元々の癖なのか、自分が周りより少し背が有るのがいけないのか分からないが、寒咲は少しでも目線を合わせようと背伸びをしてこちらの顔を見ようとする。時に鼻と鼻がくっつくのではないかと思うぐらいに顔を寄せられる。そんな状態で楽しそうに話すアイツを見ると、いつも気持ちを動かされるのは自分だけだと負けた気分になる。

だから今回、今回こそは。

「え」

「………」

此方が顔を近づける。しかし自分が思った以上にこの動作は距離が近く恥ずかしいもので、跳ねるように動く心臓の音が届いてるのではないかと心配になる。

「??どうしたの、今泉くん」

案の定きょとんとした表情でその丸い瞳に俺を映す。想定はしていた、してはいたが……。

(気に食わねぇな……。)

小野田や鳴子、そして俺だって仮にも男なんだから少しは警戒しろ。人一倍鈍感なコイツにはそうはっきりと言うべきなのだろうか。脳裏でそんなことが浮かび短い息を吐く。

「お前は誰にでもこうするのか?」

「えっ」

「人の顔を覗き込む仕草。」

そこまで言うと、寒咲はうーん、と小さく唸りながら俺から視線を外す。この体勢で。
鼻と鼻の先がくっついてしまいそうな距離で。
もしかすると俺は男として認識されてないのでないかもしれない。

「少し有るかも…」

ボソッと発されたソプラノは考えれば考えるほど暗くなる頭によく通り、俺は慌てて寒咲に目を合わせる。

「でも背伸びをしてるのは多分今泉くんだけだよ!」

「っ!」

またコイツは〜〜〜

天然なのか、言葉の意味をあまり考えずに言ってるのか……。(おそらく両者)
一番タチが悪いのは当本人はまったく顔色を変えずにこんなことを発してることだ。

だから、だからこそ

「寒咲」

グッと顔を近づけると、ビクッと体が反応する。何だ、そんな反応も出来るんじゃねぇかと思うと途端に先刻までの苛々が消え、満足感に近いものが心を満たす。
い、今泉くん?と紡がれた声は少し震えている。

「一つ忠告してやる。」

寒咲は不安げに眉を歪ませるが俺の言葉を静かに待っている。


「俺だって男だ。」


少しは警戒しろ、馬鹿


ピシッとデコピンが寒咲の額に命中すると、真下から痛っ!という声が聞こえる。

クリーンヒットだぜ。と胸の中でガッツポーズをしてると、今泉くんの馬鹿!と頭突きして走っていってしまった。

痛む頭を擦りながら見たアイツの長い髪から覗く耳が真っ赤だったのは、俺だけの秘密だ。
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