社会人な平門x大学生のツクモちゃんで平門さんハピバ






チク、タク、チク、タク

規則正しく時を刻む時計の針を耳にしながら、目を横にやる。

そこには当然先刻冷蔵庫から出しただかりのショートケーキ。部屋の灯りに照らされて苺が赤く輝く。近くに置きっぱにしてある携帯電話を操作し、メールを見る。


『これから家に帰る』


数十分前に来た平門からのメールの内容だ。いつの間にか毎日来るようになったものだ。
(このメールも慣れてきてしまったな……)


首都圏の大学に進学したため地方から飛び出した私は幼馴染みである独り暮らしの彼の家にお世話になることになった。

(思えば寮とかルームシェア?とか他に手段があったはずよね。)

何故他の手を考えなかったのか、そんな事を考えたがどんどん事は進み結局私は流されるまま平門の家にお邪魔することになった。

それはさておき、後数分で平門は帰ってくる。幼馴染み、一応同居させて貰っているからこうして祝福しているだけだが、こういったサプライズをするのは慣れていないからか異様に緊張する。

胸元に手を押さえると、自分の心臓の心拍数が上がっているのが嫌でも感じる。

と、その時玄関の方からガチャと金属音が聞こえ、慌てて飛び出す。リビングから玄関までそこまで距離がないはずなのに、息切れが止まらない。

「……っはぁ…お、おかえり」

見上げると、呆気に取られた平門が。

「…いきなり飛び出してどうしたんだ?」

お前らしくない。と顔を覗きこまれる。

「別に何か起きたとかじゃないの…ただ……

お誕生日おめでとう、平門。」

一呼吸をおいてそう、告げる。顔が熱い、きっと今私の顔は真っ赤に染まっているにちがいない。

「ぷっ!………」

「っ!…何がおかしいのよ!!」

(人が勇気を振り絞って言ったのに!!)

突然吹き出す平門にムキになりいつもより大きな声で言う。

「ははっ……いや、しかし本当に祝いの言葉を言うためにこうして帰りを待って走り込んで来てくれたんだろ?俺のために。」

「…走り込んだのは……計画外だったわ」

「…じゃあ思わず走り込むほど気持ちが落ち着かなかったんだろう。俺のために嬉しいよ。」

「さっきから『俺のために』を強調するの止めて」

「ははっ…でも嬉しいよ。ありがとうツクモ。」

「っ…!ど、どういたしまして」

(ズルい………)

心中でそう呟きながら、平門から渡される鞄を持つ。

「テーブルにケーキ置いてあるから食べて」

「ケーキ?」

「そう、用意したの。」
リビングに到着し人切れのショートケーキが顔を表す。平門はそれをまじまじと見つめる。

「ふむ、手作りか?」

「……不恰好で悪かったわね」

「ふふっ…誰もそんなこと言ってないだろ?」

軽く睨んでやると意地悪そうに微笑む。

「しかし手作りとなると残りのケーキは冷蔵庫の中か?」

「違うの。…その、食べちゃって。」
「お前が食べたのか?全部?」

「私じゃなくて……そのイヴァたちが…」

「イヴァ“たち”?…詳しく聞かせろ」

途端平門の顔から表情が消え、声が冷たくなる。彼が何故あからさまに不機嫌になったのか原因が分からず、私はただ困惑するばかりだ。

「ケーキなんて作ったことがなかったらイヴァに手伝ってもらったのよ。その事を話していたら皆がぞろぞろ来ちゃって……」

「で?誰が来たんだ?」

「イヴァと與儀と无くんと花礫くん………あと、喰くんも居たわ。」

「喰……だと?」

眉の間に皺ができ、表情をなくした顔が怖くなり、思わずビクッと肩を震わす。

「いいか?ツクモ。」

スッと結っていない髪を触る。顔は不機嫌そのものなのにその口から発するものは何故か柔らかい。

「此処はお前の家でも有るが、俺の家でも有る。極力この家に人を呼ぶのをやめなさい。」

「…………はい。」

平門の言う通り、此処は私の家であり、平門の家でもある。住まわせてもらっている身として無許可で人を入れたのはよくなかったかも知れない。

「ところでツクモ。」

「なに?」

「折角俺のために作ってくれたのに悪いんだが、今仕事帰りで腕が疲れているんだ。」

スラスラとそう言う彼の口調と表情はいつものものになっていた。(本当に切り換えが早い人だ。)

