【生か死か】






時折、骨の髄まで腐ってしまったのではないか。
その位の激しい痛みに苛まれることが吉継にはあった。
最初は、じっと座って我慢しているものの、段々とその痛みは鋭さを増してくる。
体内から、始終針で刺されるような激しい痛みにどうすることも出来ず、じっと堪えることすら困難になり、意味不明な語句を叫びながら不様に転げまわる自身はなんと哀れなことだろう。
かつては智勇兼備の武将とまで言われた吉継も、流石にこれには「殺してくれ」と叫びたい程であった。

(何故、何故、何故)

畳をがりがりと掻きながら吉継は心中で叫んだ。

(われだけがこのような苦しみを味わねばならぬ)

外の世界の、明るいこと。
小鳥のさえずり。
木々が穏やかに揺れる音。
綺麗な世界。
全てが、吉継にとっては残酷なものにしか見えなかった。
ならば、全てを壊してしまえばいいのだ。そんな考えに至るまでさして時間はかからなかった。
自身が不幸であることが変わらぬ事実なら、周りを、世界を、全てを、不幸に染め上げれば良い。

「……ッ、あ゛、あああああ!!!」

突如、内側からの強烈な痛みに吉継は叫んだ。
そうしたところで誰も来ぬだろうことは知っていた。こんな発作はいつものことであるし、何より不気味がってこんなところに来る物好きは居ない。
呼べは女中か小姓が医者を遣わしてくれるだろうが、呼んだところでこの痛みが収まるわけでも無い。

「…………刑部ッ!?」

「…………みつ、なり?」

(ああ、おったわ。かようなところに来る物好きが)

廊下から騒がしい足音が聞こえ、襖が開く。
寝転がったまま、濡れた瞳を向けると、外の世界の太陽の光が暗い部屋に差し込んで来る。
その光の中に必死の形相で立っていたのは、友、石田三成だった。

「…な、ぜ……ここに………」

我ながら下らない問い掛けをした、と吉継は思った。
彼がここに来ることに理由があるとするなら「吉継に会いに来た」
それだけだろう。

「……刑部、どうした、苦しいのか、痛むのか、医者を呼ぶか、私はどうすればいい、刑部!」

「…………」

三成の手が、吉継の身体を支えた。酷く心配そうな泣き顔が吉継の瞳に飛び込んでくる。
母を想う子供のような顔だった。

「刑部、刑部、刑部……」

「……三成よ……われを抱いておれ。それだけでいい。……暴れたら強く抱きしめよ、それで少しは楽に…………あ、あ゛、あ゛!」

「刑部ッ……!!」

言われた通に、三成は吉継の細い身体を抱きしめた。
また強烈な痛みが押し寄せて来て、吉継も力の限り三成を抱きしめた。
三成に縋り付いて、時にその背に爪を立て、掻き、耳元で叫びながら、痛みに堪えた。
三成は痛みを訴えることもせず、身じろぐことすらせず、暴れる吉継の身体を強く抱いていた。

(いっそ、このまま死ねればいいのだ)

混濁した意識の中で、吉継は思う。
このまま、三成に圧迫され死ねればどんなに幸福なことかと。
このまま愛想を尽かして、首をかっきってくれてもいい。
三成に殺されるのなら本望だった。

「……刑部ッ……!」

(しかし間違ってもそんなことは言えぬ)

……われが居なくなったら、誰が三成の世話を焼く。
この男はわれの言うことしか聞かぬ。
われが言われなければ、目の前の男は食べもせず、寝ることもせずに、衰弱死してしまうのではないか。
そんな考えが頭を過ぎり、吉継はいつも「殺してくれ」と言う残酷な言葉を三成には言えないで居る。


****


吉継が正気に戻ると、耳元で子供のような泣き声が聞こえた。
三成である。
大の男が、声を殺すことなく泣いているのだ。
未だその腕は吉継を強く抱きしめ離さない。
吉継は、爪を立てた彼の背中を撫でた。「刑部」と言う細い声がして、腕が解かれる。

「三成よ、すまぬな。もう、大丈夫だ。痛みは去った」

「…………」

三成は、吉継の顔を、涙でいっぱいになった瞳で見つめた。
しかしまた、悲しそうに顔を歪め、吉継に縋り付いてくる。

「刑部、死ぬことは許さない。貴様は死なない。死んではならぬ」

「やれ、わかった、わかった。ぬしは本当に可愛いやや子よ」

縋り付く三成の頭を、吉継は優しく撫でた。

(死ぬことは出来ぬ……)

われが死ねば、三成は今以上に不幸になる。
かの第五天の様に、壊れてしまうかもしれぬ。

(どんなに苦しくても、生きねばならぬ)

それは自身にとって、不幸と言うべきなのか、幸福と言うべきなのか……
吉継には判別することが出来なかったが、ただ生きて、縋り付いて泣きつづける愛しい友を守らねばならぬ。
それだけはわかった。




END


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電波っすね。
大谷さんは、三成に殺されるなら本望なんだと思う。でもそんなことはお母さんな大谷さんは息子な三成には言えない。
三成はどんなことになっても、一緒に戦場に立てなくなっても大谷さんには生きていて欲しいんだと思います。
結論。大谷さんの母性愛が半端ない。
ちなみにタイトルはド/ラ/ク/エ/4戦闘曲タイトルから特に考えなく取りました。
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