※なんちゃって古代〜中世(?)パロからの現パロ
※姫主



私たちの世界では古来より巨人なる存在が恐れられていた。

その力は人間を滅ぼす力とされていたが、先の戦争で、敵国軍がなんとその巨人になるという力を使って攻めこんできたことで、我々は国の領土の三分の一を失うことになった。

我々の国は壁で三重に囲まれた国全体が要塞の国家であり、強固な守りを実現していたのだが、その巨人の力で壁は壊され、我々に残された壁は二枚となってしまった。

その五年後、不可侵条約が執行し、再度攻め込まれた際、前回の戦争で敵地となってしまったシガンシナ区より逃げてきたエレン・イェーガーという少年が、なんと巨人になり敵を蹴散らし、さらに一部土地を奪還するという、凄まじい功績を残し、最終的に痛み分けに終わるという、我々にとっては勝利以上の結果を残したのだった。

ちなみに、私についてだが、私はこの国の姫という立場にあった。

私は女なので、地位はあったが権威はなかったので、エレン・イェーガーという少年について、口出しする権利は何もなかったが、私としては彼の存在は我々の希望だと思ったし、どうにか生かしたいと思っていた。

……本音を言うと、審議所で見た彼に、自分の立場も忘れ恋をしてしまったというのもあるのだが、それは置いておくとする。

ちなみにその審議とやらだが、それは我々の恐れる人類を滅ぼす存在である巨人になれる彼を、生かすか殺すかという問題だった。

結局、彼は"人類の脅威"ではなく、"人類の希望"として、生かされることが決まった。

そうなれば彼は一部王族並みの扱いを受けるようになり、私も巨人になれる少年の"視察"、といった形で彼と関わることも多くなり、…姫としての自覚がないと言われてしまえばそれまでなのだが、彼と恋仲のような関係になってしまったのだった。

しかし、世界は残酷で、私は父である王に呼び出され、こう告げられたのだった。

「婚姻の準備をせよ」





我々の希望だと思っていた少年に希望を奪われた






「それって政略結婚じゃないですか!」

いつも密会をしていた倉庫で、訓練帰りのエレンにそのことを伝えれば、彼は真っ青な顔をしてそう言った。

そう、政略結婚。

かの国との戦争を今後避けるために、私が嫁ぐことで同盟関係を結ぼうというのだ。

詳しくは聞いていないが、きっとエレンという存在が出てきて、絶対的優位には立てなくなったかの国が、我々との戦争回避を考え始めたところに、我が国が政略結婚を申し込んだのだと思う。

もちろん、私は顔も知らない、この前まで敵だった国の王子となんて、結婚したくない。

けれど、こんな良いタイミングもないのだ。

私は決して"姫"と言われて想像するような見目麗しかったり、優雅だったりするわけでもない。

けれど、たぶん年的にも、今が一番、綺麗なとき。

そして、エレンが我々にもたらした希望と、相手国にもたらした絶望。

私は腹をくくるしかないと、わかっていた。

それでも、私が一つ気がかりなことと言えば、そのエレンのこと。

エレンには、私から近付いた。

下心がなかったわけではないが、こんな関係になるつもりはなかった。

例え、エレンが迫ってきたとしてもだ。

それでも、私は自分の立場をわきまえることなく、そして姫という地位を捨てる覚悟もなく、彼を受け入れてしまったのだった。

「何で…!何でなまえ様がそんなことしなくちゃなんですか!」

「ごめんなさい、エレン…」

「悪いのはなまえ様じゃないですよ!
なまえ様の気持ちも考えないで、勝手に自分たちの都合でこんなことを決めた、大人たちが悪い!」

エレンのいいところであり、悪いところだった。

純粋で、真っ直ぐで、それゆえに自分が悪いと思ったものは、はっきり悪いと言ってしまう。

その"大人たち"には、私の父も、相手国の王も含まれるのに。

「エレン、わかって」

「どうして!」

「どうして、って…」

「なまえ様は、俺を受け入れてくれたんじゃ、ないんですか!」

「それは…」

「そうでしょう!?
ならなんできちんと断らないんですか!」

「そんなことしたら、私もエレンも殺されちゃうよ!」

「だからなんですか!
俺はそのくらいの覚悟があってなまえ様のこと好きになったのに、なまえ様は、違うんですか!?」

息を飲んだ。

驚いた。

呼吸が大きくなって、肩が上下する。

エレンが私の肩を掴んで、大きな目を見開いて、私の身体を揺する。

「なまえ様!
死ぬのが怖いなら、一緒に逃げてくださいよ!
大事なもの全部かなぐり捨てて、俺と一緒に来てください!
なまえ様は俺とずっと一緒にいるって言ったじゃないですか!
いつかこんなことになる日が来るかもしれないって、なまえ様だってわかってただろ!?
それでも俺と一緒にいるって言ったじゃねえか!
なら黙って着いてこいよ!!」