「…そう。じゃあ冷蔵庫に入れて置くわ。」

そう言い、お皿に乗ったショートケーキをテーブルから上げる。

「お前が食わせろ」

ガシッと腕を掴まれ、結局は出来なかったが。そして予期せぬ言葉に目を丸くする。

「!!?なに言ってのよ!?」

「だから、お前が食わせればいい。それで万事解決だ。」

「…おふざけも大概にして」

掴まれた腕から解放しようと必死に抵抗するが、流石に大の男の力には敵わない。

「離して」

「食わせると言ったら離す。」

「そのくらい力が余っているんだからケーキぐらい食べれるでしょ?」

「確かにそうだ。……だったら―――」

今まで映っていた背景が急転し、視界には意地悪な笑みをする平門と先刻までショートケーキを照らしていた灯りが映し出される。背中に木製独特の硬さを感じ、ようやくテーブルに体を押し倒されたことが分かる。幸い平門の手が差し込まれていたため頭を打たなかったが、それ以上に頭が混乱していた。
「お前を頂こうか。ツクモちゃん。」

そう言いながらネクタイを緩ませる平門は悔しいが色っぽい。

「本当に冗談じゃすまないわ。」

「冗談じゃない本気だ。」

口元を歪ませながら腰を上下に撫でられ、ピクッと体が反応する。

「それにお前には教えなければいけないからな。」

ゆっくり私の着ている服のボタンに手を掛ける。こんなことをしている間 にも必死に抵抗を続けたが先程の状態でどうやったのか、両腕は頭の上に固定され膝の間に腿が割り入っているため、その行動は意味を為していなかった。

「男を家に入れたらどうなるのかをな…。」

露になった肌に大きな手が伝わせるのを私はただぼんやりと傍観していた。
下の方を見ると、グテッと崩れたショートケーキが淡く光る。

「…余所見など余裕だな。」

首筋を舐められ悲鳴のような声を上げると満足そうな顔で私を見る。まるで記念日に貰ったプレゼントを見つめるかのように。

「………平門は満足する?」

「?…どういうことだ。」

と首を捻る平門に微笑む。

「平門は今していることは……満足?」

そこまで言うと、平門はああ、と納得したかのような声を上げると頬にチュッとリップ音が聞こえる。ずっと私や平門が幼かった頃からやっていた、親愛のキス。

「勿論満足に決まっているよ。しかしお前が苦しむ姿など見たくない。」

拘束されていた腕が緩み、平門は体を起こす。

「まだ選べる。今なら俺はこれ以上のことはしない。」

さぁ、選んでくれ。そう紡ぐ音色は何処か余裕のない。体を起こし、私は迷いなしに答えた。

「貴方がそれに満足している以上に私もそれを望んでいるの。……続けて」

我ながら凄く恥ずかしいことをペラペラ話したものだ。羞恥で真っ赤になった顔を平門の胸板に埋める。

「………ツクモ」

クイッと顎を上げられ、平門の顔と視線が合う。私でさえ見たことのない幸せそうな顔をしていた。

「……ツクモ」

顔が近づき、口づけを与えられる。何回か触れるだけのキスが続いていくうちにそれは激しいものになり、息が荒くなる。
(嗚呼、崩れていく。)

幼馴染みとして同居人としての関係が、もう私たちは元の関係には戻れない。

「………平門、お誕生日おめでとう。」

はぁはぁと呼吸を整えながら先刻言った言葉を言う。今度は幼馴染みや同居人としてではなくもっとそれ以上の関係として。

「ああ、ありがとう。」
優しく囁きかけるように返された言葉に目を細めながら平門の首に両腕を回した。


HAPPY BIRTH DAY 平門!! 10.22
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