【膝上争奪戦】


※"仮屋"の時雨さまに相互記念にて捧げます。いつものぬこがいます。







『…貴様は何者だ』

『刑部の猫だ』

目前にしたあやかしを見て、声が微かに震えた。
それは、刑部の部屋の前の縁側にまるで猫の様に丸まっている、私にそっくりな何かだった。
違うところと言えば、銀色の髪の毛の上に気色の悪い白い耳が付いているのと、長い尻尾が尻から伸びていることである。
それが、ゆっくりと顔を上げ、私を見た。可愛げなど全くないその鋭い瞳はまさしく私そのもので。

『貴様、あやかしか』

『さて、どうなのだろうな』

私にそっくりな猫は、起き上がると大きな欠伸をする。手の甲で、まるで猫が顔を洗うような仕草をするそれはなんとも奇っ怪なものだった。

『三成』

ふと、刑部の部屋から私の名を呼ぶ声がする。

『ぎょう…』

私が返事をしようとしたと同時に、あやかしはするりと身を翻し、障子を開け、刑部の部屋に入り込んだ。

『待て!!何故貴様が入る!?呼ばれたのは私だ!貴様は確か"たま"だったろう!?』

一体、あれはなんなのだ。
何故刑部の猫が私の格好をしている。
慌てて、刑部の部屋に入り込んだ。

『やれ三成。こんなに朝早くに何用か。ぬし、朝餉は食べたのか』

『そんなことはどうでもいい!それはなんだ!?』

『それ?』

私は刑部の側に寄り添うようにして座っているあやかしを指差して言った。
刑部はまだ起きたばかりなのか、少しはだけた着流しのまま、ぽかんとした顔を私に向けていた。

『これはわれの飼い猫ぞ。ぬしも知っておろ』

『違う!それはあやかしだろう!?気色の悪い!』

『何を言うておる…やれ、"たま"が怖がっておるわ』

刑部は呆れた様に呟くと、あやかしの頭を撫でた。
私の格好をしたそれは、猫の耳をひくひくと動かし、尻尾をぱたぱたと畳に打ち付けた。
その後、嬉しそうに喉を鳴らすと刑部に擦り寄る。
何故だか、とてつもなく不愉快な気分になった。

『貴様!刑部から離れろ!』

『………』

そう、叫ぶ。
あやかしは相変わらず不遜な瞳を向け、ニヤ、と笑った。
自分と同じ顔のあやかしが、あの様な嫌味な笑みをするなど、ゾッとする。
あやかしは尻尾を何回か振ると、こてん、と横になった。
刑部の膝を枕に、甘える様な仕草で猫の耳を擦り付ける。

『ぬしは暖かいな、"たま"』

刑部が穏やかに、あやかしを撫でる。
自分と同じ顔をしたあやかしは気色悪いことに『にゃあ』と鳴いて、刑部の腰に腕を回した。
すこぶる、不愉快だ。

『貴様っ!猫の分際で!』

『どうした三成、相手は猫ぞ』

『猫は猫でもあやかしだっ!』

『何を言うておる。これはただの猫であろ』

刑部の膝上を我が物顔で占拠するあやかしは、私を見ると、またニヤと笑った。
まるで刑部は自分のものだと言っている様な、そんな、顔だった。
『刑部は渡さんぞ』
そう、叫ぼうとした瞬間、視界がぐにゃりと歪む。
そこで初めて、それが夢であったのだと、気付いた。





******






われの部屋を訪れた三成は、朝から不快そうな顔をしていた。
何事か、と聞くと、嫌な夢を見たのだと言う。
まるでこどもだな、と笑うと、三成は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
今日の三成は、殊更に機嫌が悪そうだ。そんな三成をからかうのもおもしろいが、ここは黙って様子を見たほうがいいだろう。
そう思い、しばし友の横顔を見つめた。機嫌が悪くとも、彼の顔は美しい。しばし見とれ、溜め息をつくくらいに。
ふと、外に出ていた飼い猫が、部屋のなかに入ってくる。雪の中、歩き回っていたのだからさぞかし冷えているのだろう。
その小さな身体を抱こうと手を伸ばす。しかし、われが抱くよりも速く、三成が猫の身体をかっさらった。
「にゃあ」という潰れた声が部屋に響く。

「三成?」

猫を抱いたまま、三成はわれの膝を枕にして横になった。
猫は、三成の腕の中でもがき、にゃあにゃあと鳴き続けている。

「貴様にはやらんからな」

三成は、ふん、と鼻を鳴らした。膝枕をされたまま、われの顔を満足そうに見つめる。

「三成よ、なにをしておる」

「貴様は私のものだ、そうだろう刑部」

友の行動に、われの頭は付いていけぬ。
それに、いいオトコにそのように真っ直ぐ見つめられては照れてしまうわ。

「何があったのだ三成よ」

「貴様は私のものだと言っている!」

「ああ、そうよ。われはぬしの為に生かされているようなものよ、それとこの膝枕となんの関係があるのだ」

「そうだ、それがわかっているならいい。刑部は私のものだ、わかったか猫!」

「ぬしはどうしたのだ…相手は猫であろ」

われは呆れて溜め息をついた。
いつもは飼い猫の定位置であるわれの膝は、こどもの様なこの男の頭に占拠されてしまっている。
尚も抗議の鳴き声を上げる猫を抱いたまま、三成は珍しく笑った。

「見たか猫風情が。刑部は私のものだ」

「にゃあ」

三成の行動に、猫ですら呆れてしまったのだろう。
諦めた様な鳴き声が部屋に響いた。

「なんなのだ、ぬしらは……まこと、似ておるわ」

いつも猫を撫でる様にして、膝上の三成の銀糸の髪を撫でてやる。
三成は、満足そうに瞳を細めた。尚も撫でてやると、眠くなってきたのか、その瞳はゆっくりと閉じられる。
しばらくして聞こえてきた規則的な寝息。
見ると、三成の腕の中の飼い猫も眠っていた。

「やれ……厄介な猫が一匹増えてしまったな」

「…ん、刑部……」

三成の腕が、われの腰を掴む。その手から、飼い猫がほろりと落ちた。
驚いて、潰れた声を出した猫とは正反対の穏やかな様子で眠る三成は、本物の猫以上に猫の様だ。

「そんなことは本人の前では言えぬがな」

三成の、頭の重さと暖かさが、われの膝に心地よく伝わる。
まあ、たまにはこのように甘やかすのもよかろ、と心中で呟きながら、銀色の髪を撫でる。
飼い猫が不服そうに鳴いて、われの足先をぺろぺろと舐めた。





END





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"仮屋"の時雨様から、相互でお話を頂きましたのでこちらもお返しさせていただきました。
なんか…これでいいのかな(笑)すいません。猫化三成を出してみました。
こんなでよければお納め下さいませ。
ついでにあのぬこは化け猫なのでけっこう頭いいし色々できます。
軽い予言と、あと夢枕に出るのと、変身くらいは出来るのかなたぶん。
うちの三成、あんま頭よく無いからなあ(笑)賢いんですけど、世間知らずで馬鹿と言いますか。
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