ゆうみ様よりキリ番10000リクエストの「八方美人なハンジさんを束縛しようとしたら実は策士だった話」です。
策士っぷりはあまり出せなかった気もしますが、ぜひお持ち帰りください。




ハンジ・ゾエ分隊長。

私の上官であり、恋人。

変人だけど、強くて、かっこいい。

そして何より優しい。

ずっと前、まだ兵士になりたてだった頃、勇気を持って憧れていたことを伝えれば、彼女は名もなき私に対し誠意を持ってお礼を言い、しかも「何かあれば私のところにおいで」とさえ言ってくれたのだ。

憧れが恋になるのは早かった。

好きで好きで、でも彼女は私と同じ女性で、でもたまらなく好きで、押して押して押しまくった。

ハンジさんが、私以外の女の子にも男の子にも優しいのは知っている。

けど、それも気にならないくらい、彼女に夢中だった。

あるとき、私はいてもたってもいられなくなって、場所や立場もわきまえずに、彼女に「好きです!付き合ってください!」と言ってしまった。

頭を下げたまま、きっと私に幻滅しただろうハンジさんの顔を見るのが怖くて、私は泣きそうになった。

女同士、何てことない部下、誰もいない廊下。

最悪だ、どうして今言ってしまったんだろう。

「いいよ」

「えっ?」

ばっ、と顔を上げる。

頭にぽんっとハンジさんの手が置かれた。

「いいよ、付き合おう」

「…本、当に」

「うん、本当に。
……ああ、ほら泣かないで。おいでなまえ」

ぎゅうっとハンジさんに抱き締められる。

本当に幸せだ、こんな幸せでいいのかな。






八方美人な彼女を束縛しようとしたら彼女は策士だった






「ハンジさん、昨日な子は…」

「ああ、彼女は相談したいことがあるって」

「じゃあ、一昨日の子は?」

「彼は訓練に付き合ってほしいって」

「……」

わかってた、彼女が誰にでも優しいって、わかってた。

聞けば、答えてくれる。

あの子は誰、何してたの。…全て、きちんと話してくれる。

やましいことがないのもわかっている。

信じてるし、単純に話に矛盾もない。

つまり、彼女は私に誠実でいてくれた。

だから、私は今まで彼女に何も言えなかったのだけれど、そろそろ、私も我慢の限界だったのだ。

そこで、見てしまったのが、ハンジさんが女の子に抱きつかれたところ。

「ハンジさん…私…っ!」

「…困ったな」

ハンジさんが彼女の肩を押す。

「ごめんね、私彼女いるんだ」

女の子の頭をハンジさんが撫でる。

その子は頭を下げてから、俯いてどこかへ言ってしまった。

仕方ない、むしろ誇らしいくらい。

ちゃんと誠実に対応してくれた、相手の子にも、私にも。

でも、もう嫌だ。

「ハンジさん!」

「へっ?何、なまえ!?」

女の子が去ったのを見ていた彼女が驚いた顔でこちらを見る。

「見てたの?」

「見てました、全部……」

「そっか、悪いことしたね」

「もう、嫌です…」

「…なまえ?」

「ハンジさん、行かないで…」

「私はどこにも行かないよ?なまえ」

ハンジさんが私を抱き締めてくれる。

「嫌なんです、ハンジさん…!
何で抱きつかれたりするんですか!」

「……なまえ」

理不尽なことを言っているのはわかっている。

不可抗力じゃないか、あんなの。

「何で相談なんかされちゃうの!
断ってよ、私以外と話さないで…っ!」

「…なまえ」

「ハンジさんは、私のものなの!」

「なまえっ!」

「っごめんなさい……」

嫌われる、嫌われた…!

「捨てないで…」

「ああ、違う、違うよなまえ。
怒ったわけじゃないんだ、だから泣かないで」

「…ハンジさん」

「ごめんね、なまえ。
なまえがまさか、こんなに私のことを好いていてくれるなんて、思ってなかったんだ。
だから、私は嬉しいんだよ」

「…えっ?」

「だって、なまえってば全然私に会いにきてくれない」

「え、っと…」

確かに、私はハンジさんに自分から会いに行くことは少ない。

彼女は恋人だけどあくまで上官で、それもあるがそもそも彼女は忙しい人なんだから、邪魔したくなかった。

好きすぎて、重たくなりたくなかったのだ。

「私には会えないのに、友達とは話すの?」

「そんな…、違います。
ごめんなさい、ハンジさんの邪魔、したくなかった」

「どうして私が君を邪魔にするの?恋人でしょ?」

「…はい」

「なまえは、私が会いにいったら邪魔?」

「そんなことないです!」

必死にハンジさんにしがみつく。

「なら、私もなんだよ。
どうして君を邪魔に思うの?
もっと会いに来て、もっと束縛してよ。
どうしてさっきみたいに怒ってくれないの?
なまえは私の彼女でしょう?
なら、もっと私を独占してよ…」

