※学パロ





「先輩…別れてください」

「え…?」







別れを告げたら彼女が壊れた







「何…?何か私、なまえにした?」

放課後の教室、わざわざ先輩を呼び出し、ああ告げた。

顔を一気に真っ青にさせたハンジ先輩が、わなわなと手を震わせながら近づいてきて、力なく私の肩を掴んだ。

「嘘だよね…?」

「…別れて、ほしいんです」

「何で!!」

がたん、とハンジさんに身体を揺すられ、ぶつかった机と椅子が音を鳴らす。

はっとしたハンジ先輩が、一言ごめん、と呟いてから一、二歩、私から離れた。

「でも、何でいきなり…」

「……」

言えなかった。

私たちの通う高校は共学で、でも成績の良い上位クラス以外は、全て男女別クラス。

ハンジ先輩はもちろん上位クラスで、男子生徒も同じクラスなわけだが、私は女子クラスだった。

端的に言うと、私はこの女子クラスでいじめられていたのだ。

レズだ、キモい、私たちに色目使うとかきしょい、と。

私の恋人は、ハンジ先輩だった。

何かと委員会などで話すうちに、私は彼女を好きになってしまった。

初めて女の人を好きになってしまって、私はどうしようもなくなって、この際と思い、彼女に思いを打ち明けた。

もちろん付き合ってほしいだなんて言わない、ただ、私の自己満足とはいえ、聞いてほしかった、と。

それこそ泣きながらそう伝えれば、彼女は私を抱き締めて、一言ありがとう、と言ってくれた。

嬉しかった。

私は、そこで正直満足だったのだ。

ひとしきり泣いた後の私に待っていた言葉は、こんな言葉だった。

「付き合おうか、なまえ」

驚いた、本当に。

聞いてみれば、彼女も私に何かしら特別な感情があって、告白されて、やっとそれが恋だと気づいた、と。

嬉しすぎた、こんなことあっていいのかと、本気で喜んで、私たちは付き合い始めた。

最初は、本当に楽しかったのだ。

当たり前だ、大好きな先輩と付き合えることになったんだから。

でも、時間がたてばたつほど、私は冷静に、かつ客観的になった。

言うまでもなく、私たちは女性同士。

もちろん公言はしなかった、それでもみんな、特に女の子は、異変には気づくものだ。

誰が最初に言い始めたのか、いつの間にか私とハンジ先輩が付き合っているという噂がたち始めた。

そしていじめが始まるうちに、私はハンジ先輩への愛すらわからなくなった。

だって、確かに女クラだが、この学校にも男子はいる。

なら、なぜわざわざ女の人なの?

