バクマン。(七峰×小杉)
※R15でお願いします




薄暗い部屋。PCのディスプレイぐらいしか明かりと呼べる物がない乱雑したその部屋に、顔を殴る鈍い音が響いた。


「僕は君が大嫌いだが、なにがなんでも上を狙うその姿勢だけは嫌いじゃなかった!!」


小杉に殴り飛ばされた七峰に、鋭くその言葉が突き刺さる。ピクリ、と七峰は薄い肩を揺らした。息を荒げ目を剥く小杉は、七峰のその小さな挙動に気付かない。


「分かりました」
「……え」


つい先程までの鬼気迫る表情とはうってかわり、ぽかん、と小杉は呆けた。その見事な切り返し様に忙しない人だな、と七峰は思った。


「ネーム、書きますよ。あなたと打ち合わせしながら。約束ですからね」
「ほ、ほんとに……?」
「しつこいですよ小杉さん。ここ片付けたらコーヒーでも飲んで、それから取り掛かりましょう。あなたは少し頭を冷やした方がいい」


いくら話しても自分の意見を取り入れてくれなかった七峰の代わり様に小杉は驚いた。自分で言っておきながらひねた七峰がそう易々と改心してくれるとは思っていなかったからだ。
もう一悶着ぐらいは覚悟していた小杉だったが、せっせと部屋の掃除に取り掛かる七峰を見て脱力する。それと同時にはっとした声で叫んだ。


「ぼ、僕も手伝うよ…!」



***



二人掛かりでやれば掃除はあっという間に終わった。小杉は初めてちゃんと通されたダイニング(と言ってもアシストがたまに使う程度なので最低限の物しかないが)でコーヒーを淹れる七峰の後ろ姿を見詰めていた。


(本当は良い子なんだ。大人数を纏めるリーダーシップもあるし、画力はもちろんアイディアだって。それに努力家だ。今の七峰くんとなら、ジャンプの看板も夢じゃない)


逸る気持ちを噛み殺す。驕りで身を滅ぼす訳にはいかない。やっと二人でスタートラインに立てたのだから。

七峰がキッチンからマグカップを二つ持って、小杉の前に小豆色のそれを置いた。ありがとう、とそわそわした気分で七峰を見上げれば、七峰は酷く穏やかに笑っていた。思わず凝視してしまう。


「なにか僕の顔についていましたか?」
「い、いやそんなことないよ…!」
「そうですか。ほら、冷めないうちに飲んで下さい。せっかく僕が淹れたんだから」


火照る顔を隠すように俯きながら小杉はコーヒーを啜った。嗅ぎ慣れた香りは上品なもので、高い豆を使っているのが素人身でも分かる。一気に半分程飲み干してしまった。


「……な、七峰くん」
「なんですか。今日の小杉さん少しおかしいですよ」
「ごめん…その、こんな事言うのも大人として、担当としてどうかと思うんだけど、なんかわくわくして」
「わくわくって小杉さんは小学生ですか」
「からかわないでくれよ!その、僕たち今までが今までだし、まだちょっと実感が無くて。でも七峰くんには才能があるからジャンプの看板も夢じゃない。そう思うとわくわくして、なんだか嬉しくて」


言ってることは支離滅裂だったが、七峰は穏やかに笑ったまま小杉の言葉を聞いていた。こんなに柔らかい空気で彼と話をするのはいつぶりだろう、と小杉は思う。作者と担当という身でありながら、主従のような関係だった以前と比べると、その雰囲気が酷く暖かく思える。自然と小杉の顔も綻んだ。


その瞬間だった。


ぱん、と軽快な音が響いた。


「え………?」


じんじんと痛む左頬に小杉は呆然としたまま手を添えた。熱い。ちりちりと痛みが走る。


「なんでそんな顔するんですか?」


恐る恐る七峰の方に向き合えば、未だ穏やかに微笑みながらもう一度腕を振り上げてきた。二度目の衝撃にたまらずフローリングに転がってしまう。

小杉はこれ以上無い程に混乱していた。七峰は浮かべている笑顔とは反対に鋭い平手を繰り出す。反射的に身体が避けようとしたが、足に力が入らなくてフローリングに突っ伏してしまった。

