【一部】







顔が、崩れ始めた。
そのような病だと言う。
業病だと。
前世に、罪深きことをした証であり、それが回り回って現世に現れたのだと。

(前世など、知ったことでは無い)

吉継は、幼少の頃から人より優れていた。
物事に聡く、武芸は優れ、人望もあった。

(われが現世で何をしたと言うのだ、われだけが、何故、このような)

全てが壊れたのは、この病が始まってからだ。
皮膚が崩れるだけならまだ良かった。脚すら満足に動かなくなり、不自由な生活を強いられた。
人は病を恐れて吉継を疎み、去って行った。あまりにも酷い仕打ちだと憎み、全てを怨んだ。
そのせいなのか、崩れた顔と同じように、性格もまた醜く崩れてしまったのかもしれぬと吉継は思う。

「刑部、居るか」

(やれ、屋敷を尋ねてくるような物好きは三成くらいなものだ)

吉継が振り返ると、不機嫌そうな顔の三成が立っている。
その眉間に刻まれているしわを見るに、相当に機嫌を損ねているらしい。
そういう時に、この男はよく吉継のところへ来た。

「どうした、三成よ。今日はことさら機嫌がわるそうだな」

「…………ああ。馬鹿が、また貴様の陰口を叩いていた」

「くだらぬ、捨て置けばいい」

「あまりにも腹がたったので、殴り飛ばしてきた」

「またやったのか、ぬしは……」

「…………」

三成は、吉継のこととなると感情的になることがしばしばあった。
時に、自分のこと以上に怒ったりする。前も、吉継の陰口を言った豊臣の下臣全員を殴り飛ばしたことがある。

「三成よ、何故われのためにそこまでする」

「別に貴様の為では無い。私の腹がたったからやったのだ。刑部、喉が渇いた。茶をよこせ」

三成はぶっきらぼうに言うと、吉継の前にどっかと座った。
吉継は、小姓を呼び茶を持つように命じた。

(茶と言えばあんなこともあったわ)

あの時も、この横柄な男はムキになっていたな、と心中で笑う。


*****


茶会が催された時に、この男は吉継の膿が入った茶をいっきに飲み干したことがあった。
茶を回し飲みしていた際、もはや発病していた吉継の肌を覆っていた腫れ物から膿が落ちたのだ。他の者達は病が感染するのを恐れて誰一人茶を飲まず、口をつけるふりだけをして茶碗を回した。
それを、吉継はやけに冷静な瞳で見つめていた。
悲しいとも、悔しいとも、思わなかった。いや、そのような感情を無理に心に押し込めていたのかもしれない。
茶が、三成のところに回された時だ。三成の瞳が、吉継をじっと見つめた。

(いくら友とは言え、三成もあれは飲まぬだろう)

あのような、気味の悪いものが入った茶など誰が飲むだろうか。
そう思い、吉継は三成から目を反らした。
その時、周囲の者の息を飲む音が聞こえた。
吉継がもう一度三成を見つめる。
彼が、吉継の膿が入った茶を高く持ち上げ、細い喉を鳴らして飲んでいた。

(まさか)

三成は、乱暴に茶碗を置くと、急に立ち上がった。
不機嫌そうな表情のまま、周囲を睨み付ける。

「……くだらん。刑部、行くぞ」

「三成」

「……こいつらは、どうしようもない馬鹿だ」

三成は無理矢理、吉継の手を取り、引きずるようにして茶室から出て行った。

「三成、何故飲んだ、あれには」

「……なんだ、刑部」

「われの、膿が」

「……貴様もくだらんことを言うな」

三成は、吉継の細い腕を掴んだまま、振り向くことなく、長い廊下をどすどすと歩き続ける。

「……あれは貴様の一部ではないか。私が飲み込んで何が悪い」

「…………ッ」

その言葉に、どれほど救われたことか。
奥底に隠していたはずの感情が、この男の前で爆発したように溢れ出した。
ただ、その感情の正体が、吉継にはよくわからなかった。もしかしたら「愛」というものに近いのかもしれない。

(この男は、間違いなく、われの友だ)

そう、思った。

「三成、われは」

吉継が、三成の手を強く握った。

「ぬしの為なら命を捨てても良いと、今、思った」

「……阿呆が」

その言葉に、三成は立ち止まり振り返った。
向けられた瞳は、あまりにも必死な色を映して、ギラギラと輝いていた。

「死ぬことは許さん」

「……さようか」

「死ぬな」

「……ぬしが言うならわれは死なぬ」

「当たり前だ」

三成は、不機嫌そうな表情を保ったままくびをかしげた。昔からこの男は、甘えている時にはくびをかしげる癖がある。
それが可愛らしくて思わず微笑むと「なにを笑っている刑部」と低い声が降ってきた。

「いや、なに、やはりぬしはおもしろい」

「……またか……貴様は昔から私のことを、おもしろい、と言うな」

「いや、本当におもしろいのだ。これはいい意味で言っている」

「訳がわからぬ」

三成は呆れたように言うと、吉継の手を離し、大きな足音をたてて何処かへ行ってしまった。
おおかた、照れていたのだろう。



*****




三成は、持ってこられた茶を、あの時のように高く持ち上げ、一気に飲み干した。

「三成よ、覚えているか」

「なんだ」

「ぬしがわれの膿を飲んでしまったのにはひやりとした」

「あれは貴様の一部だ。何の問題がある。貴様の一部だと言うことは私のものであるのと同じようなものだ」

「一心同体、というやつか」

「違う。貴様は私のものだと言うことだ」

堂々と言って退けた三成に、吉継は呆れたように微笑んだ。

「われは、"もの"か。まあ、良いわ」

三成は、またくびをかしげた。
ああ、甘えたがっているのだな、と吉継には直ぐにわかった。
ふいに、三成の手が、吉継の口元を覆う包帯をずらした。渇ききった、茶色く薄い唇が現れる。

「感染するぞ」

「……かまわん、その病も貴様の一部だろう。ならそれも私のものだ」

「やれ、ぬしには敵わぬな三成」

三成の細長い指が、吉継の唇をなぞるように優しく触れる。
三成が、端正な顔を近づけて来たので、吉継は目を閉じた。
唇が、重なる。
潤った、三成の唇は温かく、彼が生きているのだと伝えてくる。
三成自身も、その温もりを感じたくて接吻をするのだろうと吉継は思っている。
吉継は、細い腕を三成の背中に回した。

(まったくおもしろい男よ)

この忌むべき病も、三成の"もの"だと言うのなら、愛すべきものに相違無い。
吉継は全神経を三成の温もりに集中させた。自分が三成の一部として生きているのだと言うことを、ただ実感したかった。





END



―――――――――――――――



衆道になったwwwwwいや、ちがう。大谷さんと三成の接吻はあれです母子間のスキンシップです外国人と同じです。
なんかこう温もりを感じたいが為の行為……ってそれもうできてるだろお前ら頼むから結婚しろ。
茶会の話……鼻水って書いてたり膿って書いてたりするけど、大谷さんが鼻水流してるのあんま見たくないし、膿のほうが三成たん好きそうなので(?)膿にしました。
三成たんは大谷さんの一部なら喜んで飲むんじゃねっていう妄想。むしろ早くYOKOSE!的な
「きみのためならしねる」って大谷さんは思ったらしいので史実でもお前ら結婚しろ。
西軍勝て。
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