※現パロ
※アイドルのこと全然知りません
※アイドルがファンを裏切ります
※主のスペックはあくまで平凡です(しかしクズ)
※しばらく勘違いされてますがハンジさんは女性です
なんとなく、華やかな世界に憧れて、目指したアイドル。
親には反対されたけど、何度かオーディションを受けている間に、そこそこ大手のプロデューサーさんにスカウトをされ、あれよあれよという間にアイドルグループとして私はデビューを果たした。
…が、まあ現実は甘くなく、ぼろぼろのライブハウスでコンサートをしようと入るのは良くて10人くらい。
CDだって売れるわけもなく、手売りでどうにか。
あとは、ファンの人を集めて撮影会をしたり…とにかく全く上手くいっていない。
だけど、結成当初私がCDを売っていたときに、買ってくれたあの時以来、ライブにも握手会にも欠かさず来てくれるお兄さん。
あなたのおかげで、つらい毎日も耐えられます。
売れないアイドルから逃げ出したかった
「やあ、なまえ」
「いつもありがとうございます!」
握手会で、いつものように真っ先に私のところに来てくれたハンジさん。
「お仕事、大丈夫でしたか?」
「うん、なまえのために片付けてきたよ」
「そんな…ありがとうございます」
顔が熱くなるのがわかる。
そう、こうやってさらっとかっこいいことが言えちゃう、そんな人。
自分のファンにこんなことを言ってはいけないが、私たちの固定のファンの方は…こう、いわゆる完全なオタク系。
対してハンジさんはものすごく美人だし、いつもきちんとした服を着ていて、逆に浮いている。
ぎゅっと手を握り締められて、何か紙を持たされる。
唯一、困っていることと言えば、これ。
「考えてくれた?」
「……でも」
「まあいいよ。
また来るから、…ちゃんと考えてね」
じゃあ、と言って彼は帰ってしまった。
次のファンが近づいてくる。
私は握らされた紙をさっとポケットに突っ込んで、作り笑いで握手をする。
最初は捨てていた紙を、こうやって受け取ってしまうようになってしまった、私は馬鹿だ、アイドル失格。
それでも、今の私はそんなものにも頼りたいくらい、つらかった。
「やあ、電話ありがとう」
「……あの、いきなりすみません」
「いいよ、嬉しかった」
……電話してしまった。
しかも、会う約束まで。
アイドル失格なのは重々承知している。
ただ、これは完全な言い訳だが、どれだけ働いても食えるわけでもなく、ファンもろくにいなければ、メンバーとも上手くいかない。
そんな私の頼れるのは、あの電話番号が書かれた紙切れだけだった。
「ご飯きちんと食べてる?」
「いえ、…あはは」
「こんなに痩せ細っちゃって…。
デビューした頃は、もうちょっと健康そうだったじゃない」
「あはは…」
「…今日は奢るよ、たくさん食べて」
「そんな…!
こうやってお話させてもらうだけで、十分ですから」
「いいんだよ、私がしたいんだから」
……こんなふうに、出会い?を果たした私たちは、付き合うまではしなかったが、それに準ずるような関係になり、デートを重ねた。
けれどそんな生活を続けて数ヶ月、ファンから匿名で事務所に送られてきたという一枚の写真。
それが目の前に突きつけられた。
「……どういうこと?」
マネージャーの低い声、私は何も答えられなかった。
「これ、いつも来るファンじゃん」
「嘘、なまえファンに手出したの?」
「ありえないんだけど…表沙汰になったらどうすんの?」
メンバーの子たちが次々と口にする言葉が突き刺さる。
身から出た錆、何も言い返せない。
その日は、一応もう彼とは会わない、という約束で、とりあえず許すということになった。
まだ私たちはマスコミが取り上げるようなアイドルじゃないけど、将来はそれを目指している。
だから、本当は私のような問題児は、早急に脱退すべきなのだ。
将来、蒸し返されてグループに迷惑をかけないように。
それでも、私はやめるとは言えず、プロデューサーもマネージャーも、やめろとは言わなかった。
けれど、メンバーとの不和は、いじめに変わった。
無視、仲間外れ、そんなもの。
だけど、私にはつらかった。
それより何よりつらかったのが、ハンジさんから時折かかってくる電話に出られないということ。
彼のことを好きになってしまっていたのもあるし、何かに頼りたい私には、彼からの電話は、馬にとって目の前に吊るされたニンジンも同じだった。
手を伸ばせば掴めるのに、決してそれをしてはならない。
それがつらかった。
「なまえさ、何でやめないの?」
センターのメンバーが、いきなり話しかけてきた。
今まで完全に私の存在を無として扱ってきた彼女だけに、驚いた。
「…何でって」
「あんたがいると、私たちが迷惑なの。
わかる?いいじゃん、あんたは素敵な彼氏がいるんだから、結婚でもして家庭にでも入っちゃえば」
「まだ、若いし」
「アイドルにしてはもうおばさんになりかけてんの!