ハンジ先輩が好きな理由が、かっこよくて優しいからなら、先輩以外にもいるんじゃないの?と。

でも、ハンジ先輩と会ってしまえば、やっぱり彼女が好きだった。

どきどきして、触れたくて、一緒にいたい。

これって、間違いなく恋だ。

間違いなく、私が好きなのは誰でもなく、彼女だった。

だからつらかった。

彼女と一緒にいると、いじめられ、愛を疑い、自分自身がわからなくなる。

なのに、会えば好きで、大好きで、止まらない。

「ねえ…答えてよ、なまえ」

「…ごめんなさい」

「何でだよ!私は別れたくないよ!!」

「私は、別れたいんです…」

「なら、ちゃんと説明してくれよ!じゃなきゃ別れない!」

「ごめんなさい!!」

「なまえっ!!」

涙声の彼女を見ないように背を向けて、教室を飛び出して走り出した。

先輩、大好き。

でも、これ以上に一緒にいたら、きっと私は壊れて、あなたを嫌いになってしまう。

それだけは、絶対に嫌なんです。

誰に言うでもなく、そう思いながら、私は走った。

明日からはもう、先輩と話せないかもな。

そう思うと、余計泣けた。




「ハンジとよりを戻してくれないだろうか」

「誰ですか…?」

ひとしきり泣いたせいで腫れた目を擦りながら、家を出れば、一人の背の高い、金髪の男の人。

同じ高校の、制服だ。

「もちろん、君にも事情はあるだろう。
だから、無理に、とは言わない。
ただ、彼女の一友人としての意見だ、検討してほしい」

「い、いや…だから誰なんですか」

「すまない、挨拶が遅れたな。
三年のエルヴィン・スミスだ」

「…は、はあ。
それで、何なんですか、いきなり…」

「ハンジの様子が昨日からおかしい。
おそらく、それは君と別れたからではないかと考えた」

「先輩、私とのこと、言ってたんですか…?」

だとしたら、裏切られた気分だ。

一応、私たちのことは、誰にも言わないようにしようと、約束していたのだから。

「いや。だが、見ていれば気付く」

「……」

「その分だと、私の予想は合っていたようだな。
とにかく、そういうことだ。それでは私は失礼する」

「はあ…」

そういって、エルヴィン先輩は行ってしまった。

なぜバレていたのか、なぜ私の家を知っていたのか、そもそも先輩の友人といっていたが誰なのか、色々聞きたいことはあったが、だからと言ってどうすることもできない。

私も登校しなくては。

何となくもやもやした気持ちのまま、その日は過ごした。



「なまえとかいう女はここのクラスか」

「だ、誰ですか…」

「誰でもいい、ついてこい」

「え、何で…!」

あの日から大体一週間後、一人でお弁当をつついていると、現れた黒髪の男子生徒。

彼も先輩らしい。

「あのクソメガネがおかしいんだよ…」

腕を無理やり掴まれ、三年生の棟の廊下を歩いている途中、何があったのかと問えば、聞こえてきた答え。

「メガネ?」

「ハンジのやつだ」

はあ、とため息が聞こえる。

「あなたも、よりを戻せっていうんですか?」

「あ…?そりゃお前たちの問題だろうが。
てめえらで何とかしろ」

「じゃあ…何だって言うんですか」

「あれだ…」

立ち止まる、ハンジ先輩のクラスだ…。

そう思い、思わず中をのぞく。

男女両方いる、女クラの私には何だか珍しく思えてきょろきょろとしていたが、廊下側の、私がいる位置とは逆の扉に近いところに、背の高い先輩に隠れて机につっぷすハンジ先輩を見つけた。

