FW・B


鸛はどこへ行くのか

2010/03/05 00:33


竹くく 長くて下品
※現パロ

 粘着な水音が間に響く黄昏時、フローリングは痛いから嫌とワガママを言われた俺は、両親の寝室である和室に兵助を連れ込んでいた。お父様お母様、ごめんなさい。お二人がする事して産まれた俺は、同じ部屋で秘密な睦み事を嗜むお年頃になりました。
 だのなんだの、あまり立ち入ることのない日焼けした畳に手を突いてたら、罪悪感と背徳感とやらに項のあたりをチリチリ焼かれるような気がした。窓辺から差し込む夕暮れ独特の寂しい光線が、ふらふらと俺と俺に押し倒されている兵助を照らすのだった。
 

 セックスしようぜと持ち掛けたのは兵助だ。いつものメンツ五人、屋上で昼食を食べていた半ドンの今日。今から掃除して放課、帰って何しようか。他愛無い会話の折りに俺の両親が旅行に出たと言ったのだ。三泊四日、遠方まで温泉旅行で自宅には俺一人。明日から三連休だから寝坊しても大丈夫なのはいいが、飯作るのが面倒だのなんだの。
 俺からしてみれば期待していたのは、皆で泊まろうとの提案だったのだ。三郎か勘右衛門あたりが言うかどうか、もし上がらなかったら自分から言ってしまえとの受け身の話し方だったのだ。俺、さすが日本人。他人の発言を汲み取る能力を研くのに余念がないのは、向上心を抱く男子高校生には必須条件だと思うのだ。
 だがしかし、向上心に熱を上げる俺は、一つ重大な事を忘れていた。コイツ、兵助は果てしなく空気の読めない、つまり電波系ということを。

「じゃあ、竹谷の家でセックスしよう」

 耳に痛い静寂というものは、本当に存在してしまった。現実、ばか騒ぎする生徒たちの雄叫びや奇声も、このフットマンやリトルボーイを上回る爆弾小僧にかかれば消し去ることが可能でした、との結論なのだけれども。
「は…?」
 焼きそばを掴んでいた箸が、セメントに着地すると同じに、呆けた音が漏れる。ああそうそう、紅ショウガが喉に引っ掛かり咳き込んだのはその直後だ。
「ふーん」
「…………へー」
「ひぃっ」
 ハ行を仲良く口にあげる、ナイスコンビネーション!と言いたい俺らだったが、興味外の雷蔵に柳眉を跳ね上げた勘右衛門にそれに怯える三郎と、皆の表情は様々だ。因みに兵助はいつも通りの調子で豆腐素麺をつついていた。諸悪の根源め。
「兵助、え?」
「俺の親放任主義だし、八ちゃんの家にだって泊まれるぞ」
「いやそういう問題ではなく、ね!」
 高校に入ってからおおよそ一年、隣の組の兵助と知り合ってから半年、そしてその、そういう関係になったのが半月前。期間は短いものの、現在の関係を見て分かるように濃密な時間を過ごして参りました。兵助の両親が仕事で忙しくて家にいないのも、一人っ子の癖に放任というか放置されているのも知っている。友達の家に泊まると言えば、兵助友達いたんだ、から始まる様な親子関係なのも重々承知してる。だが、だがな、兵助。

「お前付き合ってること皆に秘密にするって言っただろー!」
 世間体を気にすれば同性の恋人なんて公言出来ない。元々人の目?何それ美味しいの?状態の兵助もその辺りは理解できたらしく、俺の告白(不本意ながら寝呆けてしてしまいました)に応えたときに、誰にも言うなよと念を押された事柄だった。
「そんなん次の日勘ちゃんに言っちゃったし」
 第二の爆弾投下。次はネーベルヴェルファーで納まりました。よかったよかった。
 そう言えば最近勘右衛門が冷たかったなぁとか、二週間ほど前に八左から竹谷って呼び方が変わったねーとかとか。お前が原因か。兵助の発言に頭を抱えた俺を尻目に、爽やかな笑顔の勘右衛門との間には深い深い溝が出来ているようである。修復してみせようと実行に移そうとしたら、無情にも昼休みの終わりを告げる金がスピーカーから鳴り響いた。
「あ、僕図書館掃除に行かなきゃ」
 最初から最後まで我関せずだった雷蔵が食べ終わったおでんのカップを片付け始めた。それを開始として、各々の持ち場へと向かうために腰を上げる。

「俺も掃除に行かなきゃなぁ。ホームルームでね兵助」
 じゃあさようなら竹谷、と刺のある声で去っていた勘右衛門の背中を見やる俺に掛ける言葉がなかったのか、屋上に残された三郎が「じゃあ八。ご達者に」だなんて、少し遠い目をして手を振っていた。なんだそれは。



