この前、人生初の"彼女"に、プロポーズされた。

付き合って二年、同棲して一年。

自分がまさか女の人と結婚しようと思う日がくるなんて思っていなかったけれど、遡れば、同棲する日だって、付き合う日だって、好きになる日だって、来るとは思わなかった。

「ねえ、ハンジ」

「何?」

「ハンジが私に同棲しようか、って言ってくれたときのこと、覚えてる?」

「…ああ、覚えてるよ。
なんかすっごい緊張したのだけは、よく」

「そうだったんだ?」

「そうだよ」

「あのとき、嬉しかったなあ」

「プロポーズより?」

「まさか。プロポーズの方が嬉しかったよ」

「ならよかった」

「…でも、本当にあのとき、嬉しかった」







同棲中の彼女と同棲するまでを思い出した







「ねえ、同棲しようか」

「えっ?」

付き合って一年になる、まさかの彼女に言われた一言。

デートの待ち合わせをしていたカフェで、昼食前なのに頼んだケーキにフォークをさしたまま固まる。

「嫌?」

「ううん、全然…!でも、びっくりして…」

目をぱちくりさせる。

そもそも、私はレズビアンではなかった。

女性を好きになってしまったとき、思わず終わったと思った。

好きになったそのときには、彼女がまさか同じ同性も愛せる人だとは知らなかったし、本当にやらかしたと思った。

だから、そもそも付き合うことが非現実的だったのに、こんなところまで来れると思わなかったのだ。

ハンジが、家事を全くしない仕事中毒だっていうのは、知っている。

だけど、彼女との円満な生活が、私には想像できた。

一緒に暮らして、料理や掃除はそこそこに、たまにほとんどやらないハンジを怒ったりしながら、たまには仕事が上手くいかなくて、ハンジに泣きついて。

「…なまえ?」

「うん、しようか…」

「え?」

「一緒に、住む」

「…本当に?本当にいいの?」

「うん…家事を任せっきりにしないでね」

「当たり前だよ…!愛の共同作業だって!」

「馬鹿言わないでよ…」

思わず涙が出そうになるのをこらえながら喋るから、少し言い方がぶっきらぼうになってしまう。

それでも、嬉しそうに私の手を握るハンジがすごく嬉しそうで、私までもっと嬉しくなる。

周りの人たちは、私をどう思っているんだろう?

同棲って言ってるから恋人?同棲はルームシェアの間違いで、ただの親友同士?

どっちでもいい、とにかく私は幸せだ。

「でも、何でいきなり?」

「ああ、うん…。
私も、本当に突然、思いたったんだよ。
私たち、付き合ってもう一年たつでしょ?」

「そうだね」

「早いなあ、って思った。
私、なまえとはすぐに別れちゃうんじゃないかと思ってたから」

「私にはすぐ飽きるつもりで付き合ったってこと?」

「逆だよ、なまえが、私に、…すぐ飽きちゃうと思った。
だって私から好きになって、私が無理やりこっちの世界に引き込んだようなものじゃない。
なまえだったら、私なんかよりもっといい男見つけて、普通に結婚して、普通に子供生んで、そういう人生だって、歩めたかもしれないのに…」

「…そんなこと、言わないでよ」

彼女は知らないんだ、本当はきっと、私から好きになったんだってこと。

私は本当に、あなたが好きでたまらないんだってこと。

「ごめん、しんみりさせちゃって。
とにかく、まさかこんなに長く付き合えると思わなかったんだ。
それでふと、あ、一年だ、って思ったら、もう一歩先に行きたいな、って思ったんだ」

「…そっか」

甘いケーキを口に運ぶ。

それを見て、ハンジがふふっなんて笑うから、照れてそれ以上食べられなくなった。

「じゃあ、今日のデートは不動産屋さんだね」

「ああ、そのことなんだけど…」

ハンジが一口コーヒーを啜る。

「家に来ない?」

「えっ?」

「なまえも来たことあるから、知ってるだろ?
私のうちが広いの」

「う、うん…知ってるけど」

「一部屋、なまえの部屋にしようと思って、片付けたんだ」

「…ハンジが!?」

「私だって片付けくらいするよ!
自炊もする!一人暮らしなんだから!」

「嘘ー…」

「ひどいな、全く!
とにかく、一部屋なまえにそのまま渡せるように、私なりに掃除したんだ。
たぶん、なまえが今住んでる部屋くらいの広さは余裕であるから、家具さえそっくりそのまま運べれば、すぐにでも一緒に住めるはずだよ」

