※なんちゃって中世パロ






人身売買、奴隷商人。

人が売られるまでには様々ありますが、私はひとえに、貧困から食う金を作るため、親に売られた女奴隷でした。

この世界での奴隷というのは、大半は老若男女問わず、大量に買われて、金山だとかそういった肉体労働に投入されたりするのだけれど、たまには、私みたいに個人的に買われ、個人のものになることもあります。

私は、名も知らぬ貴族に仕えるらしい老人に買われました。

何も教えてもらえぬまま、女中らしき女性らに身体を洗われ、まるでお人形のような服を着せられ、髪をふわふわに巻かれ、首にリボンを巻かれます。

そして、私を買った老人が、色々言いましたが、この三つを特に強く私に念押ししました。

しゃべるな、動くな、笑え、と。

そして、言われた通り笑顔を張り付けた私は、たくさんの女性に担がれて、ある部屋に連れてこられました。

「リヴァイ様、旦那様からの贈り物です」







誕生日プレゼントとして買われた







「は…?」

部屋のなかにいた、リヴァイ様と呼ばれる男性が、いかにも怪訝そうな顔で私たちを見つめる。

眉間に皺を寄せ、私の頭の先から爪の先まで、不機嫌そうに見たあと、息を吐いてこう言った。

「三十過ぎの男に、人形を与える馬鹿がどこにいるんだ」

「し、しかし旦那様は、リヴァイ様の、せっかくの誕生日だからと…」

「…たまには顔を出せとうるせえから帰ってみりゃ、これか。
面倒くせえ…いらねえよ、そんなもん」

よくわからないが、今日はリヴァイ様の誕生日である様子です。

老人とリヴァイ様は、しばらく私について言い合っていましたが、しかし、リヴァイ様が折れたようです。

「…構わん、それを置いていけ」

「…っ!ありがとうございます!」

使用人らは喜んで、私を彼の目の前に差し出しました。

それから、私は彼の住むらしい別の家に引き取られ、ベッドを与えられて、そこで生活しています。

リヴァイ様は、私に話してはくれませんでしたが、貴族でありながら兵士であるようです。

家の跡取りでありながら、貴族であろうとせずむしろ毛嫌いし、結婚もせずに戦の最前線にたつ彼を、彼の父親が心配し、私を彼に与えた、というのが、今の私にわかる情報。

正直意味のわからない部分も多いですが、仕方ありません。

リヴァイ様は寡黙ですし、ましてや人形に語りかける趣味なんてありません。

いえ、なぜ私が、どこからどう見ても人間なのに、こんなにも自然に人形扱いされているのか、それが一番本当は問題なのですが、その疑問を私が口にすることを許されていない以上、私にそれを知ることはできないのです。

そもそも、私は話すことを許されていません。

ここに連れられてきたとき、私は思わず少し話をしてしまったのですが、そのときはもう本当にひどかったです。

蹴られ、殴られ、また蹴られ。

人形がしゃべるんじゃねえよ、と。

それ以来、私はリヴァイ様の前では、とにかく話さない、動かないを徹底するようにしています。

少しでも動けば、リヴァイ様のするどい眼光で睨み付けられてしまいます。

私が安らげる時間は、リヴァイ様が部屋にいないときと、食事のときだけです。

食事の時間には、リヴァイ様は部屋に簡素な食事を一人分置いて出ていってしまいます。

最初こそ意味がわかりませんでしたが、これは、実は私への食事なのです。

彼は、私が食事をとる姿を見たくないのでしょう。

しかし、私が全く飲まず食わずではいられないことがわからないほど、馬鹿ではないのです。

例え、私を人形だとして疑わない、狂った感覚の持ち主だったとしても。



「…今日もいい子にしてたみたいだな」

「……」

リヴァイ様が私の頭を撫でます。

今日は、リヴァイ様の機嫌はすこぶる良いようです。

そうでなければ、リヴァイ様が帰ってきて早々に、私に話しかけるわけがありません。

「部下がいらねえと言っていた服を、引き取ってきた。
てめえのその趣味の悪い服も、そろそろ洗わねえとな」

今日は饒舌です。

本当に機嫌がいいようです。

もしかしたら、私が人形だから知らないだけで、彼
は実は、元々結構しゃべる方だったりするのかもしれません。

服に関しては、毎日洗われ、寝る間と服が乾くまで、簡素な寝巻きを、私は羽織らされていました。

彼は私の服を趣味が悪いと言いましたが、それ以上に人形らしくない寝巻きを着せるのが不満なようで、私がそれを着ているときは、いつだって彼はいつも以上に不機嫌でした。

それでも私の服を毎日丁寧に洗っていたのは、彼が一重に潔癖症だからです。

これは、見ていればすぐにわかりました。

彼の部屋はいつだって塵一つありませんし、あればすぐに彼が駆逐します。

私も動かないので、服がそんなに汚れることもない、正直、元々奴隷商の元でごみのような扱いを受けながら生活していた私からすれば、二、三日はこのまま着続けていても平気なくらいだったのですが、彼はそれを許しませんでした。

「…チッ、ここが汚れてんな」

いつの間にか近づいてきていた彼が、私の服を見て、そう言います。

正直、何が気になったのか私には全くわかりませんでしたが、どっちにしろ、それを聞くことは私にはできません。

すぐさま、彼が私の服を脱がせにかかってきます。

最初は、恥ずかしくてなりませんでしたが、慣れとは怖いものです。

今では下着を脱がされ、真っ裸にされても、何も感じなくなってしまいました。

彼も何も感じません。

人形の裸を見て興奮するほど、困っている方ではありませんから。

そのまま着ていた服は選択かごへ、彼が部下からもらってきたという服を着せられていきます。

ふわりといい香りがします。

もう、すでに洗ってきたのでしょう。

「よく似合うな」

着せられた服は、かなり落ち着いたワンピース。

頭を撫でられます。

笑顔を張り付けた顔が、人間らしくゆるみそうになりますが、どうにか堪えます。

リヴァイ様は、私を大事にしてくれていると思います。

だけど、それは人形として。

人間としてじゃないんです。

「……よく、似合う」

するりと私の髪を撫でて、ほんの少し口の端をあげる彼を見て、思わず泣きそうになります。

ねえ、私はあなたの誕生日プレゼントだったんでしょう?

なら、私があなたに贈られたあの日、あなたは何歳になったの?



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