「ねぇ」 「ん?どうしたんだ?奥さん」 「私達、何でお茶会しているの?」 仕事をしている最中、用があると無理矢理連れ出された先は、例の庭園。そこで相も変わらず美しく咲く薔薇たちと紛れて私たちはティーセットを広げお茶をしている。 「何で、とは?」 ブラッドはそう言いながら、紅茶に口を付ける。 「何でって……」 間が詰まり紅茶を一口飲む。ふわっと茶葉の香りが口の中に広がる。 「ふふっ、意味などないよ。ただ私たちも夫婦になってから長いなと思ってね。君と改めてお茶がしたくなったんだよ。」 「だからって仕事中に連れ出さないでよ。」 帰るわ。と言い、席を立つと、待ちなさい。と手を掴まれる。 「前から思っていたんだが、君は仕事のし過ぎだ。たまには夫を構う気にならないのか?」 「知らないわよ!」 途端、手を掴む力が強くなる。痛いほどに捕まれ、顔をしかめる。 「妻に従わせるために暴行を加えるなんて夫失格ね。」 「失格……ね。」 そう呟くと、立ち上がり私の前に立つ。 「では、尚のこと夫婦でいる時間が必要だ。」 と、ヘンテコな帽子を取り、軽くキスされる。気づいた時には腰を抱かれ、抵抗する余地がなかった。 「君もそう思わないか?奥さん」 「ふざけないで」 「良い返事だ」 (本っ当にこの男は……) 怒りでわなわなと体が震える。いっそのこと足でも踏んでやろうかと思っていたらまた口づけが降ってくる。今度は先程より深く、激しい。 「……ふっ、意外と乗り気じゃないか。」 「っはぁ…この……〜〜〜〜……っあ」 腰にあった手がスカートの裾を捲り、直接腿に触れる。 「アリス……」 そう耳元で囁かれビクッと体が反応する。先刻のようなキスを受け、頭が体が熱くなる。 (嗚呼…仕事をサボることになってごめんなさい) 同僚の面子に心の中で謝罪をし、私は次々に降ってくる口づけを受け入れた。 目を覚ますと、夜の時間帯になっていた。だるい体をモゾモゾと動かし、真横を見る。そこは脱け殻のように何もなかった。 (アイツ!!……) あの男が仕事が忙しいのは百も承知だ。夜の時間帯と言うのもあり、何処かへ行ってしまったのも分かっている。しかし、あれだけ振り回しているのだから少しは相手の気持ちを考えて欲しい……と考えてしまう。 (何であんなヤツと結婚したんだろ……) つくづくそんな事を考えてしまう。ハァとため息を吐き出し、ベッドから出ようとする。 「ん?」 ふと、何か固いものが指先に当たる。見ると何か小柄なケースがある。 「なにこれ……」 手に取りまじまじと見ると、ケースの下にカードが有ることに気づく。そこには丁寧な字で『Dear Alice』という文字が。 (私宛て?) 綺麗にラッピングされたリボンを解き、ケースを開ける。 「これ………」 入っていたのは案の定指輪だった。ピンクゴールドのそれはハートが彫られており、シンプルでありながら、高貴な雰囲気を出している。 恐る恐る薬指につけると、それはピッタリ合い、月光が優しく照らす。 「全く………」 (こんなんじゃ私の気分を取れないわよ。) そう思いながらも口元が緩んでいる自分が悔しい。 (……後で覚えときなさいよ。) 指輪を付けている薬指に軽くキスし、再び眠りに付いた。 |