藤田ルート明治END後



途中櫛に絡まることなくサラサラと通る草色。そっと触れるとしっかりとした髪質が指の間をすり抜ける。
ズルイ、と口からポロリと溢れた小さな言葉は彼の耳に届いたらしく、どうしたんだと此方に首を向ける。

「いや、ただ五郎さんの髪が綺麗で狡いなぁと思っていたら、つい声に…。」

聞かれたからペラペラ喋ってしまったが、後から考えると恥ずかしいことを言っていることに気付き、語尾を濁らしながら、五郎さんの髪より少し色褪せた畳に目を向ける。

「綺麗…か。前の硬派といい、やはりお前、俺をそういう目線で見ているだろ。」

「違います!そんな風に見てません!五郎さんは綺麗というより……っ!」

「俺が…何だ?」

前に似たようなことのある台詞に顔を上げると目と鼻の先に五郎さんの整った顔が有ることに気づく。艶やかな黒い瞳は何処か熱帯びており、頬に熱が集まってくるのを感じる。ぼーっとただ整った顔を見つめているとまだ半乾きの私の髪に触れる。

「…お前は俺の髪を綺麗と言ったが、俺はお前の髪の方がそうだと思うぞ。」

「ふぇ?」

ぼんやりとしていた意識は聞き慣れた低音によりしっかりしたものになった。ごく自然と口に出た声は自分でも驚くほど阿呆なものだった。そんな私の様子に全くお前は…と、呆れた表情で五郎さんは溜め息をついた。

「だからっ…綺麗だと言ってるんだ」

そう言うと、先刻のようにぷいと背中を向けてしまった。草原色の髪から覗く耳は真っ赤に染まっているのが見え、私と同じくらい真っ赤になっているのかな、と思うと大きな背中に手を回す。

「五郎さん、可愛いですね。」

「綺麗の次は可愛いか……」

だって、本当のことなんですもの。と開きかけた口は柔らかな唇で塞がれる。触れただけの口付けに阿呆みたいに口を開けていると、長く骨張った指がそれを閉ざす。

「次そんなことを言ってみろ。問答無用でその口を塞ぐぞ。分かったな?」

鋭く、でも何処か暖かい言葉は鼓膜を優しく振動させる。それに答えるように私は只々首をコクコクと頷いた。それなら良い、と呟くように言った五郎さんは先程のように私の髪を少し掬い、それに口付けた。まだまだ夜は長いようだ。


近距離恋愛事情
title by瑠璃


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