激しいベニーとの交尾を終えた、その日の夜。私は清邦様のお部屋へ呼び出されました。
全身を念入りに清めてくるようにとのご命令でしたので、私は一時間以上もの間浴室に篭り、汚れを洗い流しておきました。

「チカ」

清邦様のお部屋の扉を開くと、清邦様はお仕事の最中だったのか、数々の書類にペンを走らせておりました。しかし私の姿を認めると、ぱたりと手を止めて私の愛称を口にします。

「はい、清邦様」

私は返事をするように清邦様の名をお呼びすると、清邦様はすっと目を細めて。

「俺はね、お前のことが大嫌いだよ」

そう、分かりきったことを仰いました。

「……チカは知ってるかなぁ」

清邦様は机に頬杖をついて、ただじっと私の顔を見つめます。

「母さんはね、病んでしまわれた。母として、妻として、女として、自分に自信をなくしてしまったんだよ」
「……」

確かに奥方様はお淑やかで繊細な女性でした。見ているだけでも、心はさほど強いほうではないだろうと簡単に予想はつきます。

ですが私がお屋敷で見かけていた分には、病んでいらしたように感じられませんでした。
奥方様は、夫の愛人である私にも優しくお声をかけてくださり、お屋敷を出ていく直前まで優しげな奥方様らしいままでした。

「内腿や、背中、足の裏……俺には人目に付かないような場所に大量の焼きゴテ痕がある。これは親父も知らねぇことだろう。当然だ、母さんは陰で俺に八つ当たりをすることでどうにか自我を保っていた」
「え……?」
「母さんは親父に直接モノ言える性格じゃなかったからな。半分血を引く俺を親父に見立てて仕返ししていたんだろう」

なんということ。あの奥ゆかしい女性が、隠れて清邦様に虐待を繰り返していたというのです。
私は清邦様にかけるべき言葉が見つかりません。いえ、ここで下手に言葉をかけてしまうのは得策ではないでしょう。私は清邦様のお話を聞くことに徹します。

「でもそんなのは発作みてぇなもんだ。荒れた母さんは少しもすれば自己嫌悪に陥って俺に土下座して謝ってくれる。俺はそれを知っているから、母さんの弱みをこの身で受け止めた」
「清邦様……」
「けど……お前に入れ込む親父や、俺に当たることしかできない弱い自分に嫌気が差したんだろ。とうとうこの屋敷を出て行ってしまった……俺を置いて」

尻窄みになってゆくその言葉を発した清邦様のお声は、この世のものすべてを憎んでいるかのようでした。

「それからは地獄だったよ。廊下を歩けば夜な夜な響く男の喘ぎ声、気色悪い親父の息使い……お前らには何度も何度も苦しめられた。いつか絶対に復讐してやろうと思ってた」

清邦様は憎悪の目付きを隠そうともせず私の側に歩み寄ると、そのまま私の胸ぐらを掴んで思いっきり壁に叩きつけました。

「でもなんだ? あのド腐れジジイはポックリあの世に逝っちまいやがって」
「──!」
「てめーみてぇなゴミを残したままッ……!!」

怒りに任せ、清邦様は私の首を締め上げました。急激に呼吸がし難くなって、窓ガラスに映った私の顔が徐々に赤くなってゆきます。

「ぁ……ぁぐ……ぇ……」

何分間そのままでいたのでしょうか。このままでは死んでしまう──という限界を感じた時、清邦様はタイミングよく私の首から手を離してくださいました。
私は足りなくなった酸素を取り込むように、ゼエゼエと激しい呼吸を必死で繰り返します。

「……心中でもしてテメェもいなくなってくれれば良かったのによ……。でもまぁ、今の俺はお前が生きていてくれたことに感謝してるんだぜ」

清邦様は私の衣服を剥ぎ取ると、私の体を床に突き飛ばします。

「……っ、ぅぐ……」
「こうやって、親父の大事にしてたモンをメチャクチャにしてやれるんだ……! こんなに楽しいことはねぇ……!!」
「……ッ、き、清邦様……!?」
「犯し殺してやるよ。本望だろ?」

私は清邦様にすべてを剥かれ、まったく慣らされないまま後ろからペニスをぶち込まれてしまいました。
ですが私は苦痛を感じておりません。『身を清めてくるように』と命令を下された時、こうなることは予め想定しておりました。ですから風呂場で自ら浣腸し、十分にほぐしておいたのです。

「はっ、準備は万全ってか」

少しも痛がらない私を見てか、清邦様はそのお顔に愚弄の笑みを浮かべました。

「さすが、元男娼だっただけのことはある」
「はぅっ……うぅんっ……」

清邦様の太く固いモノが私の中を激しく出入りします。私は久しぶりに与えられる人間の熱に大変な喜びを感じておりました。
しかもそれが清邦様のモノなのです。今幸福を感じずにいつそれを感じるというのでしょう。