「…私に、断られるかもしれないのに、そこまでしてくれたの?」

「…き、気が早いなあとは思ったよ。
でも、同棲したいなって思ったら、いてもたってもいられなくなって…。
だから、今のうちに私一人でできることは、しておこうって…」

「…ふふ!」

「笑うなよ!」

「だって、ハンジ顔真っ赤…!」

ふふふ、と堪えても笑いが止まらない。

ハンジが柄にもなく真っ赤な顔で口をぱくぱくさせている。

「とにかくだ!
暇ができ次第でいい、部屋を見て、それから家から色々運んできてよ。車とか、私出すからさ。
とりあえず最初はベッドとか」

「え?ベッドっている?」

「なまえ、意外と爆弾発言だよ、それ」

「え…だ、だって、同棲って、そう、でしょ…?」

「そうだけど、一応自分の部屋にもベッドは会った方がいいよ。
想像したくないけど、たまには喧嘩だってするだろうし、お互い一人になりたいときもくるって。
基本は、私のベッドで寝ていいから」

「…うん」

「いつか気持ちが離れるって言ってるわけじゃないよ。
ただ、私は研究に没頭しがちだし、家に帰れないときだってある。
そういうときに、私のベッドで一人で寝るのって、寂しくない?」

「それは、そうかもしれない…」

「でしょ?やっぱり、自分一人で眠る部屋、ってあった方がいいよ」

「そうだね…」

「うん、じゃあそうしよう。
…にしてもなまえ、毎晩一緒に寝るつもりだったんだ?」

「ふ、普通でしょ!?」

「んー、いや、てっきりなまえのことだから嫌がるかなあ、って…」

「え?何で?」

「いや、だって恋人同士が一緒のベッドに寝てすることなんて一つしかないじゃん」

「…え?……は!?バカ!!」

「いってえ!」

「毎晩する気!?」

「違うの!?」

「違うに決まってるでしょ!?」

「そんな!!期待だけさせておいて!!」

「普通そんな期待しないの!最高でも三日に一回!」

「言ったな!?絶対三日に一回はするからね!?」

「言うんじゃなかった!!」

ここはカフェ、文字にするとぎゃあぎゃあ騒いでいるように見えるが、あくまで常識をわきまえた音量で話しているので心配はしないでほしい。

ただ、万が一私たちの会話に聞き耳をたてている人がいたら、その人には申し訳ないが聞かなかったことにしてほしい、とだけ思った。

「自分が言ったんだから、守ってね?」

「…疲れてるときは、なしだよ」

「大丈夫、そのときはマッサージに近い方にしてあげるから」

「いや、意味わからない…」

「あはは、…と、なまえ。ケーキは食べないの?」

「あ…。うん、食べる…」

「うん。じゃあ、それ食べ終わったら、とりあえずランチ行こうよ。パスタ」

「珍しく随分女子力高いもの食べたがるね」

「ナポリタンってたまに無性に食べたくならない!?」

「知ってる?ナポリタンって日本料理なんだよ」

「え!?そうなの?」

「そう、だから日本人の口に合うんだって。
ハンジって最近、すごく舌が日本人化してるよね」

「大丈夫、カルトーフェルもヴルストも好きだよ」

「か、カルト…?何?」

「意味はあとで調べてね?」

「えー、何で!」

「Ich liebe dich!!」

「いきなり何?でも、さすがにそれはわかる!」

「じゃあ、意味言ってみて?」

「い、嫌だよ、人前で…」

「わかるんでしょ?言ってよ」

「…あ、愛してる」

「ふふ、ありがとう!」

最後に残ったケーキを、ハンジの口に突っ込んでやった。




「なまえいいお店知ってる?」

「うん、友達と行ったことあるけど、美味しかったよ」

「友達かあ。嫉妬しちゃうな」

「その子彼氏いるから」

「ならよかった」

「ナポリタンは食べてないからわからないけど」

「ペペロンチーノでもいいなあ」

「にんにくくさい口で私とキスする気?」

「…そっか、じゃあ食べたら牛乳買いにいこうか」

「あ、結局ペペロンチーノにするんだ…」

