リクエスト14.「不感症とハンジさん」
突然だけど、私は不感症なんだと思う。
自慰はもちろん、セックスでも感じられない。
それは私のコンプレックスであり、言いたくはなかったのだけれど、それが原因で別れるくらいなら、と、ハンジさんに告白されたそのときに、私はそれを打ち明けた。
「つまり、君はセックスしたくないってこと?」
「いや、そういうわけじゃ…」
「私は、あまり自分が何かされるのは興味ないから、君が私に…というか誰が相手でも触られたくないと言うなら、触らないよ」
「いえ、触られるのは嬉しいですけど、その…何されても、反応できないと思います」
「触れられるのが嫌なわけじゃないんだね?」
「はい」
「なら、問題ない!」
「えっ?」
「気持ちいいのだけがセックスじゃないよ!
いいじゃない、お互い服脱いで、人肌感じられればそれで!
それでもし、君の不感症が治っちゃうようなら、それはそれでいいしね」
「…いいん、ですか?」
「いいんだよ、私は君が好きなんだ。
正直、君が私に触れられてもいいって思ってるなら、それだけで十分だよ!」
泣きそうになった。
よかった、嫌われなかった。
それがたまらなく嬉しかったのだ。
それから、私たちのしているセックスといえば、お互い服を脱いで、抱き締めあったり、舐め合ったり。
正直それは女性同士のじゃれあいにしか見えなかったろうが、私たちにとってはセックスだった。
不感症なのに舐められて感じるのか?と言われたら、それは全く感じない。
だけれど、好きな人の人肌を感じながら、触られたり、触ったりは、"気持ちいい"。
安心するし、心地よかった。
「あは、胸すっげえやわらかい」
「あはは、そんなことないですよ…」
「乳首はたつんだけどなあ」
「吸ってみます?赤ちゃんみたいに。……なんてね」
「いいの!?」
「…いいですけど、別にかわいい反応とかしませんよ」
「赤ん坊に乳吸われて感じる母親がどこにいるのさ!」
「……すみません、これそういうプレイでしたか」
言うが早いか、ハンジさんが私の乳首にちゅうちゅうと吸い付いてくる。
私よりずっと年上のお姉さん(もしかしたらおばさんかもしれない、なんて言ったら怒られるけど)である彼女が、言葉通り赤ん坊みたいにそんなことをしているのは光景としてすごくアンバランスだった。
けれど、甘えられているみたいで嬉しくなる。
「母乳、出ないかなあ…」
「私に、他の男性の子を妊娠しろと?」
「別にそういうことじゃないよ。
ただ、単純に……飲みたいなって」
「母乳って飲むとお腹壊すらしいですよ」
「ありゃ、じゃ飲めないな」
そう言いながらも、彼女は私の胸に頬を刷り寄せながら、まるで乳を待ちわびるように吸っていた。
一瞬、感じなくて申し訳ない気持ちにもなったが、ハンジさんの顔が心底穏やかだったので、私もこの心地よさに身を任せることにした。
かれこれ一、二時間飽きもせず互いに人肌を求めあっていたが、そろそろ睡魔がやってきた。
「ん、ハンジさん…」
「なあに…?」
「何だか、眠くなってきた…」
「うん、私も……君の肌が暖かくて、すげえ気持ちい…」
「私、も」
ぎゅうっと抱き締められる。
ハンジさんの身体は引き締まっていて筋肉質だけれど、女性特有のやわらかさもあって、これが私は妙に好きだった。
すでに意識の落ち始めているハンジさんの息を耳で感じながら、私もこの安心感に微睡んで目を閉じた。
この心地よさはきっと、私だけが彼女とは味わえるのだろう。
そう思ったら、幸せが込み上げた。