※現パロ
※巨人が動物的な存在
※ナナバさんは女性



高校生のとき、私は都内の女子高に通っていた。

名前は進撃女子高。

近くに進撃男子高もあり、この二つは進撃大学へとエスカレーター式で進学できた。

その高校は進学校で、早くに両親を亡くして親戚のおばさんのお世話になっていた私はこれ以上迷惑はかけまいと、高校を卒業したら就職をする気だったのだが、おばさんの「あなたは頭がいいんだから、大学まで行かないともったいないでしょう!」という愛ある叱りを受け、私は泣きながらこの高校の受験を決めた。

受験理由としては、進撃大学の内部進学者に対する優遇措置だった。

寮へ優先的に入居者できるようになるとか、授業料の減額とか、色々。

そもそもエスカレーター式なら、大学受験にかかる交通費とか受験料が掛からなくなる。

結果、私は受験に成功し、この学校に進むことを決めた。

ところで女子高といえば、男子が周りにいないという状況で、しかし恋には多感なお年頃。

大抵、男子並みにかっこいい女子というのが、王子様のような扱いを受け、もてもてになるのが定石である。

例えば、私が在学中に一番人気だったのは、たぶん一個上のナナバ先輩。

彼女は背も高く綺麗で、まるで宝塚?と言いたくなるような美貌を持っていたから、女子生徒の絶大な人気を集めるのも無理はなかった。

他にも、同級生だと同じクラスのミカサやユミル、他クラスだとアニ辺りが人気だった。

とはいえ、ミカサは進撃男子高に進んだ幼なじみにしか興味がなかったし、アニもそういうことに興味は示さなかった。

ユミルはというと、これまた同じクラスのクリスタに夢中で、二人は付き合っているという噂が絶えなかった。

ちなみにクリスタはというと、彼女はまるで天使か女神のような美少女で、女子高ではかっこいい女子が王子様のように人気を集めるといったが、往々にして親父化する女生徒も現れるもので、そういった子達からの人気を集めていた。

他には、ペトラ先輩が、親父化した女生徒たちの餌食になっていた気がする。

かくいう私はというと、やはり一人の"王子様"に夢中で、彼女はハンジさん、という私の一個上の先輩だった。

彼女は2000年前は人を食っていた、とさえ言われている巨人というものに興味を持っており、生物部で巨人に関する奇怪な実験をしてはレポートを大学まで持っていって提出するような天才であり、同時に変人だった。

現在巨人は人も食わないし、生息数もごくわずかである。

進撃大学は巨人学なる、私からすれば意味のわからない分野があるほぼ唯一の大学であり、巨人を学内で飼うことさえ許されていた。

巨人についてはどこから来たのか、なぜ人を食っていたのか、なぜ今は食べないのか、などたくさんわからないことがあり、研究が進められている分野である。

ハンジさん曰く、「きっと、人類は2000年前に、一度巨人の謎を解明させているはずなんだ!じゃなきゃ、人類を滅亡にまで追い込んだ彼らをここまで追い詰めるなんて不可能だっただろうし、そもそも最近見つかった文献に、2000年前に巨人は絶滅させられたとの記述もあってね……」…長くなるのでこの辺りでやめておくが、とにかく彼女はそんな巨人の謎を、再度解き明かすことを夢に見ていたのだ。

まあ、そんな変人なので、彼女はナナバ先輩のようにモテモテ、というわけではない。

しかし、中々に…いやとても顔は整っているし、優しく利発的で、あの巨人に対する変態的な態度にさえなければ、きっと彼女もナナバ先輩並みにモテたであろう人だった。

だから、一部のコアなファンがいて、そんな変態的な部分すら好きになってしまった一人が私であった。

彼女との出会いはまるで少女漫画で、廊下の曲がり角でぶつかってしまい、倒れてしまった私を彼女が抱き起こしてくれたのが、きっかけ。

そのあと、私たちはお互いに惹かれあっていき、いつしか恋人のような関係になっていった。

毎日ハンジさんが迎えにきてくれて、一緒にお昼を食べて、毎日一緒に帰った。

ハンジさんは毎日夜遅くまで研究をしていたから、私の帰りは遅くなり、おばさんにも心配されたけれど、ハンジさんと一緒にいることが何より重要だった私には些細なことだった。

けれど、学年が違う以上、卒業という名の別れが来てしまった。

ハンジさんが、「たった一年の辛抱だよ」と言ってくれたけれど、私は悲しくて仕方がなかった。

一年の辛抱、というのは、ハンジさんはそのまま進撃大学に進学し、また私もその予定だからである。

ハンジさんが卒業してから、私は必死で勉強した。

内部進学といっても、試験はあったし、その試験で上位に入らなくては、学部や学科は選べなかった。

巨人学はさすがに進撃大学唯一の科目でありながら現在大注目の学問であることから著しく倍率は高かったし、私もさすがにハンジさんは
好きでも巨人に興味はなかったので、別の学部を目指していた。