「嫌?」

「いや、別に歯磨きでもしてくれるなら全然いいよ」

「やった」

結局、ハンジが食べたのはナポリタンでもペペロンチーノでもなく、カルボナーラだった。

「一回ハンジのうち行っていい?」

「いいよ」

「片付けた部屋見せてよ」

「うん、そうしようか」

お外でデートの予定を、お家デートに変更し、一度ハンジの家へ行く。

「解約には1ヶ月かかるから、実際に同棲できるのは、もうちょっとあとになるね」

「それまで半同棲のようにしてもいいよ、むしろして。
それで、解約までにゆっくり荷物を運べばいいよ」

「そういえば家賃ってどれくらい?折半だよね」

「いや、いいよ。私が持つ」

「それは悪いって」

「でも、たぶん折半したら、かなりなまえに負担がかかると思うよ?」

「…いくら?」

「このくらい」

「高っ!」

「言ったでしょ?」

「そっか、そうだよね…3LDKだもんね…」

「うん」

「家族でも2LDKとかだったりするのに、何若い女が一人で3LDKなの…!」

「研究部屋に使おうと思って、とりあえず三部屋くらいいるかなって」

「金遣いが荒い!そんなノリで借りたの…?」

「いや、そんなに高くなかったから…」

「高いよ!」

「んー、まあ家賃云々は後で決めようよ。
とりあえず、今日は家においで」

「う、うん…そうする」

「よし、じゃあ行こう!」

いざハンジの家に行って、彼女が私のために開けてくれた部屋に行ってみる。

「嘘!綺麗!」

「ひどいな!」

「まあ、ほこりとかはあるけど…」

「姑かい!?」

「ううん、全然綺麗だよ、ありがとう!」

「いや、なまえが喜んでくれたなら、よかった」

「うん、確かに私の部屋くらいあるし、普通にこっちに暮らせそうだね。
タンスだけ買わなきゃかな」

「ないの?」

「うん、備え付けの使ってたから」

「そっか。じゃあ、ホームセンターでも行く?」

「そうだね、見てみるしかできないと思うけど」

「まあ、気は早いしね」

「いっぱい入るやつがいいなあ」

「…なまえ、服多いもんね」

「普通だよ。ハンジが少ないんだって」

「だってあんなにいらないよ」

「いや、ハンジは少なすぎ」

「じゃあ、今度なまえが私の服選んでよ」

「よし、スカートね」

「やっぱりやめようか」

そんな話をしながら、ぐだぐだと近くのホームセンターへ行き、ひやかすだけひやかして、何も買わずにハンジの家に帰った。

途中、スーパーに寄って材料を買って、二人で料理した。

意外だったのは、思うよりはハンジが料理ができたこと。

ひどいな!なんて彼女が言っていたけれど、もっとできないものだと思っていた。

それから、しばらくのんびりお話でもして、ハンジに送ってもらって、うちに帰った。

この部屋とも、もうすぐお別れなんだな、なんて思ったら、思わず涙が出た。




「で、泣いたの?」

「そう、思わず泣いちゃった」

もう、彼女と一緒に暮らして一年。

この部屋にも、この家にも、もうずいぶん愛着がわいたものだ。

「別に、そこまで気に入って住んだ部屋じゃなかったんだけどね…」

「そっか。いいことだよ、あって当たり前のものを、大事に思えるのは」

「それってハンジのこと?」

「え?」

「私にとって、自分がハンジの傍にいることはもう当たり前のことだけど、ハンジはすっごく大事だから。
…でも、ハンジが私の傍にずっといてくれているのは、当たり前のようで、奇跡なんだよね」

「何、いいこと言ってるの。でも、そうだよね。そう思う。
私たち、会えてよかったね?
同性だし、国籍も違うのに…」

「…うん」

ハンジの肩によりかかる。

彼女も、同じように寄り添ってくれた。

「なまえ、好きだよ」

「…うん」

「幸せになろうね」

「……うん」

大好き。





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