていた思いをあの銀色を見てたら爆発するくらい溢れてきたんだ。
もう耐えられない。
君の隣で彼が笑うのも、それに君が答えるのも。
嫌で嫌で仕方無いんだ。
どうして僕じゃ駄目なんだって思っちゃうんだ。
ねぇ、もう少し早く君にあっていたら僕も彼みたいな存在になれた?
強くなって手に入れたのは君の背中だけで、君の腕の中にはもう彼がいたんだ。
悔しくて笑えるよ。
どうか僕の分まで、



(神夏)

冷たい風が痛いくらい身体に突進してきて思わず目をつぶった。
夏より幾分長くなった髪の毛が乾燥肌に容赦なく叩き付けてきてピリピリする。

「切ろうかな、髪。」

正直手入れ大変だし。
これでも結構気使ってんだよ。
トリートメントとか高いんだから。

「あ?まだ切んなよ。」
「なんで?」

真っ赤な鼻をすすりながら神崎君は仏頂面だ。
だからマフラー持ってくればって言ったのに。

「いいから切んな。」

よく分からないけど餓鬼みたいな面な神崎君の機嫌を損ねると後々めんどくさそうだから頷いた。
てか、なんで神崎君俺より風下に立ってるの?
もしかして俺は風避け?わぁー酷いなー。

(……髪の匂いが好きだからとか、一生言えねーよ。)



(姫神)

お前のするキスには何の意味があるのか未だに分からない。
少なくとも恋人たちがするような甘いものなんじゃない。
セックスの前戯にするついばむようなものでもない。
例えるならそう、あれだ。
禁煙中のヘビースモーカーが口寂しくて何か口にしたい、そんな心境なやつだ。
そうか俺はタバコ変わりか、そうかそうか。
まぁそれでもお前の口を満たすには充分過ぎるからな。
仕方ねぇからとことん付き合ってやるよ。
そして最終的に病み付きになればいいんだ。
ばーか。



(男鹿古)

ただの親友でいられたらどんなに良かったかなんて腐るほど考えてた。
でもどうしてもそれじゃ駄目な時がある。
ただ馬鹿やって笑い合うだけじゃ俺たちは駄目なんだ。
無性に唇の、身体の熱を貪りたくなる。
泣きたくなる。幸せ過ぎて、悲しすぎて泣きたくなる。
大好きなんだほんと、死にたくなるくらい。
でももし許されるなら、まだこの世の定義ってやつが俺たちを見つけて非難するまで、このままでいてもいいですか?



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