END3後 私、綾月芽衣は現在ひどく後悔している。 正確に言えば黒板の隅に記してある四本の1を見たその瞬間から。 (嗚呼……何で今日寝坊しちゃったんだろう!!) 後…あと数十分前に出たらコンビニで買えたのに! そう思いながらドサッと机に突っ伏す。 11月11日、一般に言うポッキー&プリッツの日である。肉には敵わないが食べ物関連の記念日(?)を一瞬でも忘れていたとは……。 (不覚……!!) と頭を机にぐりぐり押し付ける。 「芽衣、まさか朝にポッキー買うの忘れたの?」 「あんた本当に食べ物のことになると熱くなるんだから……」 「こっちにいっぱいあるからおいでよ〜。」 暗くなっているオーラを感じたのか、友人たちが声をかけてくれた。 (いっぱい……ポッキーが?) それを聞き、ガバッと頭を起こし、愛しい友人たちの方へ向かう。 「ありがとう!!頂きます!!」 ぷっ!ほいよ、食いしん坊。 くすくす笑う友人たちを見ながら、さっそく貰ったポッキーを食べる。 (んーやっぱり美味しい!) 緩む頬を手で押さえながら、よく味わう。甘酸っぱいいちご味だ。 「本当に…幸せそうねぇ」 「ふふっ、たくさん種類があるからたんとお食べ。」 (わーい!) そう思い、別の袋に手を掛けた。 (……少し食べ過ぎちゃったな) 帰り道ふと思う。あれから休み時間のたびに友人の方へ行き3、4本食べてしまった。 (移動教室の時は食べなかったけど……)それでも20本ぐらい食べてしまったはずだ。それでも優しい友人たちは本当よ、馬鹿などと言いながらも笑って許してくれた。 (鏡花さんが聞いたら呆れるだろうな。) 彼のことだ。本っ当に馬鹿みたいに食うよね。少しは自制心でもつけろよ。馬鹿!といつものように憎まれ口を叩くに違いない。 (というか、言われたような……) あれは私が明治時代で風邪で寝込んだ後のことだ。すっかり元気になった私を奮発すると『いろは』に連れてきてくれたのだ。(何故か鏡花さんもついて来ちゃったんだっけ。) 『す、すみません。久しぶりの肉鍋でつい……』 『ふん!本当だよ。また寝込んでも知らないからね!』 『まぁまぁ、いいじゃねぇか。それにコイツが沢山食べることはいつもの事だろ?』 『そうだけどさ……』 『俺にとっちゃ前みてぇに寝込んで食欲を無くすよりは全っ然良いと思うぜ。―――なぁ芽衣』 『なんですっ……わわっどうしたんですか!?いきなり抱きついて』 『ははっ、まぁいいじゃねぇか。 それより、もう俺に心配をかけんじゃねぇよ。俺だってあんな思い二度とごめんだ。…分かったな?』 『っ…分かりました。』 『……ちょっと、アンタ達僕が居るってこと忘れてるでしょ。』 『っ!すみません。』 『はははっ、鏡花ちゃんには刺激が強かったか!悪い悪い。』 『何が悪い悪いだ!うぎゃあ!触るなぁ!』 (………前にそんなことあったなぁ) こうやって染々思うほど明治時代に色々なことがあった。あの時代に思い入れがなかったと言えばそれは嘘になる。 しかしこの時代に戻ってきたことに悔いはない (だって現代には音次郎さんがいる。) 明治時代に来て右も左も分からない私に手を差し出してくれた人。 そして、時代を乗り越えてでも私と一緒に居ることを選んでくれた人。 ふと音次郎さんの笑顔が頭に浮かび上がる。 『芽衣。』 …なんだか無性に音次郎さんに逢いたくなった。 (…出来ればいつでも一緒に居たいけど。) これが惚れた弱味……というヤツなのだろうか。 顔が火照っていくのを感じながら私は鞄の中から携帯電話を取り出す。アドレス帳から音次郎さんの名前を見つけ、カチカチとメールをうつ。 忙しい中すみません。 今日、遊びに行ってもいいですか? (……何か少し固苦しいかな。) 書き直そうかと思うものの、結局この文章のまま送信してしまった。 音次郎さんの返信を待っている間近くにあるコンビニに入った。勿論ポッキーを買いに行くために。 