さて、そろそろ私も部屋に戻ろうか。
そう思って、食器を片付けてから、私はクリスタが出ていった扉に手をかけ開けた。
「やあ、さっきクリスタが私も無視して走っていったけど、何かあったの?」
……やってしまった。
ハンジの場合
「ええっと…」
「彼女のような礼儀正しい子が、上司である私を無視して走り去るなんて、きっと随分と面白いことがあったんだろうねえ、なまえ」
「いえ、そんなことないですよ…。
なんのことやら…?」
「面白いこと…例えば、クッキーをくれた上においしいお茶まで淹れてくれたお礼代わりに、ほっぺにちゅーしてあげたとか」
「すみませんでしたあああ!!!」
地面に頭がついちゃうんじゃないかってくらい、必死で頭を下げる。
「怒ってるわけじゃないよ。
別に、彼女がいたずらと称して別の女にキスマークをつけられようと、お菓子と称してキスをされようと、私は怒るほど子供じゃない」
完全に怒っていらっしゃる!
そりゃそうだ、私だってハンジさんが誰かにキスされたりしたら、…怒る。
「本当にすみませんでした…」
「いいや?まあ、クリスタの件に関してはちょっと色々聞きたいことがあるけど、他の二人に関しては、まあ一応は不可抗力だしねえ…?」
「は、はい…!」
そうだ、ミカサもサシャも、私の了解なしにしてきたのだから、不可抗力だ。
こういうとき、相手が大人だとむやみに怒ったりせず、理解してくれるからありがたい。
「まあ、だからって許さないけどね?
君がよくよく気を付けていれば、あんなことにはならなかっただろうし」
…だめだ、許してくれそうにもない。
「全く、君はどうしてこんなに女性キラーなんだろうね。
まあかわいいから理解できないわけじゃないけれど、全く男性にはもてずに女性にばっかりもてるっていうのは、一体どういう気分なのかな」
「…えっと、複雑な気分です」
「だろうね。
まあ、かくいう私もなまえの不思議な魅力にやられた女のうちの一人なわけだ。
君に手を出したくなる気持ちはよくわかる。
……けど、なまえはもうちょっとそれを理解すべきじゃないかな?」
「す、すみません……。
相手が同じ女性だと思うと、油断してしまって…」
「ふうん…。
にしても、すごい面子だね。
104期の首席に、女神に、……芋女」
「ハンジさん、芋女って呼び方知ってるんですか」
「ああ、この前廊下ですれ違ったときアルミンと少し雑談をしたのだけれど、そのときにね」
四度目のアルミンの名前に、なんかもうアルミンの顔の広さというかなんというかに脱帽するばかりだ。
「ところで、その三人の中の、誰がなまえの浮気相手なのかな?
もしかして全員?
まさか本命でもいる?」
ハンジさんが悲しそうな顔で聞いてくる。
「まさか!!浮気なんて…!
本命だって、ハンジさんだけですっ!」
「そう…。
……なまえ、ちょっとこっちおいで」
思わず泣きそうになりながら叫ぶと、ハンジが扉を閉めて私を食堂の中に連れ戻した。
手を引かれて、テーブルの前に立たされる。
そして、そのままテーブルの上に押し倒されて、ハンジさんがのし掛かってくる。
被っていた帽子が床に落ちてしまった。
「その格好は魔女?
さすが私のなまえ、君の魔法でみんなめろめろだろうね、かわいいよ」
ちゅっ、と頬にキスされる。
「にしても生足でスカートなんて若いね。
そんな格好して、襲われるかも、なんて思わなかったの?
…こんなふうに」
「ひゃんっ!」
内腿をいやらしく撫で上げられて、たまらず声をあげる。
「ねえ、今日はハロウィンだよね。
なら、私に言うことあるんじゃない?