ファンの間でも、あんたがファンに手を出したらしいって噂になってるの知らないの?
何人もファン離れたんだよ、あんたのせいじゃん!」
他メンバーが、さすがに言い過ぎだと止めてくれたが、彼女の怒りは収まらないようだった。
「あんたは男作るくらいだからその程度の覚悟なのかもしれないけど、私たちは違うんだよブス!
私たちは、お金がないときに服買ってくれたり、お腹すいたときに奢ってくれたり、寂しいときに傍にいてくれる人なんて誰もいないの!
命かけてアイドルやってるんだよ!!」
「……」
何も言えなかった。
アイドルを目指す以上、恋愛は禁止。
少なくとも、私たちのグループはそれがルールで、納得してアイドルやっていたのだ。
どんなに恋に憧れる年頃であろうと、ファンに言い寄られようと、靡いてはいけなかったのだ。
私は、何も言い返さないまま、部屋を出た。
周りに誰もいないのを確認して、手にしたのはスマホ。
……私は、本当にアイドルなら、電話なんてしなかったと思う。
だって、私が彼に電話をした理由は、別れ話をするためとか、そういうことじゃなかったから。
「もしもし、なまえ?
よかった、最近連絡つかなくて心配したよ」
「……これから、会えませんか」
「え?」
「大事な話があるんです」
迷ったが、なるべく人の来ない、狭い公園を集合場所に選んだ。
「…しばらくぶりだね」
「ハンジさん……」
「寂しかったんだよ、会えなくて。
仕事も立て込んで、中々ライブとかにも行けなかったし」
「ごめんなさい。
今日は、大事なお話があるんです」
「ふーん…何かな」
「結婚してください!!」
「は?」
思いっきり頭を下げる。
「私、もうアイドルとしてやっていけないの!」
「なまえ、あの…」
「責任とってよ、あなたと一緒にいたから写真撮られたの!
もう何もかも上手くいかない…助けて……」
自業自得なのはわかっている、その責任を押し付けて、ハンジさんに助けてもらおうなんて、自己中心的にもほどがある。
けれど、追い詰められて尚反省のできない私のような人間の屑は、こうせずにいられなかった。
「なまえ、落ち着いて聞いて。
私は、君を好きだよ。愛してる」
「なら……!」
「でも、私は結婚はできない」
「そんな…っ」
「ああ、そんなに絶望的な顔をしないでよ。
ちゃんと事情があるんだよ」
「事情なんて…。
いいです、わかってたんですだめだって…。
全部私が悪いんですから」
「違うんだよ!
私は、結婚できるくらいなら本当はしたいんだ」
「なら、なんで……」
「なまえ」
ハンジさんに手をとられる。
そして、そのままその手をハンジさんの胸に当てられた。
……あれ?
