人魚島 1 |
今日まで約一ヶ月間、特にトラブルもなく快適な船旅だった。
目的地の港まであと一日というところで、急な嵐に遭遇するまでは。
―ザザ……ザザン……―
波の音が心地良い。そういえば今日港に到着するんだったな、とモゾリと布団を被りなおそうとするが、フカフカの布団が見つからない。それに何故か上半身は焼けるように暑いのに、下半身はまるで水に浸かっているかのように冷たい……。
『あ、生きてた』
何と言ったのか聞き取れなかったが、人間の声で目を覚ます。
「?」
人の客室に勝手に入ってきやがって……。と目を開けようとするが、室内のはずなのに妙に眩しく、目が眩んで暫く瞬きをする。
すぐに目が見えるようになり、上から見下ろしている人物と目が合った。
「うぉ誰だ?!」
慌てて起きて、やっと異変に気付く。
果てしなく続く砂浜と青い海。そして目の前にしゃがんで不思議そうにこちらを見ている褐色の肌の少年。そうだ、そういえば嵐に巻き込まれて船が難破したのだった。思い出し、自分が生きている事に喜び、同時に不安が湧き上がってくる。
ここはどこだ?
目の前の少年は、パンと膝に付いた砂を払って立ち上がった。少年は、褐色の肌に反して、髪の色がとても眩しい銀色だった。服は動物の毛皮のようなものを腰に巻いただけで、殆ど裸だった。
『どうしてこんな所で寝てるんだ?』
少年が何かを話すが、何と言っているのか聞き取れなかった。どうやら言葉が違うようだ。
それでも、こんな見知らぬ場所に流れ着いた自分には目の前に人間がいるというだけで嬉しかった。
「ごめん、何て言ってるのか分からない。俺、ルークっていうの。ルーク」
自分を指差し、ルークと何度も繰り返す。名前を言っているのだと分かってくれたようで、少年は嬉しそうに『ルーク』と呟いた。
『僕の名前はイファ』
少年も同じ様に自分を指差しながらイファと繰り返す。それで少年の名前がイファというのだと分かった。
「イファ、すまないが助けて欲しい」
なんとか身振り手振りで助けを求めるが、どうやら伝わっていないようで、イファは首をかしげてしまった。がっくりと肩を落とし、取り合えず砂浜を見渡す。船から何か流れ着いていないかと期待したが、何もそれらしいものは見当たらなかった。
そんな様子に気付いたのか、突然イファが走り出す。それに慌てて付いていくと、少し走った先に小さな麻袋が流れ着いていた。
『これ、ルークの?』
その見覚えのある麻袋を渡され、中を確かめてみると、確かにこれは自分のものだった。中には小額しか入っていない財布と、簡単な着替えが入っている。
まさか自分の荷物が一緒に流れ着くなんてと、こういうこともあるものなんだなと関心してしまった。
大したものは入っていないが、少ないながらお金があるので、もう一度船に乗れるだろう。
「俺のだ。よし、金もあるしなんとかなるな」
港はどこにあるだろうか? しかし、言葉が通じないイファにどう伝えたらいいのか分からなかった。
『もしかして、海から来たの? 人魚なの?』
イファの言葉は、残念ながら理解出来なかった。困ったように分からないよ、と身振りで伝えると、何を勘違いしたのか、パァッと顔を輝かせる。その顔は少年だというのにとても可愛らしく、つい見とれてしまった。
『やっぱり人魚なの? ねぇ、僕の家に来てよ!』
グイグイと腕を引かれ、(あぁ手もほっそりして女の子みたいだな)などと考えてしまい、慌てて頭を振って追い出した。