【年長者】





※佐吉……三成幼名
※紀之介…吉継幼名
※幼少期捏造につき注意。吉継さんはまだ発病してません。






「佐吉、どこにいる佐吉」

また、あの稀有な銀の髪色を持つ少年は何処ぞへと行ってしまった。
もう直ぐ夕餉の時間だと言うのに屋敷に戻る気配は無い。小姓の中でも年長者であり、何かと佐吉の世話を焼いていた紀之介は左右を見渡しながら叫ぶ。
返事は無く、途方にくれながらも紀之介は走った。
夕方と言えど、季節はまだ夏。紀之介の長い黒髪から汗が滴り、額を濡らす。

「佐吉ーーーーーーーーーー!!」

それを袖で拭き取ると、紀之介は大きな声で叫んだ。
返事は無かったが、代わりにガサリと木葉が揺れる音が聞こえた。
紀之介が、音のした木を見上げる。
だいぶ高いところの枝に座った佐吉が、拗ねた濃紫の瞳で紀之介を見据えていた。

「佐吉、さがしたぞ。そんなところで何をしている。もうゆうげだ。かえるぞ」

「…………」

佐吉は何も言わずに紀之介から目を反らした。その小さな手は、しっかりと木の幹を掴んで離さない。
こどもにしては目つきの鋭い、可愛いげの無いこの少年は誰に対してもこのような態度を取った。
その為か他の小姓達からは疎まれることが多く、いつもこのようにして屋敷から姿を消すのだった。
ただ、例外として秀吉と半兵衛だけには可愛らしい笑顔を見せる。

「佐吉、秀吉さまや半兵衛さまが心配する、はやにおりろ」

「……秀吉さま……」

主の名前に反応し、佐吉はぽそりと呟いた。

「そうだ、はやにおりてこい。いっしょにかえろう」

紀之介は笑顔を作ると、言った。しかし、佐吉は困ったように首を傾げる。

「どうした佐吉」

「……おりれぬ」

「なんだと?」

「……のぼってみたはいいが、おりれぬ。だから帰れなかったのだ」

予想だにしていなかった答えに、紀之介は笑いそうになるのを堪えた。
この少年は助けも呼ばず、ただ、ただ、途方に暮れて木の上でじっとしていたらしい。
自分が来なければもっと可哀相なことになっていたのだろう。

「佐吉よ……なら、なぜのぼったのだ」

「ほかのれんちゅうに髪のいろをばかにされたからだ。はらがたって、にげだしたかった」

「ぬしは阿呆だ」

紀之介はため息をつくと、その木を上りだした。すいすいと上り、あっという間に佐吉の元へとたどり着く。

「ここのえだに足をかけよ」

「…………」

「そんなへっぴりごしではだめだ。手をかしてやるから、ぬしの手をよこせ」

「…………」

近くで見る佐吉の睫毛は長く、顔立ちも、まるで女のような繊細さを持っていた。怖いのか、涼やかな眼が微かに潤んでいる。
その、白い手がそろそろと伸びて来て紀之介の手を掴む。
緊張しているのか、その手は微かに汗ばんでいた。

「左手を幹からはなせ、こちらの枝に手をかけよ」

「……こわい」

「こわがるな、われがいる、われがぬしをまもるゆえ」

その言葉に安心したのか、佐吉は紀之介の言う通に動き、あっさりと木の上から救われたのだった。




*****





「…………」

地上に降りた佐吉は、礼も言わずに紀之介から目を反らした。
そのまま、何も言わない。流石に温和な紀之介もそれには腹がたち

「こういうときは礼をいうものだ」

そう、言った。
佐吉は困ったように首を傾げると(どうやら癖らしい)、「ありがとう」と蚊の泣くような声で言った。

「それでいい。かえるぞ佐吉」

「……かえりたくない、ばかにされる」

「かみの毛をか。半兵衛さまも銀の毛ではないか、なにをはじることがある」

「しかし」

「それに、美しいいろではないか。われはぬしのそれがきらいではない」

「…………」

佐吉は何も言わず、紀之介の手を強く握った。「かえる」と小さく呟くと、スタスタ歩き出す。

「こら、佐吉、ひっぱるな」

「紀之介、きさまはへんなやつだ」

「ぬしほどへんではない」

紀之介が笑いながら言うと、佐吉はまた拗ねた顔をして、繋いだ手を払った。

「いやすまぬ。ばかにしたわけではない。ぬしはまことにおもしろいやつだという意味だ」

「わたしはおもしろくなんかない」

「いやいや、ぬしはおもしろい男だ、われはぬしがきにいった」

紀之介がもう一度、佐吉の手をとる。佐吉は抵抗すること無く、紀之介と自分の繋がれた手をじっと見つめた。

「佐吉、もしまたばかにされたら木などにのぼらず、われに言え。まず、われのところへ来い」

「…………わかった、ありがとう紀之介」

佐吉は、恥ずかしそうな笑顔を紀之介に見せた。秀吉と半兵衛にしか見せないその笑顔は思いの外美しい。
初めて向けられたその笑顔に見とれ、ぼおっとしている紀之介を見て、佐吉はまた首を傾げながら「へんなやつだ」と微笑んだ。




END












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司馬遼の「三成は、左近を見、ちょっとくびをかしげてみせた。…………そのしぐさがひどく可愛い」に萌えた。ひどく可愛い。可愛すぎる!!なんだあの萌え小説!
甘える時はくびをかしげる三成たんハァハァ
大谷さんは三成より1〜2歳年上らしく、子供の頃はお兄ちゃんしてればいいと思います(^^)
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