訓練兵時代に仲良くなった友人に、ミカサというとても強い女の子がいる。

彼女いいつでもエレンとアルミンという幼なじみの男の子たちといて、そのエレンにものすごく執着というか、依存していた。

事情はよくわからないけれど、エレンを守る、ということに、生きる価値を見出だしている感じ。

そんな彼女と私はまさか友達になるとは思っていなかった。

というのも、私は何でもできるミカサに対して何にもできなかったのだ。

だから、彼女とは全く関わらず訓練兵を卒業するか、…私が開拓地に送られるか、そう思っていたのだけれど、実際は意外とそんなこともなかった。

きっかけは、対人格闘術の訓練のとき、投げ飛ばされた(相手の子は手を抜いていたらしいけど)私を、ミカサが抱き起こしてくれた、それだけ。

そのときは、ただ目についたから助けただけのことだったようだけれど、段々私のだめっぷりを見るたびに情がわいたのか何なのか、わざわざ助けにきてくれるようになり、いつの間にかボディーガードのようになっていた。

そんな彼女を、嬉しくなかったわけではない。

けれど、少し鬱陶しくもあった。

それでも、もし彼女が純粋に私を大事な友人と思ってこんな行動をしてくれているなら、まだ違ったかもしれない。

でも、彼女はあくまでエレンが優先だった。

別に、それ自体は構わないのだ、きっとミカサはエレンのことが好きなんだろうし、それは友人として素直に応援したい。

けれど、例えば彼女は私が立体起動の訓練で大怪我しようと、擦り傷を負ったエレンのもとへ行くのだ。

そのときは、逆にエレンが私のもとへすぐ来てくれたので助かったが、正直、それはないんじゃないかと思った。

とはいえ、ミカサはしばらく怪我した私を献身的に介護(?)してはくれたのだけれど…。

助けてもらえると思っていたことがおこがましいといえばそれまでなのだが、だったら普段から異常ままでの過保護ぶりを見せたりしないでほしいと、そうも思ってしまったのだ。

まあ、そのときはその思いをぶつけることもなく、私たちの間柄は特に特筆すべきこともなく進んだのだが、そのときから特に、ずっと頭の隅では考えていたのだけれど、ミカサは私をエレンの代わりにしているんじゃないか、という考えを持つようになってしまった。

私とエレンは、全く似ていない。

代わりというのはそうじゃなくて、こう…本当はエレンで満たしたい自分の庇護欲というか保護欲のような、要は"守りたい"という欲求を、無意識に私で発散しているような気がしてならなかったのだ。

私は何もできないから、失敗も多いし、手を差しのべるには最高の相手である。

私なら、たぶんエレン依存のミカサが助けても、なまえじゃあな、とみんな思ったのだと思う。

だから、ミカサは私を友人にしたんだ。

一種、それはミカサに"選ばれた"と自分で自分を思うことでもあるから、自意識過剰だとも思ったけれど、それでもその考えは私に取りついて離れなかった。

だけど、それで私はミカサを嫌いになったのかといえば、そうではない。

むしろ、大好きだ。

今挙げたのは、ミカサの嫌いな一点であって、私は他にミカサの大好きなところを何十個だってあげられる。

強い、優しい、歌が上手い、友達思い…などなど。

だから私は彼女との友人関係を続けていたし、むしろこんな考えをしてしまう自分が嫌だった。

けれど、ある日また、今度はミカサと組んでやっていた対人格闘術の授業で、私はまた足を大怪我してしまったのだった。

そのときはきちんとミカサが私を助けてくれて、すぐに医務室に連れていってくれたのだけれど、私はしばらく訓練ができなくなってしまった。

そんな私にミカサはとても献身的で、嬉しくはあったのだけれど、どうしても立体起動のときの事故を思い出してしまい、私の気分は優れなかった。

だから、この際自分の本音を、ミカサにぶつけてみようと思ったのだ。

私が勝手にもやもやしているだけで、ミカサにはミカサなりの事情があるに違いない。

そう思って、私はこう切り出したのだ。





あまりに献身的すぎる友人に本音を言ったらこうなった





「ねえ、ミカサ!」

「…何、なまえ」

ミカサの手が止まる。

ミカサの左手にはスープ、右手にはスプーンで、私の口元にある。

歩けない私のために、部屋のベッドで寝ていた私に、彼女が食事を持ってきてくれていたのだ。

手は動くのだから、別にこんなふうに食べさせてもらわなくても大丈夫なのだが…。

「聞きたいことが、あるの…」

「そう…、何でも言って」

ミカサがスプーンをスープの中に沈める。

私はうつむきながら、ぽつりぽつりと話始めた。

あの日の立体起動事故のこと、エレンを優先したこと、私は代わりなんじゃないかってこと。

ゆっくり、絞り出すように言ったから途切れ途切れになってしまったけれど、ミカサは何も言わなかった。

「ミカサ?……っ!?」

ふと顔を上げると、ミカサの顔がすごく恐ろしいことになっていた。

上手く言えないが、すごく、怖い。

「私は…エレンとなまえを、守りたいだけ」

「その気持ちは、嬉しいよ…。
でも、ミカサが本当に守りたいのは、エレンじゃないの?」

「…そう、そうだった。
そうだったけど、なまえも守りたくなってしまった…。
だけど、エレンとなまえを、同時に守ることが、できない」

「う、うん…?」

「だから、なまえは、守る」

「……ええと、ごめんミカサ。
意味がわからない…」

「わからないの…?
なまえは友達だから、私は、なまえを守らなくてはならない。
けれど、私はエレンを守る必要がある。
じゃないと、エレンは早死にするから…」

…わかるような、わからないような。

「ええと、つまり、ミカサはエレンが完全に優先なんだよね?
……ごめん、私出すぎたこと言ったよね。
エレンはミカサにとって家族で、私はついこの前会ったばかりのただの友達だから…。
そりゃ、どんなときでもエレンの方が大事、だよね…」