「あれ!?」
「……ごめん、女なんだ」
「えっ!?」
「騙すつもりはなかったんだけど。
男っぽくしておいた方が、なまえも気にしてくれるかなって。
まあ、元々性別わからない、って言われるようなタイプなんだけど、なまえと会うときは、わざと男らしくしてた。ごめんよ」
「…ええと、結局、どっちなんですか」
「女だよ。心も、身体も。
ただ、女の子が好きってだけ」
「……は、はあ」
「元々はアイドルなんて興味なかったんだよ。
でも、一生懸命CD配ってる君を見たら、なんかきゅーんってなってさ、一目惚れだよ」
「……」
「私は…本当にファンなら、アイドルに手は出しちゃいけないと思う」
「…出してるじゃ、ないですか」
「まあね。
でも、私はアイドルなまえの一ファンというよりは、なまえに恋する一人だったし、だから、なまえがもしアイドル辞めるなら、私は責任とるよ」
「責任?」
「うちにおいで、一緒に暮らそう。
君は働かなくていいし、家事もやらなくていい。
あいにくお金だけはあるから、私も家事はできないけど、どうにかなる。
君の衣食住の保証は十分すぎるほどできると思うね」
「……本当?」
「ああ、本当だよ。
その代わり、浮気は絶対に許さないけどね」
「…しない、しません、絶対」
「そっか。じゃあ、結婚しよう。
なまえは私の傍にいてくれて、たまにご褒美をくれたらそれでいい。
私のもとへおいで」
それからはトントン拍子で話が進んだ。
結局、一度許された私だったが、後の話し合いでやはり私にはグループを脱退させるべきだと考えられていたらしく、運営側も私を引き留めなかった。
一応、「一身上の理由で」と説明し、どうせ人の集まらない卒業ライブをやって、形式上のお別れ会みたいなのをした。
舞台上で、「なまえは私の最高の親友でした!」と泣きながら私を抱き締めたのは、あのセンターの彼女。
よく言う…と思いもしたが、"友達思いの私"をこれだけ上手く作れるから、確かに彼女はアイドル向きなのかもしれない。
そう思っていたが、つい先日、彼女はやっと知名度を得てきたこの場面で、辞めてしまったそうだ。
…枕営業がバレて。
最終的に残った二人が未だアイドルとして活躍しているようで、メディアへの露出はないものの、ネットでは探せば出てくるようになった。
"昔は四人グループで、一人はファンに手を出して辞めた。スゲー不細工だった"…うるさい。
まあ、ネットなんてこんなものだ。
元センターのあの子はもっとひどい叩かれ方してるし、私はまだましな方だろう。
「…なまえ、またネット見てる」
「ごめんなさい」
「いいけど、あんまりそういう掲示板見たいなの見ちゃだめだよ。
いい人もいるかもしれないけど、ろくでもない書き込みの方が多いんだから」
「はーい」
「…じゃあなまえ。
私仕事行ってくるけど、いいこにしてるんだよ。
誰か来ても、絶対開けちゃだめだからね」
「はーい」
「あと、お昼ご飯冷蔵庫にあるから」
「はーい」
「…聞いてる?」
「聞いてるよ」
「ならいいんだ。じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
今の私は、本当にハンジさんに依存して、部屋にこもりきる生活。
なにもしない、する必要もない、そんなペットと変わりない生活。
こんなでいいのかと思うかもしれないけど、これでいいのだ。
私は、生きることから逃げ出したのだから。
「ただいま。……なまえ」
いつも出迎えてくれるなまえが返事もしない。
どうかしたのかと思って部屋に行ってみれば、ソファーに寝転んだまま眠っていた。
あとでベッドに運んでやろう、と思いつつ、傍に腰かけて彼女の頭を撫でる。
「……君は、知らないだろうね。
事務所に写真送ったの、あれ私なんだよ。
友人に頼んでね、撮ってもらった。
私があなたについたのもあってか、君はメンバーと上手くいっていなかったようだね。
知っているよ、あの辞めちゃった子が私に言い寄ってきたときに言っていたからさ。
あいつムカつくー、って。
頭の悪い子は好きだけど、それはなまえ限定みたいだ。
あの子はあまり好感は持てなかったよ。
当時のファンの中じゃ、私はきっと輝いていたんだろう、実際はただの不潔な変人なんだけどね。
ああでもこんなに上手く行くとは思わなかった。
まさか、君からプロポーズされちゃうなんてね、びっくりしたよ。
君が頭の悪い馬鹿でクズで本当によかった。
私が自分は女で、女の子が好きって言った瞬間、君は嫌悪感丸出しの顔をしていたのにね、例え一瞬でも。
なのに、私が君に今の生活を提供すると言った瞬間、目の色を変えるんだもんね。
本当、どうしようもないよ。
でも大丈夫、私は君がどんなに最低な人間でも愛してる。
いつだって、君が君でいる限り、ずっと…ずっとね。
さて、私もずっと独り言を言っていないで、かわいいかわいいお姫様をベッドに運ぶことにしよう。
……聞こえているんだろう?」
返事はなかった。