改めて言う必要もないだろうが、私の彼女兼婚約者は大学で講師をしている。

もちろん大学勤務者の本業は授業ではなく研究で、あくまで私の彼女も研究に熱心なのだが、彼女だって生徒の前にたって授業をしているのだ。

先日、現在は無事書き終え提出できた論文のために研究室にこもっていた彼女に、別に得意でもない手料理を届けるため、彼女の大学に行ったのだが、単純に、彼女は大学でどんなことを生徒の前でしているのかが、気になった。

今日は平日、しかし私は幸運なことに休み。

こんな機会はないと、彼女の持っていたシラバスを確認し、今日彼女はどこで授業をやるのだろうかと探したところ、お昼前に講義をやるらしい。

大きな部屋でマイク持ってひたすら話すんだよー、と彼女が言っていた授業だから、きっと潜入してもバレない。

よし、と若干若作りな服とメイクで、私は大学を目指した。





同棲中の彼女の講義に潜ってみた






授業開始を告げるチャイムが鳴る。

だだっ広い教室の、影になるような後ろの方の席に座って待つ。

何も書く気もないが一応ルーズリーフを広げて、シャーペンを持った。

さらにハンジの部屋にあったのを勝手に借りてきた教科書もパラパラと見る。

だめだ、意味がわからない。

少し待つと、何か紙に持って白衣を着た彼女が現れた。

白衣姿、初めて見た。

思わずきゅん、としたが、なんとなく悔しくて、とりあえず気づかなかったふりをした。

「じゃあ今日は118ページからねー!」

遠くでハンジがそう言ったので、とりあえずそのページを開く。

もちろんわからない。

「あの……」

「はい?」

隣に座っていた男の子が、話しかけてきた。

綺麗な金髪だなあ…。

「すみません、少しだけ教科書見せてもらってもいいですか?」

「え?どうぞ」

忘れちゃったのかな。

別に私は教科書がなくても困らないので、それを彼に渡した。

この間にも、ハンジが何やらべらべらと話続けている。

「ありがとうございます」

「もういいんですか?」

「はい、ハンジ分隊長はほとんど教科書は参考程度だと聞いたので、大体の内容が把握できれば大丈夫です」

……分隊長?

「兵団の方?」

「えっ?あ、はい…。えっと、違うんですか?」

「…私、実は大学生じゃないので」

「え?なら、どうして…」

「ハンジと……ちょっとね。
だから、あいつがどんな講義するのか、気になって」

「……もしかしてなまえさん?」

「……え、何で知って」

「やっぱり!その指輪、分隊長もしていました。
それに、エレン、覚えていますか?
僕の幼なじみなんですけど、彼も言っていました」

にこ、と彼が笑う。

ああ、この子があの噂のエレンくんの両手にいる花(※男)か、と納得する。

世界は狭いなあ……。

ちなみに指輪というのは、先日やっとできあがった私たちの結婚指輪。

これでハンジを狙う生徒たちも諦めるだろう。

彼女は私のものなのよ、と妙に誇らしくなる。

「僕、アルミン・アルレルトです」

「アルミン、さん」

「さん、なんて付けなくていいですよ」

「じゃあ、アルミンくん」



一応授業は受けつつ、ぽつりぽつり彼と話した。

私のルーズリーフは相変わらず真っ白だけど、アルミンくんのノートは真っ黒だ。

彼はエルヴィンさんの生徒で、理学部ではないらしい。

本来はこの時間は他の授業を受けているのだが、休講になったので、エルヴィンさんにこの時間ハンジが講義している、と聞いて来てみたらしい。

休講なら休めばいいのに、勉強熱心な子だ。

「……意味わからない」

「ああ、ハンジ分隊長の授業はむずかしいって有名ですからね…」

「むずかしいのもあるんだろうけど、テンションが…」

「……あはは」

最初はそこそこ、落ち着いていたと思う。……少なくとも、ハンジにしては。

なんかもう、授業中盤の今に至っては、「通説はこうだけど、私の考えではこうだ!」とか、「やっぱり、ここはこうだと思うんだよ!君はどう思う!?」とか、とにかく永遠自分の研究について話している。

アルミンくん曰く、一応教科書の本筋からはずれていない…らしい。

すごいのか、そうじゃないのか…。

「これ、理学部必修の授業なんですよね……」

アルミンくんが苦笑する。

「え?生物学科じゃなくて?」

「はい、学部の必修らしいです」

「……わからないけど、化学とか専攻してる人は、大変なんじゃないかな」

「みたいですね…」

あはは、なんて小さな声で二人で笑う。

ハンジを見ると、何やら話ながら、黒板に何かを書きなぐっている。

「つまり、こういうことなんだ!」

…わからない、黒板をばんっ!と叩いて力説しているがわからない。

前の方に座っている生徒たちは、一生懸命何かをノートに書いている。

しかし、後ろの方の生徒たちは寝てしまっている子や携帯をいじっている子も多い。

…残念ながら気持ちはわかる。

私も寝てしまおうか、そう思って突っ伏す。



「……あれっ!?」

「おはよう、なまえ?」

「えっ!?」

ばっ、と顔を上げる。

「随分と爆睡してたね」

「じ、授業は…?」

「さっき、終わったよ」

「アルミンくんは?」

「さっき出ていったよ。
でもひどいな、私よりアルミンなの?」

ハンジが私の頭を撫でる。

それが気持ちよくて思わず流されそうになるが、はっと気づいて周りを見回すと、まだ生徒は何人も残っているし、こちらをちらちらと見ている。

「ハンジ…っ、」

「何?」

「……まあ、いいや」

「そう?」

そのまま撫で続けられる。

……何か感じとってる子もいるみたいだけど、このままいたかった。

「なまえ、どうしてこんなところにいるの?」

「……今日、休みだったから、ハンジの授業風景を見てみたくて」

「そう。どうだった?」

「テンション上がりすぎて、何話してるんだかわからない。どう見ても変態」

「ひどいな」

「…白衣かっこいい」

「あはは、ならよかった!」

ハンジが私の手を引いて立たせる。

「なまえ、お昼は?」

「え?食べてないけど」

「じゃあ、一緒に学食行こう。奢るよ」

「……不味いんでしょ?」

「いや?私はそんなに嫌いじゃないよ」

「…そ、じゃあ行こうかな」

ハンジに手を引かれて、教室を出る。

「みんな見てるよ」

「私たちが手繋いでるから?
いいよ、別に。見させておけばいい」

「……まあ、いいか」

「今日は妥協するねえ、なまえ」

「そういう気分なだけだよ」

「じゃあさ!今夜カメラ、ってぇ!!」

「馬鹿、何で全部そっちに行っちゃうの!」

「いってえよ、生徒見てるんだよ!?叩かないでよ」

「それは私の台詞だよ!
みんな見てる前でそういうこと言わないで!」

「えー」

「えー、じゃない!」

こんなふうに喧嘩しながらも、私たちは手を離さなかった。

そのまま学食まで行って、ザ・学食的なご飯を食べて(まあまあの味)、校門まで送ってもらって、家に帰る。

「…何あれ、何あれかっこいい、白衣…!」

ネットで毎回おかしなものを買ってるのはハンジなんだから、たまには私も勝手に買っても許される気がする。



「で、買ったの?」

「ごめん…ふふ」

「反省してないね。
別にさ、白衣はいいんだよ、いつでも着る!
だけど、何でナース服がないの!」

「白衣同士のがいいかなって!」

「…うん、全く構わないんだけど、なまえのテンションにびっくりしてるよ、私」



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