泣きそうになりながら絞り出す。

私は、思うよりミカサが好きだった。

ミカサの一番になりたかった、エレンに勝ちたかった。

今気づいた、だから泣きそうなんだ。

「…違う」

「何が違うの、ミカサはエレンが一番なんでしょ!」

「…エレンは、家族。
だから、なまえは友達。
全然違う」

「じゃあアルミンは?
私より、アルミンの方が大事な友達でしょ」

「アルミンは、大事な幼なじみ」

「屁理屈だよ!」

「なまえ…泣かないで」

「……お願いだから、もうやめてよ」

「え…?」

「もう、こんなふうに私に構わないで」

「友達を、やめろということ…?」

「違うよ、でもエレンが一番なら、そうして。
私にこんなふうに献身的にしないで」

「違う、なまえは一番の友達…」

「思ってもないこと言わないでよ!」

「……っ!」

ミカサの顔が険しくなった。

そして私の怪我した足をぎゅっと掴んでくる。

「痛っ!痛いよミカサ、離して!」

「あなたはとても勝手……。
私が、エレンもなまえも守るために、どんなことをしていたのか、知らないくせに…」

「どういうこと…!痛いっ」

「なまえが怪我をすれば、なまえは訓練をしない」

「……?」

「そうすれば、私は訓練中はエレンを守れる。
きっと、エレンは怪我をしても、訓練を休まない…無理をしてしまう。
けど、なまえはしない、身の程を知っているから」

「どういう、こと…!?」

「…大丈夫。
また、時期をみて、やってあげるから」

「何を…!?」

「…あまり大きな怪我ばかりしていたら、きっと私たちは疑われてしまう」

「私"たち"!?」

「でも、定期的にやるから……。
だから、私はなまえを守れる」

「……わけわからないよ!
どういうこと…?私の怪我って…この怪我って…!」

「そう、私がやった。
きっと、私なら体勢を直せるけど、なまえには上手く受け身できそうもないように、投げた。
立体起動のときもそう…。
事故に見えるように、私がやった。
エレンが巻き込まれてしまったのは、予想外だったけれど…」

「…嫌」

「何が嫌なの?
何かあるなら、私が全て排除する」

「嫌だよ、来ないで」

「どうしてそんなことを言うの。
私は、なまえを守りたいだけ…」

「嫌だよやめて!
こんなの、こんなのおかしいよ…」

「…おかしい?
何を言っているの。
私は、なまえを守りたいだけ。
何も間違っていない…」

「間違ってるよ!
こんなふうに怪我させられて、どうして嬉しいの!
私だって、兵士なんだよ…きちんと訓練したいし、ちゃんとした兵士になりたい……」

えぐえぐと泣きながら後ずさる。

ミカサが距離を詰めてくる。

「なまえはひどい、私がこんなにがんばっているのに…。
でも仕方ない。
わかってくれないなら、もう戦えないようにするまで…」

「え…?」

ミカサが食事を少し離れたところに置いてから、思いっきり私の手を引っ張った。

「きゃあっ!」

がだん、と音をたててベッドから落ちる。

打ち付けて痛い足に、さらに激痛が走った。

……蹴られた。

「なまえ!」

ミカサがどこから出したのか心配そうに叫んで、私に寄ってしゃがみ、私の足を撫でた。

「、どうした!?」

「大丈夫っ!?」

エレンとアルミンが部屋に入ってきた。

「エレン…アルミン…」

「は…?どうしたんだよ、なまえ!」

「ごめんなさい、エレン。
私が傍にいながら.……」

「え、ミカサ、何があったの?
僕たち、なまえのお見舞いに来たんだけど…」

「アルミン…」

ミカサが泣きそうな顔でうつむく。

私はエレンかアルミンに訴えようと、口を開こうとしたが、私の足を撫でるミカサの手に力が入って、怖くなって口を閉じた。

「ミカサ、何があったんだよ!」

「…私が、目を離した隙に、パンを取ろうと思ったみたい。
それで、ベッドから落ちて…」

「なんでちゃんと見てなかったんだよ!」

「ごめんなさい…」

「エレン、落ち着いて!ミカサは悪くないよ…。
とりあえず、医務室に連れていこう。
話は、それからだよ」

「っ、おう!」

「なまえは、私が運ぼう…。
さあ、なまえ行こう」



そのあと医務室に行ったが、結局回復が大幅に遅れただけで、支障はなかった。

それを聞いたミカサの顔がすごく怖くて、私はどうしていいかわからなかった。

……どうしたら、彼女から逃げられるの。




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