【夏に映える】


吉継は、夏が嫌いである。
この、夏特有の湿気と暑さは、吉継の荒れ果てた肌にはあまりにも酷だった。汗をかけば痒さよりもむしろ全身には痛みが走るし、包帯を何度もかえなければじくじくと膿んでゆく己の身体を鬱陶しく思う。
外からの微かな風を迎えるために開け放った襖から、庭を見やれば夏の日差しが池に反射して眩しかった。まだ、他所に比べれば陽に当たらぬここは涼しいほうなのかもしれない。
吉継は大きく溜息をつくと、己の汗で濡れてしまった包帯をかえるべく着流しを脱いだ。さて、包帯を巻き取ろうとした時、どすどすという大きな足音が聞こえる。

(また、涼みに来たのか、ものずきなものだ)

吉継は足音を気にすることなく、包帯を巻き取り続けた。
丁度、茶色く変色した上半身が露出したと同時に、足音の主は彼の部屋に臆することなく入ってくる。

「刑部、いるか」

袴姿の、三成だった。
何をしてきたのやら、汗だくである。暑さからか、白い肌は上気しほのかに赤みを帯びている。三成は上半身が裸の吉継を気にすることなく、どっかと隣に座った。

「包帯をかえるのか?手伝おう」

「やれ、助かるわ」

吉継は、新しい包帯を三成に手渡した。
その白い手が慣れた手つきで、吉継の身体に包帯を転がしていく。この男は不器用だから、最初は酷く下手くそだったのだ。しかし最近は余程うまくなった。
ほとんど毎日のように吉継の包帯巻きを手伝っていたからであろう。
おもしろい男だ、と吉継は思う。病に侵された自身の肌を見ても全く動じず、いやな顔ひとつせずこの肌に触れる者など三成以外には居ない。

「ぬしも汗だくではないか。一体何をしてきたのだ」

吉継は着流しを肩にかけると、呆れたように言った。
近くで見れば、三成の髪の毛から汗が滴っている。吉継が、綺麗な手ぬぐいでも渡そうと立ち上がる。しかしそれを三成の手が制し、

「これを借りるぞ」

余った包帯の端で、顔を拭いた。

「家康に、手合わせに付き合えと言われてな」

「ほう、徳川に」

「やつは暑苦しくてかなわん。私は暑苦しいのは苦手だ」

それでも付き合ってやっている、ということは三成は家康のことが嫌いではないのだろう、と吉継は思った。
「暑い」と言いながら、着物をはだける友を、彼は見つめた。
このような炎天下でも、日焼けしない真っ白な肌に、一筋の汗が伝っていく様子がやけに艶っぽい。着物の襟を、仰ぐようにはたはたと動かせば、微かに三成の汗が香る。
思わず、ごくりと喉を鳴らしたことに気付き、「われはなにを考えているのか」と、吉継は心中で自らを戒めた。

「三成よ」

「なんだ、刑部」

「そのような姿を決して徳川に晒すでないぞ」

「・・・・・何故だ」

「ぬしが喰らわれてしまうわ」

「??どういう意味だ?」

わからぬ、と言った表情で、三成は吉継を見つめた。
しかし直ぐに、どうでもよくなったのかパッタリと畳の上にうつ伏せになると、彼は目を閉じた。すう・・・という寝息が、間髪入れずに部屋に響く。
吉継が、未だ汗に濡れた三成の胸元に触れる。

しっとりとした極細やかな肌を、指で転がす様に撫でていると、くすぐったかったのか三成の半開きになった口から微かな呻き声が聞こえた。
・・・・このように艶っぽい友の姿を他の者には見られたくは無い。
そう思ってしまう自身は、相当に嫉妬深いのかもしれない。



吉継は、夏が嫌いである。
友が、あまりにも無防備になるから。





END
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