空一面が灰色に包まれ、雨が地面を叩きつける。激しい雨だ、窓越しからそう思う。曲の打ち合わせ等々を終わらせ数十分。その頃には雷は唸り、風も強くになり、雨は滝のように地面を濡らす。とても帰れる状況では無くなった私はただ折り畳み傘を片手に雨が弱まるのをひたすら待っていた。

(早く止んでくれないかな………。)

いつまで経っても変わらない光景に思わず溜め息を漏らす。入り口近くで突っ立っているのも邪魔になるので、近くにあったソファーに腰掛ける。
再度ちらりとみるが、相も変わらず雨はザーザーと音を立て降り続ける。曲でも考えようかとバッグから筆記用具を取りだそうと手を伸ばす。

「………くで待っている。あぁ……頼む。」

少し離れた、後方から聞こえる声。スタッフやマネジャー辺りかと思ったが、聞き覚えのある声にくるりと振り返る。

(やっぱり皇さんだ。)

見ると案の定、皇さんがいた。片手で携帯電話の画面に触れている。先刻の会話からして誰かと電話でもしたのだろう。

「春歌さん?」

皇さんの方も気づいたのか私に声をかけてくれた。こんな所で何をしているのかと言いたげな表情に笑顔で答える。

「この雨で帰れないので止むのを待っているんです。」

あぁと納得したような表情をしたかと思うと失礼と短く言ってからくるりと私の目の前は大きな背中が映る。少し首を上にすると、耳元に携帯電話を当て、

「やっぱり、いい。」

短く、そう言う。小さな電子機器から声が聞こえるがそれに構わず電話を終わらす。そして、私に向き合い、

「一緒に待っていてもいいか?」

ぽつり、と

(えっ?えっ?)

あまりに一瞬のことで頭が追いつかなかった。慌てて口を開く。

「あ、あの…いいんですか?」

詳しい電話の内容は分からないが。私は自然とこう言っていた。すると皇さんは別に、いい。とだけ言い私の隣に腰を下ろすと皇さんは、鞄から一つの藍色の冊子を取り出す。表紙には近日始まる予定であるドラマの名前が記されていた。その文字をじーと見つめる。

「幼馴染」

「えっ?」

「主人公の幼馴染として出る。」

「へぇー!そうなんですか。」

私がそう言うと、目を台本にやりながら短い黒髪を揺らし、こくりと頷く。

「頑張って下さい!ドラマ絶対に見ますね!」

皇さんの幼馴染役、楽しみにしていますね!と言うと、台本にあった片方の腕が私の頭まで伸ばし、ぽんぽんと撫でられる。斜め上を見ると、無表情で台本を見る皇さんの横顔。不思議と胸が暖かくなるのを感じる。
ぽかぽかになる心と緩む頬を隠すように私は譜面に目を落とした。
大雨だったはずの雨は優しく地面を濡らしていた。


ある雨の日のふたり



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