FW・B


白い世界の中での古創と

2010/09/14 23:13



伊作→久々知
矢豆腐(37巻)受けである





 煌びやかにたなびく黒髪を、何に喩えようか。
 最も相応しい玉は、細蟹の這回る晴天の夜だろう。牛牽と機織りの逢引きは幾年経ても素晴らしいものだ。永年添い遂げると信じきり、漠然と怠惰な情事に身を任せた罰であるその様も、涙を誘い、また様を見ろと意地悪な気分で鼻歌でも零れそうである。

「愛してる!」

 奈落の声が、たらちねの繁茂する天を愚弄した。
 少年は立っていた、否、立っている。
 つらつらと綴られた言葉は、臥せる睫毛が酷く長い少年を覚醒させるに至る大きさだが、その射干玉が月を写すこと叶わない。彼な本分たるそれ、しのびに密な防衛を忘れた少年が彼を拒んでいる。
 だから彼は、立っているのだ。後背から照らされている、おぼろげな矮光を、昏々と眠りこける背に伝えるために。

「起きてくれはしないのかい」
 僅かに上下する肩は緩く、背に受けた傷を訴えている。それは深く穿たれ、骨肉をはがねに侵された証拠であるが、決して命を奪うものではない。現に日が山を越える度に、白磁は朱に染まっていた。
 己が知識と技術を用いれば、きっと彼は一月も経たない内に、いつもの、凛とした立姿に戻るのだろう。それはとても素敵で、魅力的な事実だ。
 だがしかし、ある意味――彼を己が手掌から羽ばたかせると同義なのである。彼の中で、彼を最も慈しんだのが己という現在は、幾日か後には過去となってしまうのだ。
 それは寂しいなぁ、と思うわけだが、真っ直ぐ背を伸ばし、芹の様に遠くを目指す彼が一番好きな自分にとって、伏した彼は只の物質なのだ。
 だから今日も今日とて、早く治れずっと治るなと念じ、白い背に呪いを呟くのだ。
(愛してる!)
 細蟹が羽虫を狙い待つ様に、ひっそりと。



白い世界の中での古創と
 
END

七夕に書き始めていたので、それ風味。
細蟹→蜘蛛で、七夕の朝に瓜に蜘蛛の巣が張っていると良いことあるよ!って行事から。しかしうろ覚えである



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