ね、魔女っ子さん」
ハンジさんがにこっと笑う。
私は彼女の真意がわからないまま、「トリックオア、トリート…?」と呟いた。
あざとい!とハンジさんが小さく叫んだのは、この際聞かなかったことにしておく。
「うん、じゃあかわいいかわいい私のなまえに、お菓子をあげよう。
……これ、チョコレートだよ」
ハンジさんが、ポケットから取り出したのは、なんとチョコレート。
銀紙をはぐと、私の口元まで持ってくる。
それを口を開けて食べようとすると、ハンジさんが「まだ」と言うので、私は仕方なく口を閉じる。
「知ってる?チョコレートってね、ただの甘いお菓子としてだけじゃなく、媚薬としても重宝されたりするんだよ。
貴族の男たちなんかは、パーティーのときに胸ポケットにチョコレートを忍ばせておいて、それで抱きたい女に食べさせたりする」
チョコレートが唇に押し当てられる。
「…食べていいよ」
指ごと口にチョコレートがつっこまれる。
チョコの甘さを味わいながら、ハンジさんの指に舌を絡めていると、なんだかすごくいやらしい気分になってきた。
「もてる彼女を持つってことは、こういうことも覚悟しなくちゃいけないってことだ、ってのは、わかってるよ。
そもそも、女同士ってどこまでが友情におけるスキンシップなのか、わかりずらいしね」
口から指を引き抜かれて、その指でそのままスカートの中に手を突っ込まれて、下着の上から刺激される。
「ぅ、あんっ」
「だけど、再三私は君に言ってきたよね。
君は女にもてやすいから、気を付けろって。
なのに、全然懲りないんだから」
ちゅうっと首を吸われた。
上書き、と耳元で囁かれて、びくっと身体が反応する。
「だから、こんなふうに隙をつかれる。
お願いだから、私をこれ以上嫉妬させないでよ」
次に唇が重ねられて、舌をからめられる。
チョコレートの甘さもあるけれど、それ以上にハンジさんの舌が甘くて、もっと欲しくて唇を押し付ける。
舌も自分から絡めて、たまに甘噛みなんかしながらとろけそうなキスを堪能していると、しばらくしてすっ、と舌を引き抜かれてしまう。
寂しくてもう一回とねだろうと、彼女の首を抱き寄せて口づけようとするけれど、彼女が人差し指を私の唇に押し付けて、「お預け」なんて言うから、私は不満で仕方なかった。
すると、下着の上から秘部を撫でていた彼女の指が、下着の中に入ってきた。
「ふ、ゃん!あっだめだってぇ…だれか、きちゃうかも、んっあ!」
「キスはおねだりしたくせに、これは嫌なの?
そのキスをしただけでこんなに濡らしたくせに、よくそんなことが言えるね。
淫乱な魔女さん」
「やあん…っ!淫乱、じゃなぁいっん!あっ」
「大丈夫だよ、時間的に誰も食堂になんてこないだろうし、きたところで見せつけてやればいい。
なまえは、私のものだってね」
「ひぅっ…!」
「あ、また濡れた。
誰かに見られるところ、想像して、感じちゃったの?
やっぱり淫乱だね、なまえは」
「ちがっ、んあっぅ!」
やわやわと片手で胸を揉まれながら、ハンジさんの指が入り口をぐにぐにと押してくる。
「ここで脱がせるわけにはいかないから、いつもみたいにたくさん愛撫してあげられたわけじゃないけど、なまえはいつも以上にここ、濡らしてるみたいだし……」
いいよね?
そういうが早いか、ぐいっとハンジさんの指がナカに入ってくる。
「ひゃっ、あ、あ、んぁっ!」
「あんまり声出すと、誰かに気づかれちゃうかもよ?」
「んあ、で、っでも、ああっ、きもち、気持ちイイのっ、あぅっはぁん!」
「誰かに見られるかもしれないのに?」
「あっ、ちがっハンジしゃ、ハンジさ、んが…やらしいからぁ…ふあっ!」
「何いってるの、やらしいのはなまえの方でしょ。
人のせいにしないの」
「ふゃっ、んあ…っ!」
「そんなに気持ちイイ?」
「うん…気持ちい、んぁ!
ね、だめ、ひぁああ…っ!」
「…ここ食堂なのに、本当にえっちな子だねえ」
「んぅ…っちが、んぁっ!」
「かわいいかわいい。
かわいいなまえにもう一つチョコをあげよう」
器用にポケットからもう一つチョコを取り出して、銀紙を剥いで口に含む。
そしてそのまま口移しされた。
二人の口の間で溶けるチョコレートが甘ったるくて仕方ない。
しばらく舐め合って、チョコレートの味なんてわからなくなるくらいキスして、頭がおかしくなりそうになる。
「ん、ハンジしゃっ…も、イキたい…!
もっと、もっとちょうだい…っ!」
「もっと?
じゃあ、一気に二本増やしてあげようか」
「ひゃあん…っ!」
一気に質量が増えるから苦しくて、でもそれ以上に気持ちよくて、声が漏れる。
さっきから唇を噛み締めて抑えているのだけれど、どうにも上手くいかない。
「あっ…あっ、だめ、イキたいよぉ…っ!
指、指ぐいっ、て…ナカの気持ちイイとこ、押してほしいの…っ」
「そう、そんなお願いしちゃうんだー?