「あぁっ、あぁんっ、清邦様ぁ……清邦様ぁっ……!」

背後にいらっしゃる清邦様へ顔を向けて、甘えるように声を上げます。すると清邦様は『うぜぇ』と一言吐き捨てますが、中のモノは素直なほどにズンと質量を増したのが分かりました。

あの清邦様が私の中で感じてくださっている──そう考えただけで、心が愛しさで埋め尽くされてゆきます。

「はぁっ、あぁんっ、んんっ、ひぅんっ……!」
「く、……はぁっ……」

私は腰を高く上げ、上半身を捻って背後の清邦様の様子を見つめ続けました。これが私の精一杯の甘えです。
すると清邦様はチッと大きく舌打ちをして私の髪を掴み、私の顔面を床へと力強く叩きつけました。

「あぐっ……!」
「てめぇ、うぜぇんだよ……なに楽しんでやがるんだ? おい」
「が……はっ……」

顔面強打により、つうと赤いものが鼻から垂れ流れてきます。遅れて、それが鼻血だということに気づきました。

「お前がここで幸せでいていい道理なんてねぇんだよ!」
「ぁぎっ、い、い……!!」
「お前は俺をどれだけ苦しめたと思ってる!! それはなぁ、お前が死んでも償いきれるモンじゃねぇんだよ!!」
「あ、がッ……ぎ……」

髪を引っ張られ、上半身が反らせられます。凄まじい痛みを感じるのに、それ以上に尻の中の清邦様がギチギチに固くなっていくのを感じて、私はまた得も言われぬ快感を覚えます。

「てめぇはなァ! あのホモオヤジを誑かして母さんの肩身を狭くさせた挙句、母さんを屋敷から追い出して、それでものうのうと平気な顔してこの屋敷の中で息してる意地汚ねぇ寄生虫なんだよッ!!」
「はいっ……! はいぃっ……! 私は清邦様の存在がなければ生きていけない、みすぼらしくて卑しくて浅ましい、人間ですらない最低最悪の意地汚い寄生虫ですぅ……!! んあぁぁっ……!!」
「お前さぁ……母さんがいなくなった後、俺のことも邪魔だと思ってただろ? 俺さえいなければ、あのクソオヤジと年中乳繰り合いながら美味いモン食って、オヤジが死んだ後はこの屋敷がお前のモノになって、そりゃあもう最高の人生が待ってるはずだったもんなァ!?」
「あっ……あぁぁ、そんなっ……そんなことぉ……!」
「ね、正直に言ってごらん、チカ? 俺は嘘つきは嫌いだよ?」
「あ、あぁぁ……」

清邦様の甘やかしい口調で、私はついつい腰砕けになってしまいます。
その耳触りのよい清邦様のお声は今は亡き旦那様をありありと思い出させて、私の股間に熱い血潮が集まってゆくのを感じます。

「はいぃ……私は清邦様に嫌われていると勝手に思い込んでおりましたからっ……! 清邦様がいらっしゃらなければもう少し生活がしやすかったのにと、いつもいつもこの賎しい頭でそう考えておりましたぁ……!!」
「俺がチカを嫌っている? どうしてそう思ってたんだい?」
「あぁっ、あぁんっ……だってぇ……清邦様は私と会話どころか、目も合わせてくださらなかったからぁ……! ひんっ、んんーー……!」
「会話をしないで目も合わせないと、チカの中では嫌われているってことになるのかい?」
「あぁんっ……ごめんなさいぃ……! 私、私はぁ……はぁっ、…清邦様が恐かったんですぅ……!!」

私が涙ながらに告白すると、清邦様はそのお優しい笑みを急激に冷えさせて。

「そうかよ、このクソ虫が」
「あううううぅぐぐうううぅッ……!!!!」

もう一度、私の顔面を激しく床へ打ちつけました。

「だったら、てめーだって俺に目を合わせず声もかけようとしてこなかったよな? じゃあそれはつまりテメェも俺が嫌いだったってことか」
「あひっ! ぃぎぃいィ!! ごめ、ごめんなさいぃぃ!! あぐっ……ごめんなさいごめんなさいぃぃ……!!」
「正直に言えっつっただろうが!? なに当たり障りのねぇ言い方してんだよ、オラッ!!」
「がはッ……! あぐっ……も、申し訳ありません……! 申し訳ありませんでしたぁ……あぁァァァアアアア……!!」

それから二度、三度、何度も何度も清邦様は私の顔を床に叩きつけ、床が血まみれになってゆきます。

生前、旦那様に『美しいままでいておくれ』と言われたこの顔が、今どれだけ情けなく無様で汚らしいものになっているのかを考えると、ひどく胸が締めつけられるようでした。

「最後にもう一度だけ聞くぞ。お前は俺のことどう思ってた」
「あぁあぁん、清邦様ぁ……! 私は清邦様が苦手です、恐いです、大嫌いですぅうううッ……!! んやあぁぁぁ!!」
「ようやく言ったな、その勇気褒めてやるよ」
「あ、が……あぁっぁああああぁぐううぅぅぅ……!?」

