ダイヤの国に私一人だけ弾かれてから白ウサギの代わりにいた黒ウサギ。神経質で、白が大嫌いで嫌味なウサギ。そんな彼は白と同時に、左右異なる瞳を嫌っている。そして現在そのオッドアイは私を見つめている。モノクル越しに此方を見る彼の瞳はまるでルビーのようだとぼんやり思う。 「…離してよ」 「駄目だ。離したら君は何処かへ行くだろう。」 睨みながらさらに私の掴む腕の力を強める。 「目を離したら君はすぐに何処かへフラフラ…やっぱり君は馬鹿なんじゃないの?」 「なっ!…毎回口開けば馬鹿馬鹿…いい加減してよ!……っていうか」 この時私も気持ちが高ぶっていたからか、怒鳴り散らすように言い放つ 「そもそも何で付きまとうの?あなた私の事キライじゃないの!!?」 「っ………あぁ、キライだよ…君なんか」 キライだ。 そう告げる口は私の唇に触れる。抵抗しようと試みるが、覆い被さるように抱き締められ身動きが取れない。そうしている内にシドニーは舌で口内に入り込み、私の呼吸を奪う。唇が離れた時は私は酸欠でフラフラになり、彼に身を預ける形になる。 「…はぁっ、はぁっ」 「…嫌いだ、君なんて」 台詞とは裏腹にシドニーは私を包みこむように抱き締める、まるで壊れ物を扱うように。 キライなのになんでキスするの? 優しく抱き締めるの? どうして そんなに苦しそうなの? 次々と疑問が脳内でグルグル回るが、ふんわり香るシドニーの匂いがまるで魔法のようにそれらを消し去る。 ぼんやりと上を見ると時間帯が夜に変わった空と美しく咲く黄と白の薔薇、そして今行動が矛盾だらけの彼の垂れ下がった耳だった。 離してあげられなくてごめんね |