Undecided



人魚島 2

 結局、その日はイファの家に泊まらせてもらった。というより離してもらえなかった。ずっとルークを人魚だと勘違いしているようで、ニコニコと色々世話をやいてくれたのでよかったが。寝るときまで一緒で、一晩中しがみ付かれて、ハンモックが落ちないかとずっとヒヤヒヤしていて寝不足だ。
「寝顔が可愛かったからいいか……」
『?』
 イファが小さな呟きに反応してこちらを振り返る。10mは離れていそうなのに、結構な地獄耳だ。
『ルーク早く!』
 前方で何か叫んでいるイファに置いていかれないよう必死で着いて行く。しかし、足元は木の根やら何かの糞やらで歩き辛い事この上なく、ヒョイヒョイ先に行ってしまうイファが少しうらめしかった。
 先ほどからザーという音が聞こえていて、歩くたびに大きくなっていっていた。イファに追いついてみると、そこは切り立った崖の先端で、目の前にはとても大きな滝が流れていた。
 ゆうに横幅1kmはあるだろうか、滝つぼは足が竦むほど下にあり、上方には滝から出た霧のため虹がかかっていた。
「おー! すごい!」
『綺麗でしょう!』
 感動して叫んでいるルークに応えるように、イファも叫び返す。お互い言葉は分からなかったが、なんとなく何と言ったのか分かる気がした。
 暫くそこから滝を見つめていたが、イファはもういいだろうと崖沿いに降り始める。
 中ほどまで下ったところで、突然立ち止まり、イファはニコッと笑うと突然駆け出した。
「え、おい! イファ!」
 そのまま崖から川に向かって飛び込む。中ほどまで下ったと言ってもかなりの高さがあるのに、何も躊躇せず飛び込んだのだ。
 ルークは思わず心臓が止まりそうなくらい驚いて、慌てて崖下を覗き込んだ。イファは真っ逆さまに落ちていた。やがて、飛び込んですぐに大きな水音とともに水しぶきが上がるのが見えた。
「うひーすげぇ……」
 そのまま、どこか降りられる場所が無いか探す。が、どこにもそのような道はなかった。かといってここから飛び降りるのも躊躇してしまう。
 そんなことをしているうちに、イファがまだ上がってこない事に気付き、僅かに焦りを感じてもう一度目を凝らしてあたりを見渡した。
「まさか……」
 焦り必死に降りる場所をさがしていると、プカリとイファが浮かんでくるのが見えた。安心しかけたのもつかのま、様子がおかしい事に気付く。
 イファはまったく動いておらず、目を閉じてまるで死んでいるかのようだった。
「イファっ!」
 考える前に身体が動いていた。ルークは助走を付けると、先ほど躊躇したことなど忘れて、一気に飛び降りた。

 水面まではあっという間だった。内臓が浮かび上がる感覚の後、イファのときと同じ様に大きな水音を立てて飛び込み、川底近くから急いで浮上する。そこからイファが浮かんでいる場所まで必死に泳いで捕まえた。
 ぐったりしているイファをかかえ、川岸に移動しようと足の着く位置まで必死に泳いで行く。すると、突然イファの大きな目がパッチリ開いた。
『エヘヘ。びっくりした?』
 そうして何事も無かったかのように笑い、そのまま、ルークの腕の中で体制を直す。
『ルーク、やっぱり人魚だったね』
「は? 何、お前死んだ振りしてたの?」
 相変わらずエヘヘと笑っているイファを見て、盛大に脱力してしまう。何が嬉しいのか、イファはルークに抱きついて足をバタバタさせている。
「あーもう、イファ、心配させるな……」
 そう言って、安堵からイファをきつく抱きしめた。身体が密着して、水がパシャリと跳ねる。イファは突然の事に驚いて、身体を硬くしているようだった。
『ルーク?』
 水に濡れたイファの銀髪を指で梳いて頭を肩に押し付ける。
『ルーク、ごめん』
 今のは謝罪の言葉だろう。先ほどとは打って変わってしおらしくなった声色で、なんとなく分かった。
 本当に何かあったのかと心配したのだ。そう思ったとたん、恐怖など忘れて飛び込んで、なんとしても助けたいと思った。それが冗談だったと分かり、深い安堵の気持ちが溢れてくる。自然と抱きしめる腕に力が入った。

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(C)banilla.
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