今泉くんがヘタレ




下校の寄り道は久しぶりだ。
俺は寒咲と訳あり駅前のファミリーレストランに入っている。夕食のピークが過ぎた時間に入ったからか客数は少ない方だが、それでも店内は賑やかな声が響く。そんな中俺たちの間は沈黙が続く。いつもは無駄に明るく元気で自転車オタクなコイツはさっきから黙ったままメニューをあちらこちら見ている。

…いつも思うが睫毛長いな。暇なので目を伏せるコイツを横目で盗み見する。その時店員が「お待たせしました。」と言い、頼んだものをテーブルに置く。真ん中にデンと置かれたイチゴパフェはメニューの写真数段高い気がする。それは寒崎も思ったのか、目を丸くしながらこう言う。

「うわっ思った以上に高さがある。…今泉くん本当にいいの?……私、自分で払…」

「良いと言ってるだろ。何度も言わせるな。」

「っう…ん…」

眉を歪め冷たくあしらい過ぎたかと後悔した後はもう遅い。

「……すまん。言い過ぎた。」




『おいっお前の幼馴染み、チラシのイチゴパフェ見て目を輝かせてたで!』

連れてやれ!スカシ!と調子良い声でバンバン部活後と疲労が溜まっている背中を叩く(馴れ馴れしいし何よりウザい)。
そして『お前だけじゃ不安やから……しゃーないついていってやる!』と何から何まで上から目線で小野田と鳴子、俺と寒咲の4人で部活後に行くことになったのはいいもの……。

(アイツら……余計な気遣いを………というか不安だったんじゃねぇのかよ!)
いざ向かおうと歩いていたところいつの間にか鳴子と小野田が居なくなったのだ。おそらくまた鳴子の気まぐれだろう。

(……)

コイツの目の前でなかったら頭を抱えたい気分だ。内心小さく溜め息をつき、黙々パフェを食すコイツに目をやる。その姿は普段昼食中は友人と話ながら食べているイメージからかけ離れていた。

(自転車以外だと俺といるのつまんねぇからだよな……)

いつもの俺らしくないそんな暗いこと考えてしまう。ふとまだ幼さが残る丸顔を見ると、口角が上がっていることに気づく。

(そういえばコイツは昔から苺好きだったな。)

幼い頃、近所である彼女の家に訪れてはよく苺を共に食べていた。その頃は現の彼女の友人のようにポツポツ会話をしながら食べていたが……。

「ハァ………」

駄目だ考えただけで溜め息が出る。本当に俺らしくないと水を口に含む。

「今泉くん……やっぱり疲れてるよね?」

その様子に寒咲が眉を八の字にしながら伺う。流石にテーブルにでかいパフェがあるためいつものように体を伸ばしてまで様子を伺おうとしなかった。

「平気だ。……パフェどうだ?」

腕をテーブルに立て、頬をつきながらそう問う。

「美味しいよ!でも……」

「?」

「今泉くんのそんな顔を見ながらそんな事言えないよ……。」

「…っ…………」

(コイツ……!)高鳴る鼓動を心中で収まれと念じながら心配そうに此方を見るコイツを一瞥する。本人にとっては特に意識せずに発した言葉に変に意識している自分をぶん殴りたい。

「…良かったら一口食べない?」

ほら、甘いものって疲れが取れるしと匙一杯に盛られた苺色を俺の目の前に出す。

「…………」

仕方がない食ってやるよと言わんばかりにパクっ口に含む。ふわっと口のなかが苺で一杯になる。美味しい?と聞かれ、俺は無言で頷いた。


匙一杯分の苺
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