「なぁ、本当にヤるのかよ」
 結局、終業の中々終わらないクラスで有名な俺らは、優秀でそつのない奴らばかりの兵助達の組より三十分ほど遅かった。これが逆だったら兵助を置いて一人で帰り、布団を被ってこれからのことについて脳内作戦会議をしたのにと不満に思うものの、一人他組の生徒を待つという苦行を経た奴を置いて帰るだなんてこともできず、相変わらずぼうっとした兵助と並んで帰路につくのだ。
「本当にって…それ目的で行くんだから、すぐにヤる」
「なあ兵助、ムードって知ってるか」
 頭痛が痛いぜとぼやいたら不思議な風に見上げる兵助をあしらい、ポケットにある鍵を確認した。幸か不幸か、学校から徒歩五分という立地の俺の家。ボロ…もとい古風な鍵を右に一回捻れば錠は空く。友達と屯するには好都合なことに、多少広い自室に兵助を招く。まさかこんな風になるだなんてとか思い、階段を登る俺だったが、兵助が着いてこない。
「おーい登って来いよ?」
 部屋に入らないと説得も何もできない。兵助はヤル気満々らしいから警戒する必要もないだろう。
「八の部屋、AVとエロ本あるからやだ」
 しかもなんか俺に似てるらしいし?と小首を傾げ、にやりと笑う兵助は、先ほど俺にご達者でと告げた三郎にそっくりだった。
(あの野郎…!)
 兵助の上げた通り、黒髪の睫毛の長い女優の作品には大変お世話になりましたとも。だがそれは自分が進んで購入した訳ではなく、三郎からお古という形で譲り受けたものだった。よくよく考えてみれば、その時には二人の関係はばれていたのか。

「じゃあ居間に行くか」
「フローリング硬いから嫌だ。畳がいい」
 数段下にいながら、どこぞのビッチだっていうワガママを言う兵助は俗にいう上目遣いって奴で。こりゃあ据え膳食わぬは男の恥ってのじゃないのか、いやいや初めてってのはもっとムードがあってこんな明け透けにしちゃ駄目だろうとか、俺の中の悪魔VS天使が闘争しはじめた。因みに悪魔は三郎で天使は雷蔵だ。ナイスセレクトだと思う。


「なあ兵助」
「なんだ八ちゃん」
 結局、据え膳いただきますに落ち着きましたとも。本能のままに生きる男子高校生にしては、十分我慢したと思います。だが、(一応)好きな(一応)恋人が二人っきりの状況で一糸まとわぬ姿になろうとしているのだ。前頭葉頑張ってと応援してくれた雷蔵天使はリバースして、ピンヒール女王様の悪魔になりましたとさ、めでたしめでたし……………じゃなくねぇか。
「男同士のって、色々下準備しなきゃいけないんだろう?」
 中三の時に三郎が借りてきたゲイポルノを見たことが記憶に甦る。あれは心身に深い深い傷を残して行ったが、男同士でどうやるかの知識を与えてくれましたとも、ええ。
「あ、ちょーないせんじょーって奴は学校で勘ちゃんがしてくれたぞ。八は持ってないだろうからって、ゴムももらったのだ」
 調子外れの某ロボットの物真似をし、脱ぎ捨てた上着の胸ポケットからソレを取り出した。いや、あの、俺は何に対してリアクション取ればいいんでしょうか。
「あれ、八ちゃん、どうした?」
「…ちょーないせんじょー?」
「うん、ちょーないせんじょー」
 それは良かったな、うん。なんて相槌を打てるはずもなく、脳内は一時休止し、目の前で下履ひとつになった兵助の下半身に目が行ってしまう。そこで巡るのは、腸内洗浄を学校で、という問題点もさることながら、勘右は何を考えてやがんのか。勘右が兵助を気に掛けているのは随分前から知っていたのだが、そういう風に見てやがったのか、それに乗る兵助も兵助で、クラスメイトに簡単にさせるお前は、尻軽って奴か、そうなのか、など、今から初体験どき胸な俺には荷が重い事柄だった。


「八ちゃん早く脱いでよ」
 ぐいぐい。思考過多のため、フリーズ気味の俺を現実に引き戻したのは、原因の兵助だ。薄着になったとは言え未だ服を着たままの俺がご不満なのか、不貞腐れて催促する。いや、そんなことよりもと言いたいことが沢山あったが。とりあえず。
「いただきます」
「どうぞ召し上がれ」

 この状況下でにんまりと笑う爆弾電波小僧とよろしくやって行けるかどうかは不確定過ぎるが、ひとまず俺は立派に男の子だった。据え膳は残しません。





彼はどこか遠くで飛んでます






end


宇宙外生命体の過去話だったり。電波兵助というより、久々ビッチとへたれ竹谷になってました。残念



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