やらしー」
「ふゃん…っ」
「……ねえ、なまえ」
にやにやしていたハンジさんが、いきなり真剣な顔つきになる。
「っ、ぇ…?」
「…イかせてほしい?」
こくこくと必死で頷く。
「ならさ、私が一番だって言ってよ。
私が一番好きだって、私にだったら何されたっていいって。
そう、言ってよ」
まっすぐに、目を見つめられて、色々なことが頭を駆け巡る。
もしこの後、ハンジさんがもう二度とミカサやサシャや、クリスタと話すな、と言ったり、他の友達と関わるな、とすら言ったりしても、私は言うことを聞けるのか。
閉じ込められたり、ひどいことされたりしても、私は受け入れられるのか。
「好きぃ…一番好きなの、世界で一番、ハンジさんが好きなの…っ!
あっ…ん、何されてもいいから…っ!
何だって言うこと、聞くからあ…!
だから、だから…」
捨てないで。
ハンジさんにキスされる。
「ねえ…君ちょっとかわいすぎるよ。
捨てない、捨てないよ。絶対に捨てない。
君が私を捨てたって、私がなまえを逃がさない。
絶対に、絶対にだ」
ぐっと指をナカに押し込まれる。
「んぁっ…!」
「こっちおいで。
キスしよう?ちゃんと、イカせてあげるから」
頭ごと片手で抱き寄せられて、唇が重なる。
ナカをぐちゃぐちゃかき混ぜられて、頭が真っ白になって、自分の身体が痙攣するのがわかった。
唇が離されて、はあはあと肩で息をする。
ナカから指が引き抜かれて、少し声が漏れた。
「…この腕を、この脚を、縛るか、…切るかしてさ、もう戦えないようにして…閉じ込めてやりたい。
そうしたら、なまえが私以外に触れられることも、巨人に食われることも、ない……」
「……しても、いいよ」
「…なまえ?」
「ハンジさんになら、何されても…いい」
「なまえ…」
ハンジさんにゆっくりキスをされる。
しばらくして唇が離れて、そのまま抱き起こされる。
「なまえ、私の部屋おいで。
……大丈夫、愛してるから」
何が大丈夫なのか、それはわからなかったけれど、私は頷いた。
それから手を引かれて、食堂を後にしようと、扉を押す。
「いってえ!」
「あれ、誰かいた?」
ハンジさんがゆっくり扉を開く。
そこには痛そうに頭を抱える私の同期が。
「ジャン…?」
「なまえ、知り合いかい?」
「えっと、同期で……」
「おーい、君、大丈夫かい?」
「、!はっ、トロスト区出身!ジャン・キルシュタインです!」
ジャンがハンジさんの方を向いて敬礼をする。
「ジャン…出身地言ってどうするの…」
「まあいいよ、ジャン・キルシュタイン。
敬礼なんて今はしなくてさ。
ところで、食堂に何か用事だった?
だったらごめんよ、邪魔しちゃってさ」
「い、いえ…そんな」
「そう、じゃあなまえ、行こうか」
「え、は、はい…」
ハンジさんに手を引かれて、食堂を後にする。
ジャンは顔を真っ赤にして、一度も私と目を合わせようとしなかった。
歩きながら、一つの考えが頭に浮かぶ。
「まさか…」
「そのまさかだろうね。
扉に耳を押し付けていたんだろう。
いかにも思春期らしい反応だったね」
「……どうしよう…っ!
もう明日から、顔合わせられない…!」
「大丈夫だよ、もう君は誰とも顔を合わせることはなくなるんだから」
「…え?」
目をぱちぱちとさせてハンジさんを見つめる。
ハンジさんはにこ、と笑って返してくれた。
ああ、あの大丈夫は、そういう意味だったのか。
全てを理解した私は、「はい!」と元気よく返事をした。
「あ…そういえば、食堂に帽子、落としたまんまです…」
「ああ、ならあとで回収しておくよ」
「でもあれ、借り物なんです。
友達に返さないと」
「じゃあ、後で私から返しておこう。
かわいいなまえを、いつ狼になるともわからないやつのところに行かせるわけにいかないからね」
「……ハンジさん大好きっ!」
ハンジさんの腕に抱きついて寄りかかる。
ハンジさんがそのまま私の頭に頭を乗せてくるから、歩きにくくて仕方がない。
でもそれもなんだか幸せで、笑みが浮かぶ。
「ハンジさん、だーいすき!」
「私も愛してるよ、なまえ」
周りの私たちを見る目が少し痛いけど、関係ない。
どうせ、明日からはもう、会わないんだから。