「ミケ…もうだめ。私死んじゃう」

「あまり気に病むな…」

「だめ…本当にだめ…!身投げしたい…!」

「心にもないことを言うな、縁起でもない…」

「私がどれだけ彼女のこと好きだったか、知らないくせに!ミケのばかあああっ!!」

「…エルヴィン」

「ハンジ…何があったのかはわからないが、振られてしまったなら仕方ないだろう」

「エルヴィンにわかってたまるかよお!?」

「女性と付き合い出したと言ったときから、不安だったんだ…。
言っただろう、上手くいかないかもしれない、と」

「でも…彼女から好きになってくれたんだ。
だから、私は、彼女は本気だって、そう思ったんだけど…」

声が大きいから、意外と内容が聞き取れてしまった。

はあ、というため息が、すぐ近くで聞こえた。

「おら」

「え、っちょ、待って、えっ!?」

がっ、と後ろから襟を掴まれた。

そのまま、押されるように教室の中に入れられる。

ハンジ先輩の目の前に連れていかれて、彼女の涙に濡れた驚きの顔が見えて、正直気まずい。

その気まずい理由には、もちろん、クラス中の視線が注がれていることもある。

「ええ、と…」

「なまえ…?何で…!?
リヴァイ、何でここになまえがいるの?」

「てめぇがいつまでたってもうじうじとうぜぇから、連れてきた」

「何で、なまえだって…わかって…」

「見てりゃわかる…」

「…なまえ」

「は、はい…」

どうしよう…どうすべきなんだろう。

「……」

「……エルヴィン…、私、どうしたら彼女に嫌われない…?」

「…なまえさん、だったかな」

「え?」

エルヴィンさんが話しかけてくる。

「何、でしょうか…」

「ハンジに、きちんと話してやってくれないか。
ここでは話しにくいだろうから、放課後にでも」

「……」

本当は、断りたい。

話したら、きっとぼろが出る。

わかってる、そもそも彼女に別れを告げたのは、私のわがまま。

だから、彼女を傷つけたくない、なんて本当に今さらなのだけれど、あんな自分勝手な理由で別れたなんて知ったら、彼女はもっと、傷つくと思う。

けれど、この状態で、断れるだろうか。

「わかり、ました…」

「…いいの?」

「はい…」

「…じ、じゃあ、放課後迎えに行くよ!
だから、今日は待っててね…!」

「…はい」

一礼して、早々に教室を出る。

あんな連れ出され方をしたので気まずいが、授業が始まってしまう。

そういえば、お弁当、食べ終わってなかったな。




放課後、人もまばらになってきた頃、少し気まずそうな表情をしたハンジ先輩が私を迎えに来た。

私は頷いて、無言で彼女に着いていく。

「あ、そ、そういえばさっ」

ハンジ先輩が、この重い雰囲気を壊そうとしているのか、無理やりなテンションで話しかけてくる。

「は、はい」

「今日、リヴァイがごめんね?
いいやつなんだけど、乱暴だし言葉遣いも粗暴だからさ、怖かったでしょ!」

「い、いえ…大丈夫です…」

「あと、エルヴィンもわざわざ家まで行ったなんて言ってたからさ、驚いたでしょ?
本当、ごめんねっ!?」

「あ、あの…平気なんで…」

「……ごめんね、なまえ」

「……」

また重い空気が戻ってくる。

連れていかれたのは、空き教室。

入ってから、二人とも、何となく居場所がなくて、何から話していいかわからなくて、居心地悪い思いをしていたが、ハンジ先輩が、こう切り出した。

「…死んでやろうかと思った」

「え…?」

「なまえが、別れるなんていうから、死んでしまおうかと、思ったんだ」

「いや…、そんな…」

「だって…好きだったんだ。
大好きだったのに、今だって愛してるのに、何で、なまえは別れようと思ったの?
せめて、その理由を教えてよ、何か私が悪かったら、直すから…」

「……」

目に涙を浮かべる先輩を見て、どうしたらいいのかわからなくなる。

「ハンジ先輩は、悪くないです…」

「なら、何で?」

「……」

「なまえ」

「私、」

迷った。どうしたらいいのか。言っていいものなのか。

「いじめられてる、んです」

「…っ!?何で!!」

「…レズだって」

「まさか言ったわけじゃ、ないんでしょ…?」

「言ってない、ですけど…。
先輩だって、言ってないのに、お昼一緒にいた人たちには、バレてたんでしょう…?」

「…あいつらとは、話が違うよ。
長い付き合いだから、私のことに、よく気がつくんだろうね」

「先輩は、」

「…ん?」

「女の子が、好きなんですか?」

「え?」

先輩が、きょとんとした顔をする。

「いや…わからない。
ただ、好きになったのが、君だった。
それだけだよ…」

「じゃあ、何で私なんですか?」

「好きだから、それじゃだめなの?」

「私、わからないんです…」

「なまえ…」

しゃがみこむ。涙が出そうだ。

「いじめられて、何で女の人を好きじゃだめなんだろう、って、すごく悩みました。
同時に、何でハンジ先輩じゃなきゃだめなんだろうって、そう思ったんです。
そしたら、ハンジ先輩のこと好きなのに、本当に好きなのか、わからなくなって…」

「なまえ、ごめん…」

ハンジ先輩が、私を抱き締める。

「なまえが、こんなに苦しんでいるなんて、知らなかった…。
私だって、あんまりになまえにべったりだから、レズじゃないかって噂になって、非難されたりしたけど、…私は、いじめられたり、したわけじゃなかったから。
だから、ただ大好きななまえと一緒にいられて、楽しくて、なのになまえは苦しんでいることに気づけなくて…恋人失格だ。
本当に、ごめん…」

さらに、ぎゅうっと抱き寄せられる。

安心する、反面、困惑した。

「なまえ、もう一度私と、付き合ってほしい」

「え…?」

「私が守るよ、今度は、なまえのこと、きちんと、私が。
楽しいばっかりが交際じゃない、今度はきちんとなまえの苦しみも、悲しみも、全部受け止めて、そこから私が救い出すから…。
お願いだよ、もう一度、私にチャンスをちょうだい…?」

「……ごめんなさい」

「何で!」

「ごめんなさい、先輩…。
私、このまま一緒にいたら、もっと悩んで、先輩のこと、嫌いになってしまいそうなんです。
なら、いっそ好きな気持ちを持ったまま、お別れしたい…」

「そんな…」

「だから、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい…」

そう言って、私を抱き締める彼女から離れる。

立って、礼をして、私は教室を出ようとした。

「、っ待って!」

「…」

先輩が、私の腕を掴む。

「離してください…!」

「嫌だよ!」

「何で!」

「お願いだよ、私を捨てないでよ…!」

「だから、私は…っ」

「愛してるんだ、わかってよ!
別れたくないんだ…!」

「鬱陶しい!!」

「っ!?」

あ、ぼろが出た。

「いつもいつも、鬱陶しいんですよ!
私だって先輩のことは好きだったけど、四六時中一緒にいたがるし、どこでも手繋ぎたがるし、そりゃバレますよ!
私は、あのかっこよくて優しいハンジ先輩が好きだったのに、付き合った途端、すっごいしつこいし、だからもう、嫌だったんです!!」

「なまえ…!」

だめだ、言ってしまった。

そう、彼女は、私への依存が過ぎていた、鬱陶しく感じていたのだ。

好きだけど、しつこくて少し辟易としていたところで、無視や仲間外れといった典型的で陰湿ないじめ。

別れたくもなるだろう。

「なまえ、そんな…ただ、私はなまえが好きで…」

「それは、わかります。
でも、もっと距離感がほしかったんです…」

「……わかった、気を付ける。
気を付けるから…捨てないで…」

「だから、そういうところが嫌なんですってば!
私が嫌だって言ってるんだから、男らしくすっぱり別れてくださいよ!

