クリスタの場合
さすがに、二回連続でこんな目にあったら、トリックオアトリートなんてする気はなくなってきた。
ちょっともったいないけど、背に腹は変えられないし…と部屋に戻ろうとしていると、クリスタの姿が見えた。
こちらに気づいて、ぱたぱたと走ってくる。
珍しく、ユミルは一緒ではないようだ。
「なまえ!
どうしたの、その格好?
すごく可愛いね」
まだクリスタの前にはミカサとサシャの二人にしかあっていないが、衣装のことに触れてくれたのはクリスタだけだ。
クリスタマジ女神。
「ありがとう!
今日はハロウィンだから、仮装してみたんだ」
「そうなんだ。
すごく似合ってるよ。
そうだ、ハロウィンなら、お菓子集めてるんだよね。
アルミンが言ってたよ」
女神、お前もか。
と、三回目のアルミンの名に心のなかでつっこみを入れていると、クリスタが何やら手に持っていた袋をごそごそと探りだした。
「はい、クッキー。
なまえにあげる」
「わ、待って!一応言わせて!」
「…?」
「トリックオアトリート!
お菓子くれないといたずらしちゃうぞ!」
「あ、そういうことだったんだね。
はい、どうぞ」
「ありがとう!」
クリスタから、クッキーを受けとる。
「ねえ、クリスタ。
なんでクッキーなんて持っているの?
お菓子なんて今そうそう買えないのに…」
「あ、うんちょっと。
もらう機会があったんだ」
「ふーん…」
何となく言いずらそうだったので、これ以上詮索はしないでおいた。
たぶん、クリスタを狙う先輩にでも貢がれたのだろう、と勝手に推測する。
「あ、クリスタ。
実は私、あげる用のお菓子は持っていなくて、だから、これを一緒に食べない?」
「あ、いいの。
私は、お菓子をもらいにきたわけじゃないし、なまえが喜んでくれれば、それで十分だから。
…でも、なまえがそう言ってくれるなら、一緒に食べさせてもらおうかな。
私、お茶入れるね!」
…結婚しよ。
ちょうど誰もいない食堂に移動して、クリスタがいれてくれたお茶と一緒にクッキーを頬張る。
「おいしいね、クリスタ!
このお茶も、クッキーにぴったりでもう最高だよ」
「もう、そんなに褒めないでよ、なまえったら」
二人でくすくすと笑いながら、おいしくクッキーもお茶もいただいて、私はとても幸せな気分になった。
「ねえ、クリスタ。
本当にお菓子いらないの?
こんなにもらってばっかりで悪いし、何か食べたいものがあれば、買ってくるけど…」
「いいの、そんなの!
本当に、なまえが喜んでくれただけで、私は十分嬉しいから」
「んー…でも、それじゃあ、申し訳が立たないし…。
せめて、何かしてほしいこととかない?
私じゃあ、できることは少ないけど」
「え、うーん…そうだなあ…」
少し困ったように考え出したクリスタが、ふと顔を赤くして、もじもじし始めた。
「あ、あの…」
「何?」
「えっと…笑わないで、ほしいんだけど…」
「うん、もちろん!
絶対に笑わないよ」
「うん…ええとね…なまえ。
わた…私に、キスしてほしいの…っ」
顔を真っ赤にして頼んできたクリスタに、思わず面食らう。
一瞬迷ったが、きっとものすごい勇気を出してこのお願いをしてくれたのだろう。
そう思うとやっぱり邪険にはできなくて、私は彼女の赤い頬にちゅっ、と唇を押し付けた。
すると、真っ赤な頬がより真っ赤になって、クリスタは「あああありがとうっ!」と凄まじくどもりながら、走って部屋を出ていってしまった。
その可愛い行動を思って、思わず私はくすりと笑ってしまった。