ところで進撃大学は各地にキャンパスがあり、ハンジさんがいるのは郊外のキャンパス。

私が目指すのは、そのキャンパスにあるいずれかの学部。

私の目標は、ハンジさんと一緒にいることだった。

結果、私は見事希望学部に合格し、しかも学費免除にこぎつけた。

元々奨学金で大学には通う気でいたけれど、学費免除は嬉しくて、これでもうおばさんに迷惑をかけずに済むと、家でおばさんと手を取り合って喜んだ。

ハンジさんにもそのことを連絡すれば、彼女は「よくがんばったね」と褒めてくれた。

私が通うキャンパスは郊外にあったので、おばさんの家からは通えない。

そもそも私はもうバイトして一人で暮らそうと思っていたから、これは好都合だった。

きっと家から通える距離なら、おばさんが私を説得して、一人暮らしさせなかっただろうから。

私は大学寮に内部進学者として優先的にいれてもらえた。

そこで一人暮らしをはじめ、最初私はハンジさんとこの部屋で一緒にテレビを見るとか、お泊まりをするとか、そんな妄想ばかりをしていたのだが、いざ大学が始まってみると、私のハンジさんへの愛情は、一気に元々なかったもののようになってしまった。

というのも、大学には男子という存在がいたのだ。

本物の男子と会って、話して、そのことで私は完全にハンジさんへの思いをなくしてしまったのだ。

結局、私はハンジさんを男性の代わりとして憧れていただけで、彼女に恋なんてしていなかったのだった。

大学入学後、わずか1ヶ月のことだった。

最初は、ハンジさんに誘われて一緒に学食でご飯を食べたりしたけれど、段々新しくできた仲間と一緒にいる方が楽しくなってきて、彼女の誘いもほとんど断るようになってしまった。

お金はなかったから飲み会には参加できなかったけど、家に仲間を呼んで騒いだり、夜の町を出歩いたり、ハンジさんと一緒にいるよりよっぽど、この時間が楽しくて、大切だった。

そのうち、仲間のなかの一人に私は恋をし、告白されて付き合うようになった。

ハンジさんからの連絡は、この頃にはほとんど来なくなってしまった。

ハンジさんとは、わざわざ会おうとしなければ、なかなか会えなかった。

だから、そのうちにあんなに焦がれた彼女のことも、いつしか忘れ、初めての彼氏にのめり込んでいった。

キスだってした、デートだってしたし、…セックスだってした。

彼とのセックスは決して決して気持ちよくはなかったし、独りよがりで不満はあったけれど、彼に求められるのが嬉しくて、私は幸せだった。

そんなときだった、ハンジさんから電話があった。

久しぶりに会えないか、と。

正直、少しうっとうしくも感じていたが、確かに彼女とは何も決着を着けておらず、少しわだかまりが残ったままだったので、私はその誘いを承諾した。

じゃあ、あの大学近くの公園で、と約束を取り付けられ、待ち合わせの日、私はそこを訪れた。

今思えば、あのとき彼女の誘いを承諾してしまったことが、すべての間違いだったのだ。





大好きだった先輩に別れを告げたら監禁された





「やあなまえ。
久しぶりだね、コーヒーでいい?」

「…ありがとうございます」

ハンジさんから缶コーヒーを受け取って、それを口に含む。

私が缶の飲み物を上手く開けられないのを知っていて、開けてから手渡してくれるのはいつものことだ。

その優しさに久々に触れて、少しきゅんとしてしまった。

「…大学は楽しいかい?」

二人でベンチに座ってコーヒーをすすっていると、ふと彼女が聞いてくる。

「はい、楽しいですよ」

「だろうね、たくさんの仲間に囲まれて。
それに、最近はより楽しそうだ。
…というか、綺麗になった。
彼氏でもできた?」

足を組んで、缶コーヒー片手にそう尋ねてくる彼女は、確かに綺麗だった。

けれど、男の人というものを知ってしまった私からすれば、ハンジさんは立派な女性で、もう前のようには見れなかった。

「ええ、まあ…。
……なんていうか、高校のときは、きっと、お互い恋に恋してたんですよ。
だから、あんな恋人ごっこしていたわけで…、なんていうか、すみませんでした、…えへへ」

ハンジさん目付きが一瞬ものすごく鋭くなって、思わず私は最後笑ってごまかしてしまった。

「へえ、そう、なまえにとって私は、男の代わりだったわけだ。
私は本気だったのに」

「え?何を言って……、っ?」

ガクッと首が落ちる、フラフラする、あれ……?