ハンジさんにしがみついていた私に、ハンジさんが逆にしがみついてくる。

「ハンジさん…」

「……ごめん、幻滅したよね。
こんな、女々しいところ見せて、なるべく男らしく振る舞おうと、思ってたんだけど」

「違、違う、違います!」

「え…?」

「違います、私はハンジさんを、男の代わりにしたいんじゃないんです。
ハンジさんだから、好きなの…」

「なまえ…」

「ごめんなさい、ハンジさん」

「ううん、ありがとう…」



ハンジさんの本音を聞いてから、彼女は態度をほとんど改めなかった。

強いて言えば、なるべく私と一緒にいてくれるから、誰かが話しかけてくる回数が減ったくらい。

そりゃそうだ、自分でもわかってたけど不可抗力。

彼女な何をするでもない、相談される、訓練に付き合ってほしいと頼まれる、抱きつかれる、何かをされただけ。

断ればいいと言うこともできるけど、彼女の立場からそれが不可能なのは、私にだってわかる。

でも、だめだった。

たぶんあのとき私のなかで、何かがぷつんと切れたんだと思う。

なのに、ハンジさんが私を捨てなかったから。

「ハンジさん!この前あそこの男に触られてた!」

「ちょっとぶつかっただけだよ」

「あと、さっきどこに行っていたの!」

「エルヴィンのところにちょっとね」

「何で私に一言言ってくれないの!?」

「雑談程度だったからさ」

「雑談なら行かないでよ…!」

「ごめん、でも行かないわけにもいかなかったからね」

「私のこと愛してないの!?」

「愛してるよ?」

「嘘つけ!」

「疑り深いなあ。なまえだけだってば」

「……本当に?」

「本当に」

「…愛してる?」

「愛してるよ」

絶対自分でもおかしい、それはわかっている。

段々ハンジさんにイライラすることが増えて、段々彼女のことばっかり頭に浮かんで、そんなことをしているうちに友達も減った。

けれど、ハンジさんが好きで好きで、それは変わらなくて、よりイライラする。

「ハンジさん…」

「なあに、なまえ!」

呼べば、抱き締めてくれて、キスしてくれる。

自分がおかしくなっていくにつれて、ハンジさんだけが私を構うようになって、どんどんおかしくなる。

「一緒にいてください、ずーっと」

「うん、ずっといるよ」





「ハンジさん…」

「なあに、エレン。
あ、もしかして実験の話聞きに来てくれた!?」

「い、いや、違います」

「なあんだ、残念。で、一体私に何のようかな」

「……なまえ、最近おかしくないですか」

「え?そう?」

「おかしいですよ。
ずっとハンジさんが浮気してないかとか考えて…」

「あ、そうなんだ」

「ハンジさんに対しても、異常に束縛してるじゃないですか。
昔は大人しくて、ハンジさんの邪魔をするまい、ってぎりぎりまで我慢するようなタイプでしたよ」

「そう、そうなんだ…ふふっ」

「ハンジさん?」

「ふふふ、あは、ぅ、っはははは!」

「…ハンジさん!?」

「なまえやべえかわいいよ!
あっははは!!上手く行くわけだ…っはははははは!」

「…………」

「あー、本当面倒くせぇ!!」

「…なら、別れればいいじゃないですか」

「嫌だよ!あんないい女いないぜ!」

「……普通だと、思いますけど」

「だからいいんじゃないか!
私にとっては唯一無二なのに、私以外にとってはその他大勢でしかないんだよ!」

「……(関わるの、やめよう)」

「あれ、エレン?
帰っちゃうの、エレン!?
もっと私の話を聞いておくれよーー!!」





ゆうみ様、ちょっと前に書いた短編と被った気もするのですが(笑)、素敵なリクエストありがとうございました。


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