「トリックオアトリート!」

片言気味に言うその一言に新聞から目を離すと、ゲルダが目を輝かせて私を見つめている。その姿は小動物そのもので、私は彼女に気づかれない程度に頬を緩めた。

「はい、どうぞ」

事前に作っておいたクッキーを彼女の口に入れる。ムグッと奇声が聞こえたが、まもなくモグモグと頬を動かし、クッキーを味わっていた。

「意外、てっきり忘れてると思ってた。」

「貴女はイベントには敏感ですからね。近所の方々が話しているのを聞いたんです。それに」

「それに?」

首を傾げて次の言葉を待つゲルダを見て、口を歪ませる。

「私は悪戯をされるより、悪戯する方が好きですからね。」

華奢な身体を引き寄せ腕に納める。彼女と出会う際もこんな事をしたことをふと思い出す。あの時はほんの少しの好奇心で、そして今は恋人として、同じ抱擁なのにこんなにも違うものなんだと思う。

「イ、イヴァン?」

唐突な行動に困惑する彼女を余所に、顎を手で固定し、親指で唇をなぞると面白いぐらいに顔が真っ赤になる。その姿が可愛らしくて、愛しくて彼女をもっと困らしたくなる。

「Trick or Treat?」

「へ?」

「お菓子をくれないと悪戯しますよ?」

ですから、もっと貴女の可愛らしい姿を見せてください―――…

title by瑠璃
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