「まあ、もうそれもどうでもいいことだよ。
君に彼氏ができたのがわかった時点で、私はどんなことをしてでも君を手に入れる、って、そう、決めたんだ」

「はん、じ…さん…?」

「なまえ、空いた缶コーヒーを渡されたときは、何か仕込まれていないか、今度から気を付けた方が、いいかもね?
…まあ、もうそんな機会は#*name#にはないんだけど」

意識を手放した。



重たい瞼を開ける。

なんとなく人のシルエットが見えてきて、パソコンを必死で叩いている。

「…え……?」

「…ん?ああ、起きたんだね、なまえ」

バッと起き上がる。

「っ、な、は、っえ!?」

「落ち着いて」

これが落ち着いていられるわけがない。

「え、…えっ!?」

「相変わらずかわいいなあ、なまえは。
百面相なんかしちゃってさ!」

今私が置かれている状況を説明しよう。

今、私はベッドに首輪と手錠、そして足枷をつけられて、鎖で繋がれている。

その鎖自体は長いから、たぶん立ったりはできる。

きっと、鎖が絡んだりして、ものすごく不便だと思うけど。

ハンジさんは相変わらず机に向かってパソコンを叩いている。

「、っこっち見て、ハンジさん!」

「……私はいつも見てたけど?
君がメールにも電話にも返事してくれなくなって、彼氏や仲間のことばっかり考えているときも、ずっと」

「そうじゃなくって…!」

「…ごめんよ、見るって。
なあに、なまえ?」

ハンジさんが手を止めて、こっちを見る。

「結構広いでしょ。
都内と違って郊外だから、結構安い家賃でこのくらいの広さ借りれるんだよ」

「確かに広いですけど、そうじゃなくて…!
これ、何ですか!
外してください…」

「嫌だよ、そうしたらあの男のところに行くんでしょ」

「…私と彼は、付き合ってるんです。
会いに行って、何が悪いんですか!」

「私となまえは?付き合ってなかったの?
あんなに一緒にいて、キスまでしてさ」

「…でも、私たちは女同士だし。
確かに、お世話になった先輩に、きちんと報告しなかったのは、悪かったと思ってますけど、でも、それでも、だからって、こんなことしなくても…!」

「別に…私は報告しなかったことを怒ってるわけじゃないよ。
……浮気したことを、咎めているんだ」

「…浮気?」

「そうだよ、君はそうじゃなくても、私はずっと本気で愛していたよ。
一目惚れして、どうにか君と接点を見つけて、いつか毎日のように会うようになって…そしたら君も私を好いてくれて、巨人の話だって飽きずに聞いてくれるし、私が卒業するときなんて、あんなに泣いてくれたじゃない。
大学生になったって、ずっと君のことを忘れたことはなかった。
このキャンパスに来るために勉強してくれているのを知っていたから、あまり私からあなたに連絡することは少なかったけど、ずっとずっと愛していたよ。
だから、君が合格したのを聞いて、本当に嬉しかった。
また、これから一緒にご飯食べたり、一緒に帰ったり、そういうことができるんだって、本当に…嬉しかったんだよ。
なのに、あんまりだ。
高校にいたときは、私だけを見て、私のことばかり考えていてくれたのに、大学生になった途端、友達まで作って、…でも、それは許そうと思ったんだ。
なのに、彼氏なんか作るから…。
これは、立派な浮気だよ!
ひどいじゃないか、私はこんなに愛していたのに…!
だからね、考えたんだ。
君は、浮気をやめるように言って、やめるようなタイプじゃないだろう?
だから、もう二度と浮気させないために、ここに閉じ込めたんだよ。
これから、君はずっとここで暮らすんだ。
大丈夫、ご飯もお風呂も、全部お世話してあげるから。
…トイレは、ほら、そこにある二つの扉の、右の扉開けたらあるから。
トイレもお世話してあげたいけど、さすがにそれはハードル高いでしょ?
にしても、不思議な間取りだよね。
大体、トイレとかお風呂って、玄関横にあるのに。
見つけるの苦労しちゃった!
でも、なまえのためなら仕方ないよね、あ、そうそう。
引っ越したばかりで、段ボールとかあるけど、気にしないでね、すぐに片付けるから!
お金とかも、気にしないで。
バイトだけど、ちゃんと稼いでるし、正直普通のサラリーマンとかより金はあると思うね!
いやあ、にしても趣味が仕事になるっていいね!
私なんて巨人の研究しか脳がないのにさ!
しかも、これからはなまえも傍にいてくれる。
そしたらもうこれ以上望むことはないよ!」

……気持ち悪い。

彼女の演説を聞いて、まず思ったことが、それだった。

確かに、元から変わった人だった、元から…おかしな人だった。

でも、こんな人じゃなかった。

「いや……」

「嫌?私はね、君よりずっと嫌な思いをしたよ。
もう、許さない。
もう浮気なんかさせないよ、例え君がなんと言おうと」

涙が出てきた。

だめだ、私もしかしたら一生このままかもしれない。

ハンジさんが近づいてきて、私の涙を拭う。

「…君の彼氏は、どうせ独りよがりにしか抱いてくれなかっただろう。
大丈夫、私はそんなことしないよ、ちゃんと愛してあげる。
だから…シよ?」

そのまま押し倒されて、口付けられる。

私はこれからのことに絶望しながら、ただそれを受け入れていた。



例え、本当は引っ越しなんかしていなくても、この不思議な間取りが偶然だったとしても、私にとっては全てが絶望だった。



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