春休みの練習中、鳴子は企んでいた。4月1日、所謂エープリルフールだ。このような行事に敏感な鳴子が何もしない訳がない。

ペダルを漕ぎながら少し前方にいるスカした奴にどのような嘘をつこうか試行錯誤をしているところだ。
一周目を終え、いざ二周目に向かおうとした時ふと亜麻色のロングヘアーが目に入る。その長髪の持ち主がマネージャーの寒咲幹だと認識した時にはすでに二周目に入っていた。それと同時にあることを思いついた。

(しっかしコレ、スカシの奴真に受けるかなぁ…)

暫く悩んだ結果、事前に今泉の自転車を隠し、捨てられたと言って駄目だった場合、この最終兵器を使うことにした。
そうと決まれば、まずこのスカシを抜かさなければ、と速度を加速させた。




練習が終わり、空は朱色から紺色とグラデーションを作っている。
疲れているが、作戦の決行のためこっそーーーーりと今泉の自転車へ向かう。

(よし、抜き足、差し足、忍び足やで。)

抜き足、差し足、しの――「何している。」「!!?」

ギグっと身体が反応したが、怪しいまれぬよう普段通り(?)接する。

「何でそんな事聞くんや?今泉くーん?」

「あからさまに怪しい歩き方をして自分の自転車の方向かっていたら誰だって不審に思うのが自然だ。それといつもスカシもそうだが今泉くんは止めろ気持ち悪い。」

ツラツラツラ…まるで教師のように自分を叱る今泉に苛つきを感じる。どうやらもこうやらも作戦は失敗した。こうなったら……

「よく噛まずにそんなぎょうさん言えんなー。」
「それは誉め言葉として受け取ろう。」
「それはそうとスカシー、お前に報告があるんやで!」
「スカシは止めろ。報告?言ってみろ。」

その時、丁度寒咲幹が近くに通ったのも有り、最終兵器を使うのには持ってこいだった。すかさず寒咲の腕を軽く引っ張り、肩を組む。

「ワイら、付き合うことにしたんや!」

「えぇえ!!?」

「「「「「「「はぁーーーー!!?」」」」」」」

因みに最初に反応を示したのはマネージャー。後から大合唱のように返ってきたのは三年の先輩方や小野田くんたち。という話は置いといて……肝心のスカシは何の反応も示さない。マネージャーもこの状況にオロオロしている。このままくだらないと言い、去ってしまうかと思ったが…。

「ふん、つくづくくだらないイベントが好きだな、鳴子。」

イラッ

「じゃ、じゃあ!何処に嘘だという根拠があるんねん!」

コイツの話し方一つ一つに苛々が増すから、半ばやけくそで言う。

「根拠は簡単だ。」

そう言うとスカシは俺の隣に居たマネージャーを引っ張り己の方に引き寄せた。

「寒咲と俺は付き合っているからな。」

「しゅ、俊輔くん!?」

「…………は?」

「「「「「「「えぇええええ!!?」」」」」」」






「色々疲れたな……」

「うん…。」

あの後、俺と寒咲は散々冷ややかされて帰る時間が遅くなってしまった。桜が咲き、暖かくなってきたものの暗くなるにつれ肌寒くなりお互いの指を絡める。

「ごめんね。送ってもらうことになっちゃって。」

「いや、別にお前が悪い訳じゃないし。」

「あははは……でも良かったの?秘密にしておきたかったんだよね」

「あんな事があったし、なにより秘密にしていた方がお前が動き易いと思って……」

「……!」

「あっいや別にその……」

「……ありがとう俊輔くん」

真横を見ると彼の艶やかな黒髪から覗く耳が真っ赤なのに気付く。しかしそれ以上に私の顔は真っ赤になっているだろう。

「……幹」

どうしたの?と言おうとした瞬間ギュッと抱き締められる。いつも俊輔くんの大きな体に包まれると安心する。

「好きだ。」

「…エープリルフールだから『嫌いだ』だよ」

「羞恥を押さえて言ったのにそういう仕打ちかよ。」

そう言う彼は笑っている。広い背中に手を回すと少し早くなっている俊輔くんの心臓の心拍数が服越しに聞こえる。

「……嫌いだ」

「ふふっ、私も嫌いだよ。」

切れ長の目が近づくのを感じ、目を閉じる。暖かい風が吹いた気がした。



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