「ありがとうございました、また御越しくださいませ。」 ビニール袋に詰められたポッキーを手渡しながらそう言われる。 (………………………少し買いすぎたかな。) コンビニの自動ドアを通りながら思う。 手元を見るとパンパンになっているビニール袋が目に留まる。当然だ。5箱以上入っているんだから。 (…意外と種類が豊富あるのがいけない!私のせいじゃない!) 自分の心を納得させながら再度携帯電話の画面を開く。すると、一件の返信通知が。 (音次郎さん……。) 返信された時間を見ると、私が送ってから五分ぐらいで返信してくれたようだ。 ピッと電子音を鳴らし、メールの内容を開く。 予定が変わって今に家に居るんだ 来るのは構わねぇが気をつけて来いよ。 (そうだったんだ。) どうりで返信が早い訳である。私はもう一度メールの文を目で追いかける。 『気をつけて来いよ。』 (はい!) 私は真っ先に走った。早く、早く、音次郎さんに会いたい。 「ぜぇ……ぜぇ……つ、ついたぁ…」 着いた先は勿論音次郎さんの自宅があるマンション。そこそこ高さがあるので全体を見るには首を高く上げないといけない。 (何で全力で走って来たんだろ……) 我ながらひどく後悔する。いったい私は今日一日で何回後悔しているのだろう。エレベーターで上がりドアの前で足を止める。 (うぅ……何回来てもきんちょーする…) ピンポーンと鳴らすと、直ぐ様音次郎さんが出てきた。 「よぉ、来たか」 待っていたぜ。といい、ぽんぽんと頭を撫でる。その手が心地よいので思わず目を閉じ、行為を受け続ける。すると動かしていた手をピタッと止めた。 「どうしたんですか?」 と上を向いて言うとはははっと笑い、 「いや、やけに大人しいなぁと思ってなぁ。」 いつも髪がボサボサになるやら子供扱いするなとか言ってくるだろ?と耳元で囁かれてビクッと反応する。 「そっ、……」 そんな毎回言ってませんよ!と言おうと音次郎の顔を見ようと横を見たら思った以上に距離が近くてまたドキッとなる。 「…………」 …何でこんなに意識しているんだろう。 黙りこくりうつ向きながらそう思う。 「芽衣?」 「……。」 緊張和らぐために袋から持っていた袋からポッキーの箱を一つ取り出す。 「おっ、それはぽっきぃだよな。」 「音次郎さんも何処かで食べたんですか?」 「あぁ、稽古の休憩中に貰ったんだ。変わった菓子だが…美味しいな」 一本食べていいかと音次郎さんは今先刻開けたポッキーの袋から一本取り出す。 私も続けて一本を手にし、もぐもぐ食べながらふと思う。 (そういえばポッキーといえば、ポッキーゲームだよね。) ……って何考えているんだ。自分は。と 「ん?ぽっきぃげぇむなら知っているぞ。」 「……………………………………………………………っえ?」 (でも何で!?心読まれた!」) 「………あのなぁ、先刻から心の声駄々漏れだぞ。」 「嘘!?」 思わず自分の口を手を押さえる。 「ぷっ、今更口押さえてもしょうがねぇだろうが。稽古仲間にぽっきぃ貰ったついでに聞いただけだ。」 と言うと、音次郎さんは私の頬に手を添える。 「なっなんをすっ…んっ」 「何って、ぽっきぃげーむだろ?」 話している間にもポッキーの先端を口に含まれる。口の中にチョコレートの甘ったるい味で満たされた時には音次郎さんの顔は間近に迫っていた。 「っ!………んっ」 気づいた時には唇が重ねられ、舌が割り入り、暴れる。段々意識がぼんやりしていき、体全体の力が抜けそうになる。 体が崩れ落ちる数秒前に音次郎さんはようやく唇を離してくれた。酸欠状態になった体に空気を取り込む。 「……意外と楽しいもんだな」 「…はぁ……ふぇ?」 「いや、それより」 ポッキーの袋からスッと一本取りだし、ニコッと微笑む。 「もう一回、やりてぇんだけどいいか?」 そのあと、何回やっても「もう一回、もう一回」と言われ、一袋分ポッキーゲームをやった私達であった……。 End? |