そこで初めて異変に気付く。身体に力が入らない。心なしか、頭も靄が広がっていくみたいにぼうっとしていく。やばい、と鈍い思考が警鐘を鳴らす。目蓋が重くなってきた。


「ど、して……」


強制的に沈む意識の中で紡いだ言葉への返答はなかった。



***



妙に重い目蓋を上げた先に写ったのは、見慣れない真っ白の天井だった。ドロドロとした思考を疑問に感じ、そこで漸く先程の事を思い出してはっとする。
咄嗟に身体を起こそうとしたが、手首と足首にきつい締め付けを感じて再び身体が沈んだ。
首を動かして見上げれば、寝かせられているベッドのヘッド部分にビニールテープで四肢をぐるぐると固定されていた。


「目が覚めましたか」
「ななみねくん…なんで…いっ、ほどいてっ」


きつく縛られた手足は動かすことはおろか、そのままの状態でいるだけでもつらい程だった。しかし七峰はそんな小杉の様子を酷く楽しそうな表情で見下ろしている。子どものような無垢なその瞳がぞっとするほど恐ろしく感じられた。


「なんでって、まだ分からないんですか」
「っ、」


七峰の指が小杉の鎖骨をなぞった。ぞわっと鳥肌が全身に立つ。そのままゆっくりと首筋に上がってくる細い指先を、小杉は目を見開きながら見詰める事しか出来なかった。


「あなたは僕が大嫌いだといった。なのにさっきは僕に対して嬉しそうに笑ってた。だから思わず手が出ちゃいましたよ。あーあ、顔腫れちゃったじゃないですか。手足も痕残っちゃいますよね。まったく、あなたが余計なことさえしなければ穏便に事を進められたのに」


そこで漸く七峰の表情が忌々しげに歪んだ。しかし怒りの対象が自分の身体が傷付いた事であるのに、小杉は恐怖を覚えた。


「まぁ、いっか」


そう呟き、七峰はいきなり小杉の首筋に噛み付いた。文字通り噛み付いたのだ。

「ぐ、あっ…!?」


皮膚の薄い部分に鋭い犬歯が思いきり食い込む感触がする。たまらずめちゃくちゃに暴れるが、ビニールテープに拘束された手足が痛むだけだった。


「が、あぅ…っ」


皮膚を抉る恐怖と嫌悪で生理的な涙が滲む。しかし七峰の噛み付く力は緩まない。思考はパニックを起こしショート寸前で、呼吸も不自然に乱れ出した頃、ようやく七峰が首筋から離れた。

小杉は滲む視界の中で七峰の唇を伝う赤をはっきりと見た。噛み付かれた首筋がドクドク脈打っている。
七峰は涙の滲む小杉の目尻を優しく拭った。


「泣かないで下さいよ。まるで僕が悪いみたいじゃないですか。本当に悪いのは、僕の事を大嫌いといったあなたの方なのに」


そう言って七峰は血の流れる小杉の首筋に舌を這わせた。赤いそれをまるで子猫がミルクを飲むような動作でぴちゃぴちゃと舐める。

小杉はもう何も喋らなかった。否、喋れなかった。狂人じみた七峰の行動にただ身を震わせ耐えるだけだった。

何より小杉が恐ろしかったのは、七峰の発する言葉の意味が全く理解出来なかった事だった。




12'0402


ヤンデレ、になっていますでしょうか…?
A.T様、拙宅の小説で七小にはまって下さり嬉しいです!一人寂しく自給自足の生活なので、需要増えないかなといつも思っています。七小いいですよね…!
応援までありがとうございます頑張ります(*´`*)
リクエストありがとうございました!



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