「ひ…いや、いや…ごめんなさい。
ごめんなさい、エレン……」

「なんで謝るんだよ…?
なあ、なまえは何にも悪いことしてねえだろ…?」

「ごめんなさい…、わかって、わかってよエレン…」

「わかんねえよ!」

がたん、と肩を掴んだまま壁に押し付けられる。

痛い、怖い、そんなことばかりがぐるぐると巡る。

「何を、わかれっていうんだよ…。
俺は、何をわかればいいんですか…!」

私を壁に押し付けたまま、エレンが頭を私の肩に埋めて、背中を震わせていた。

「なまえ様、俺…ガキだけど、本当に、覚悟していたんですよ。
なまえ様も、全部覚悟して、受け入れてくれたんだと、思っていたんです。
国のお姫様に手を出すってのが、どれだけ罪なことかなんて、俺、ちゃんとわかってました。
でも、俺はなまえ様に何かあったとき、大人しく手を引けるほど、大人じゃないんです。
わかってたでしょう、なまえ様だって。
俺は、そんなものわかりいいやつじゃねえって、わかってただろ。
なのに、逃げる覚悟も死ぬ覚悟も、まして親を説得する覚悟もねえまま、俺を受け入れたのかよ!?
なあ!何とか言えよ、おい!!」

涙で濡れた目で見つめられて、肩をもう一度がんっ、と壁に押し付けられた。

「ごめんなさい…、ごめんなさい…っ!」

「…もういいよ、なあ。
俺はなまえのこと、手放すつもりなんてねえからな……。
なまえにそんな覚悟なくたって、俺にはあるんだよ」

「エレン…?何するつもりなの…?」

あまりに怖くて震えて、涙さえ流しながら問う。

「あ…?お前を連れて逃げるんだよ」

「エレン!やめて!そんなことしたら…」

「殺されるって?平気だよ、俺が守ってやるから…」

「ちが、違うよ…っ!
だって、エレンがいなくなったら、みんな絶望するよ!
私だって、やっと役に立てるときがきたんだよ…?」

「だからなんだよ…。
知らねえよ、そんなこと…」

「何でそんなこと言うの!?」

「なまえのいない世界なんていらねえよ。
何でこの世界はなまえを奪う、何で俺は奪われる!」

「お母さんの仇をとるんでしょう!?
そんなこと、言わないでよ…」

「ああ、とる。
仇はとる…でも、なまえは渡さねえよ。
渡したら、それこそ仇がとれなくなるしな…。
なまえは渡さない、俺がなまえを連れ去ってやる。
それで、仇もとる。…一人でな」

「なに、言って」

「本気だぞ。
なまえが来ないなら、なまえのこと殺して、あの国滅ぼして、この国もぶっ壊してから死んでやる」

「いや、やめてよ…っ!」

「嫌なら俺と来いよ。
そうしたら、この国に何かしたりしねえって」

「私…っ」

「ほら…」







「…っていうお話。
すごいよねエレンになまえって、名前そのままだし、私はともかく、エレンとか性格までそっくりだし」

「そうですか…?
っていうか先輩、これなんの話ですか」

「だから、さっき言ったじゃない、大昔に流行った恋愛小説だってば」

「すごいですね」

「他にも、エレンを主人公にした巨人のお話ってあるんだよ。
エレンが人間を食う巨人と戦う話!」

「色々あるんですね…」

「うん、発祥はわからないけど、エレン少年と巨人を題材にした話が当時流行ったんだって」

「へえ…」

「もしかしたら、エレンはこのエレン少年の生まれ変わりかもね!」

「俺はあんなことしませんよ… 。
したとしても、どうせミカサが追っかけてくるだろうし、そもそもアルミンが俺を説得してくれるでしょうから」

「あー、確かにね」

「だからって俺もなまえ先輩のこと、逃がしませんけどね」

「やだ、怖いー」

「えっ!?そんなことないですよ!」

「あはは、ごめんごめん!」

「ま、別にいいですけど…。
先輩が何て言おうと、俺…先輩のこと、」

逃がさねえから。




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