ミカサの場合
「ミカサ、トリックオアトリート!」
「なまえ…」
今日はハロウィン、ということで、余った布とか、借りた帽子とかを使って、どうにか魔女の衣装を作り上げて、まずはミカサに声をかけた。
「アルミンから聞いた…。
今日は、ハロウィンという日だと。
きっと、なまえは私のところに来ると思っていた…。
だから、これ」
ミカサから手渡されたのは、美味しそうなラスクだった。
「わあ、すごいおいしそう!
これどうしたの?」
「本当は、ちゃんとしたお菓子を買いたかったのだけれど、そんなお金はないから…。
昨日の夕食のパンで、作ってみた」
「ミカサが作ったの!?
すごーい!」
「…別に、そんなことはない。
ただ、パンをスライスして砂糖を振りかけて、焼いただけ。
味の保証はできない」
「そんなことないよ、すごいって。
ねえ、食べてみてもいい?」
「…どうぞ」
さく、とラスクを一口頬張ってみる。
ところどころ焦げていたり、砂糖が固まっていたりするけれど、でも……。
「おいしい!
ありがとう、ミカサ。
すごくおいしいよ!」
「…なら、よかった。
なまえに喜んでもらうために、作ったのだから…なまえが喜んでくれれば、私も嬉しい」
「うん、本当にありがとう。
大事に食べるね」
「…お礼を言われるほどのことは、していない。
……ところで、なまえ」
「ん?なあに、ミカサ」
「とりっくおあ、とりーと」
「…え?」
思わず固まる。
そうだ…自分が仮装してお菓子をもらうことばかり考えていて、自分が渡すことはすっかり忘れていた。
どうしようかと考えていると、ミカサが私の頬に手で触れてくる。
「お菓子がもらえないときは、いたずらをしていいのだと、アルミンが言っていた。
だから私は、なまえにいたずらをする」
「え、え…お、落ち着こうミカサ!
えっと、その、ほら、このラスクあげるから!」
「いらない」
「ひゃう!」
ミカサが、私の首筋に噛みついてくる。
そのままちゅうっと吸われた。
「な…、な…っ!」
「虫除け。
なまえは、すぐにみんなに愛想振り撒くから」
そう言うと、ミカサは「エレンにもとりっくおあとりーとしないと…」と言いながら、どこかへ行ってしまった。
エレン御愁傷様…と思いながらも、私は顔を真っ赤にして、首筋をどうにか隠そうとするしかできなかった。