FW・B
かりくらにて雁を殺し
2010/03/20 12:20
竹谷と食満先輩
好いた惚れた腫れた振った、好き嫌い嫌い、生まれてこの方幾度も往復した感情の針は、すり減ることもなく、今までもこれからも内と外に向けてしきりに叫ぶ。今年卒業の控える己としては、感情を殺す道を歩むのだ。それ専用の訓練を積み重ね、己の目的を達成するために、情を棄て我に流されない人間になった。
「人間って面倒くさいな」
種子島なんて火を点けて引き金を引いて、一発だ。やり方さえ知って的が的のままであれば、一年生だって貫くことができる。それが成長したら的が人になって、人が敵に、そうすると指は強わり、汗が滲む。敵が友になると仮定すれば尚更、視界は暗くなった。
なぜ俺は種子島や火矢に産まれられなかったのだろう。俺は火と鉄になりたいのだ。
明々と燃え立つ行灯の下、昼間までは茶蛾のうようよしていた竹籠の底を補正している最中、単調な作業に飽きていた思考は右往左往、とりとめもない理想像と弱音をぐらぐらと煮込んでいた。吹きこぼれたように口唇に頼らず発音したそれは、普通だったら拾われることなく、部屋の四角に消えていっただろう。
しかし先程申し訳なさそうに虫籠を持ってきた、獣じみた後輩は、お節介に拾いきょとんと眼を丸める。ぼさぼさの犬のような灰褐色の髪は灯りを反ね返し、鉄糸のようだった。
「そりゃあそうです。人間ってそういういきものなんですよ、先輩」
日の下ではきらきらと輝く笑みも、火の元ではぎらぎらとぎらついている。鷹や鷲、猛禽の類の琥珀が恐ろしい。
「犬だって鶏だって虫だって、己の我のために生きてるんです。全ては生き延び、生殖し、己の子を産み落とすというエゴを叶えるために」
それが自然の物語と云うものではないでしょうか、そりゃあ人も同じ状況に乗っかっているのが当たり前なんですよ。
あっけらかんと言い除けた彼は、きっと自分よりも冷徹な忍になるのだろう。彼の目には、人も獣も平等なのだ。
「竹谷」
「はい」
「お前は友を殺せるのか」
「それが俺の望みならば」
奴は、狩るものの目をしていた
さしずめ俺は狩られる雁なのだろう
END
たけ、ま?
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