【腹下し】





*「関ヶ原」で下痢してた三成さんが可愛かったのでついカッとなって書いた。
*ほのぼの関ヶ原劇場
*ギャグ




どうも、三成の顔色が良くない。
この男の顔はいつも異様に白いが、今日は殊更、透けるように青白く見えた。
親友の異変に吉継が気付かない訳が無い。

「どうした三成。顔色がよくない」

「……黙れ刑部。別に腹など下していない」

「……やれ、下痢か」

「!?何故わかった!?」

「自身で言うたであろ……」

場所は関ヶ原。
今から戦が始まろうとする矢先であった。
三成は大袈裟に驚くと、半歩退く。
が、すぐに"ぎゅるるるるるる"と言う腹の奥底から鳴る音が響き、彼は片膝を地に付け、腹を押さえた。

「くっ……いえやすぅぅぅ……奴がこの先に居ると言うのに、なんだこの腹は……!腹など爆発しろ!」

すこぶる悔しそうに言うと、三成は拳を地面にたたき付ける。

「いや、爆発されても困るぞ三成よ……どうする、家康に下痢のことを伝え、戦を延期してもらうか」

「……ッ!?そんな屈辱……!ぐあっ……厠……厠は何処だああああ!」

ばったんどったんとのたうちまわる親友を、吉継は可哀相な生き物を見るような目で見た。
この状態で、家康と戦うなど無理だろう。

(家康とて甘い男。現状を話せば戦は延期となろうな)

転げ回る三成を無視して、吉継は家来に紙と筆を持つように命じた。
直ぐに持ってこられたそれで、文を書く。

(西軍総大将石田三成下痢につき戦を延期して頂きたく候……と。まあこれでよかろ)

「これを家康に渡せ。われは三成を連れて帰る故」

吉継はしたためた文を家来に渡すと、輿を三成のところへと進めた。

「しかし大谷刑部殿、戦はどうなさいます」

「延期だ。三成の身体が心配故。われらは佐和山の城へ帰る」

「は、はあ」

主君にそう言われてはそうするしかない。不安そうな顔をしたまま家来は文を家康に届けるべく走り出した。

「やれ、三成よ。帰るぞ帰るぞ」

「……なっ!?家康が近くに居るのに逃げるなど出来る……グアァァッ!は、腹がああああ」

「無理するでない。いい子だいい子だ、三成よ」

「イエヤスゥゥゥ……!」

吉継の数珠が、三成の身体を包んだ。
ふわり、と三成の身体が宙に浮く。
吉継は、その身体をゆっくりと輿に乗せ横たえてやった。
荒い息を繰り返す三成の柔らかい髪を撫でてやれば、微かに濡れていた。

「静かにしておれ佐吉、ぬしはいい子だ」

意識せずに幼名を呼びながら、吉継は三成の腹をさすってやる。
三成は身動きひとつせず、身体を痙攣させていた。どうやら、数珠の妖力で動きを封じられているようである。
三成を乗せせたまま、吉継はふわりふわりと戦場をあとにする。

「刑部殿は治部少輔殿に甘過ぎでは無いか」

「……いつものことだ、気にするでない」

家来達は苦笑いしながら呟くと陣を片付けはじめた。
どのみち、大将が居ないのだ。戦など出来はしないだろう。




****




「伝令ーーーー!殿、石田三成、下痢につき撤退した模様。この文を刑部殿の家来より預かり申した!」

「何……!?」

陣で仁王立ちし構えていた家康は驚きの声を上げた。
文を手に取り、じっと見つめる。

「ふむ。体調の悪い三成と戦など出来ぬ。戦は延期としよう……忠勝!ただかーーーーーつ!」

家康が叫ぶと、空中を舞って待機していた本多忠勝の目が赤く光った。
明かに人間では無いそれは大きな排気音を出し、家康の前に降り立つ。

「たくさんのえびフライを用意しよう!三成に栄養をたくわえてもらうのだ!」

「殿おおお!下痢に油ものはあまりにも残酷でございます!」

家来のツッコミに、家康は「そうか」と頷いた。

「では薬師に頼み、下痢止めを……水分補給に大量の果物を贈ろう!頼んだぞ忠勝!!!」

ウィン……という機械音を出し、忠勝は頷いた。
そのまま、背中から光を吐き出し宙へと飛んで行った。




その後、佐和山の城に大量のえびフライと果物、薬が届けられたという話だ。

「……えびフライをどうしろというのだ家康よ……」

「イエヤスゥゥゥ!!痛ッ!くそおおおイエヤスゥゥゥ!!」

「佐吉、佐吉よ、薬をやるからはやに寝よ」

「苦い薬などいらん!」

「いい子だから飲め、佐吉」

「むが、むがががが」

吉継は暴れだした三成を家来に抑えさせ、半ば無理矢理に、家康から贈られた下痢止めを飲ませた。
白目を向き痙攣しだした三成の銀色の髪を、吉継は優しく撫でてやる。

「さあ、寝よ」

瞳を細めながら、吉継は呟く。
家来いわく、二人の様子はまるで母子のようであったそうな。



END
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