清邦様はニヤリと笑うと、私の中を激しく突き立てはじめます。私の首をぐっと両手で握り締めながら。

「あぁーッ! あぁぐぐ……うぅぅー!!」
「てめぇ床汚してんじゃねぇよ、誰が掃除すると思ってんだ、ああ!?」
「あ、ヒィッ……私、私がぁ……あぐっ、掃除……綺麗に、お掃除させていただきますぅぅッ!!」
「ふざけんじゃねぇ!! てめぇと同じ空気なんかずっと吸っていられるかよ!!」
「あぐっ、う、ぎいいぃいいい……清邦様ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃい……!!」

さらに首がぎゅうと締められて、私の口からは苦しげなか細い吐息がヒューヒューと漏れ出します。
清邦様は私が堪えられるギリギリまで息を止めさせると、またもタイミングよく気道を解放してくださいました。

度々訪れる死の恐怖から、私の股間の生殖器はこれ以上ないってほどガチガチに凝り固まっています。私は射精感を高めるため、本能的に床へ腰を擦りつけていました。

「なに気持ち悪いことしてんだよ、殺すぞ」
「あ、ぁ……! はい、清邦様……清邦様になら、私はぁ……!!」
「なあ、お前もうイキそうなんだろ。顔打たれて、首締められて、俺のでメチャクチャに掘られて、もう死ぬほど気持ちいいんだろ」
「は、はいぃ……!! どうかっ……! どうか私をイかせてくださひッ……! 薄汚い私の精液を、清邦様の綺麗なお部屋の床に出させてくださいぃぃッ……!!」
「お前さ、大嫌いな俺のチンポでイッて悔しくねぇの? なぁ?」

悔しいだなんて、とんでもない。私が感じているのは最上級の幸福なのに。

「もうイク! イきますぅ……!! 苦手で恐くて大嫌いな清邦様のオチンポで馬鹿みたいにイッちゃいますぅぅうぅ……!!」
「あっはははは!! そうかよ、嫌いな男にケツで遊ばれてイッちまうのかテメェは!! 親父の大事な宝物は毎日ゲロ飯食って、喜びながら犬と交尾して、嫌う人間に犯されても勃起するとんだ変態クソ家畜だったんだなァ!!」
「んあぁッ……!! はいぃ、私のアナルはどんなオチンポでも美味しくいただけちゃう、貧相で浅ましくてがめつい呆れた強欲アナルなんですぅううッ!!!!」
「そうだよなァ! 人間だけじゃなく犬のチンポでもあんなに腰振り回して感じてたもんなァ!! ああ親父も可哀想に! この小綺麗な顔に騙されたまま逝っちまって、さぞやあの世で嘆いていることだろうよ!! なぁ、お前もこのままイキながら逝ってみるか!?」
「あぁぁんっ、清邦様ぁ、清邦様清邦様清邦様ぁ……!! どうか、この私を清邦様の手で殺してくださいぃぃ……!!」
「おら、イけッ! イけよッ!! 俺の精液受け止めてイキ死ね!!」
「いあぁぁあぁあああアアァァァ……ッ!!!!」

陸に打ち揚げられた魚のように全身をビクンビクンと跳ねさせて、私は盛大に射精しました。それと同時に、清邦様の灼けるような精を体内に感じます。

清邦様は直ぐ様私の中からペニスを引き抜くと、くたびれた私の体を邪魔そうに思いっきり蹴飛ばしました。

「……死ねばよかったのに」

と、ひとつ小さな言葉をこぼして。

「チカ」

清邦様がいつものように私の名を呼びます。その苦しげな清邦様のお声を聞き、私はどんどん清邦様への想いを募らせてゆきます。

「……どうなさいましたか……? 清邦様……」

恐らく清邦様は私を殺さないでしょう。そしてずっと私を側に置いておくでしょう。

私はよく知っています。清邦様はお父様である旦那様に心を縛られて、雁字搦めになっているということを。あの人よりも優秀であらなければ、という一種のコンプレックスを抱いているということを。

だから、旦那様が大切にしていたこの私のことも欲しくて欲しくてたまらない。そんな健気な清邦様が、笑ってしまいそうなほどにいじらしい。

「チカ」
「はい」
「お前は誰のものだよ、言ってみろ……親也」

清邦様が愛称ではなく私の名前を呼びます。

大嫌いな清邦様。
ああ、でもこんなにも愛おしい。

私を通して旦那様に縛られ続ける清邦様が、私は愛しくて愛しくて仕方がないのです。

旦那様は死してなお、私と清邦様の中に息づいておられます。


「"今"は、清邦様のものです」


私は、生涯あなたを受け止め続けるドメスティック・アニマル。


──苛立つ清邦様の拳が、私の顔面に思いっきりめり込んだ。



 了

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