「男らしく、たって…私、男じゃないよ」

「…っ」

無意識だった。

無意識に、思わず。

「、ごめんなさい。
私、先輩を男の代わりにしたつもりは、なかったんですけど…」

「…別に、いいよ。男の代わりでも」

「えっ?」

「制服はどうしようもないけど、女装癖のある彼氏だとでも思えばいい。
言葉遣いだって、男らしくしてやるよ。
一人称だって、僕とか、俺に変えたっていい…」

「い、いいですよ、そんなの!」

「なら!どうしたら私はなまえを繋ぎ止められるんだよ!?」

「…そん、な」

「無理なんだろ、だめなんだろ!?
だったら死んでしまいたいよ!
それでも、幸い私には研究っていう生きる糧があったし、友人にも恵まれてる!
だからこうやって生きていられるし、学校にも来れるけど、それがなかったら、どうなっていたことか…!
嫌なんだ、好きなんだよ、別れたくないんだ!
君はこれが嫌なんだって言うけど、どうしようもないだろう!?
君から告白してきたんじゃないか、それで私は自分の気持ちに気づいて、こんなに君が好きになってしまったんだよ?
責任とってよ、一緒にいてよ!!
じゃなきゃ、私何をしてしまうか、わからないよ!」

「先輩…っ!」

怖い。

何でこんなに、私なんだろう。

先輩は、変な人だから、 煙たがる人もいた。

けど、かっこよくて頭がよくて優しくて、だからその分人気もあった。

なのに、告白したってだけで、なぜ私なの?

「何で、君じゃなきゃだめなんだろう。
何で、君だけがこんなに好きなんだろう。
わからない、わからないけど好きなんだよ…!
嫌わないで、捨てないで…!
私を見捨てないでよ、傍にいてよ…」

「先輩…ごめんなさい…」

「…そう、だめなんだ」

「……ごめん、なさい」

「なまえ!!」

「っ!?」

「いいことを思い付いた」

「え…!?」

「エルヴィンが、早々に君のもとに行った理由、わかったよ。
さすがだね、私の本性を、私以上によく知っていたんだろう」

「何が…っ?」

「なまえが私を捨てるなら、私が無理やりなまえを私に縛り付けてしまえばいい」

「やめて…」

先輩の目が怖い、何かおかしくなっている人の目だ。

「これ、何だかわかるかい」

「何…?」

彼女の手には小さな小瓶。

「簡単に言おうか、毒だよ」

「…っ!?」

「私の専門分野は、ご存知の通り生物だ。
だけど、同じ理科分野なら、できなくはない…」

「え…!?」

「もし君をなくしたショックで、どうしようもなくなったときには使おうと、用意しておいたんだ。
とても大変な作業だったよ…。
でも、実験中は、君のことを忘れられるくらい、集中できるからね」

「まさか…」

「本物のはずないって?
まあいいよ、そうじゃないことを、今目の前で証明してあげるから…」

「何、どうするつもり…」

「こうするんだ」

彼女が瓶の蓋をあける。

それを、自分の口許に運んだ。

「やめて!」

「君の目の前で死んだら、」

「やめてよ!!」

「君の記憶に、一生私は残るよね」

「やめてったら!!」

「嫌だよ、なまえが私を捨てるなら、」

「捨てないからあ!!」

「えっ?」

「捨てないから、より戻すから!
だからやめてよ、そんなことしないで…!!」

「…本当に?本当にまた私と付き合ってくれる?」

「うん…付き合うから…。
付き合うから、そんなもの捨ててよ…!」

「なまえ…!!」

ハンジ先輩が、涙をこぼしながら叫んだ私を強く抱き締めた。

「嬉しい…!」

「……」

結局、私は彼女からは逃れられなかった。

あの毒が、本物かどうかはわからない。

でも、彼女ならあれを作るなんて、きっとたやすいこと。

目の前で、かつて愛した人が死ぬなんて、耐えられなかったし、それ以上に、私は間接的にとはいえ、人を殺してしまうなんてことは、できなかった。

彼女の腕の中で、考える。

きっと彼女は、もう二度と私と別れてはくれないだろう。

彼女が私に飽きない限りは。





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