メルフィ 16歳
英雄ジェイドに憧れ軍に入隊。剣士ではなく治療師の素質がある。
その治療師としての素質を認められ、ジェイド隊に入隊。
ジェイド 24歳
国で一番強い剣士。今まで上げた功績から、英雄と謳われ若くして隊長に就任した。
新人治療師のメルフィが隊に配属されたことにより、メルフィと出会った。
どうしてこうなってしまったんだろう。
メルフィの頭の中ではさっきからそればかりがグルグルと回っていた。
背中には、野営用の固いベッド。しかし一般兵は派遣先の野営地でベッドなんて使わせてもらえないので、これは紛れもなく上官のもの。
そして顔の両脇に付かれた太い筋肉質な両腕。
まるでメルフィを閉じ込めるかのように。
メルフィが怯えた視線で見上げる先には、ずっと憧れていた彼の人の顔。
いつも戦場で燃え上がる闘志を滲ませるその瞳は、今はただ無心にメルフィを見下ろして。
情欲の色が滲んだような瞳に、メルフィは怯える。
「怯えるな」
彼の唇から零れた呟きは、かすれていた。
どうしてこうなってしまったんだろう。
彼に憧れていた。
英雄ジェイドの活躍する様子を新聞で見てから、ずっとずっと憧れていたのだ。
彼を一目見たくて、少しでも近くにいたくて入った軍。
運よく彼の隊に配属になって浮かれていた。
役割柄、戦場でも彼の後ろ姿しか見ることはできなかったが、それだけで満足だった。
それが、どうして…。
「俺では、だめか……?」
小さくかすれた低音で呟いて、その手をそっとメルフィの頬に添える。
優しい感触。しかし怯えたメルフィはそれにすらビクリと体を竦ませる。
「ジェ、イド隊長……んん!」
熱い吐息とともに塞がれた唇。
抵抗しようと思っても、メルフィの中の何かがそれを拒む。
いったい何がそうさせるのか、メルフィには分からなかった。
ジェイドに力ずくで押さえつけられているわけではない。
これから自分が何をされるのか、さすがに分かっている。
いけないとは思うのに、体が動かないのだ。
いつの間にか、ジェイドは口付けを深くし、メルフィからはくぐもった吐息が聞こえるようになった。
目をきつく閉じて耐える。
舌と舌が絡まる度、ジェイドの舌が上顎をなで上げる度に、何かが体中を駆け巡る。
それに耐えようと、メルフィはジェイドの腕にしがみついて爪を立てた。
やがて荒い息と共に唇が離れていき、ジェイドの腕がメルフィの背中に回って抱き寄せた。
きつい抱擁に、メルフィの中に暖かい何かが広がる。
安心するような、暖かい何か……。
ふっと、それが何なのかを理解した。
憧れが形を変えたもの。
隊に配属されて、ジェイドに接するようになってから、ジワジワと形を変えていった感情。
ジェイドはメルフィの肩に額を押し付け、苦しそうな声をもらした。
「今まで、俺には戦うことしかなかった。だが、お前を一目見て、欲しいと思った。……一目惚れというものだろうか?」
「…………うそ」
そう、嘘だ。メルフィの中には確信めいたものがあった。
こんなに有名で、かっこよくて、強くて……。
そんな人が自分なんかを好きなはずがないと。
今気付いたばかりの自分の感情は、ジェイドの言葉に素直に歓喜している。
でも心は嘘だと悲鳴を上げていた。
「メルフィ、信じてくれ……」
「うそ……そんなの、嘘です」
メルフィの肩から顔を上げて見つめる瞳がするどくて、目が離せない。
だから両腕で顔を覆って呟くように「嘘」と言い続けた。
口に出さないと、その嘘に縋ってしまいそうで。
やがてジェイドからため息が聞こえ、メルフィの服の隙間から手が入り込んできた。
その手の冷たさに、メルフィの口から「ひゃ」と声がもれる。
思わず手をどけて視線を下に向けると、体をずらしたジェイドが、治療師用の軍服を脱がせていた。
「やっ、たいちょ…だめ、です」
口ではだめ、と言いながら、やはり体は抵抗の動きをしない。
「お前が嘘だと言うならそれでもいい。酷い男だと思ってもいいから、今だけは俺を……受け入れてくれ」
そうだ、メルフィが抵抗出来ない理由。
自分の中にも密かに、これで最後でいいから、抱かれたいという思いがあったのだ。
ジェイドの一回きりの遊び。遊びでもいいから、抱かれたい。
それに気付いたら、落ちるのは簡単だった。
「…………」
無言で自分から服を脱ぎ捨てると、ジェイドの驚いたような眼差しがあった。
「いいんだな……」
メルフィはこくりと頷き、目を伏せた。
それからジェイドは、大切なものでも見るように体中に視線を這わす。
自分から脱いだとはいえ、メルフィには恥ずかしすぎることだった。
「メルフィ……綺麗だ」
ゴクリとジェイドの喉がなる。
「そんなに見ないでください……」
耐えきれずにジェイドの首に腕を回して抱き寄せた。
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